トランプ「INF全廃条約」破棄表明で報道されなかった本当の狙い

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去る10月20日、トランプ大統領がINF全廃条約の破棄を表明したことは記憶に新しいところです。続く22日の米ロ協議ではプーチン大統領が反発の姿勢を示し、軍拡再燃を心配する報道も見かけました。しかし、軍事アナリストの小川和久さんは、自身が主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』でまったく違う見解を示しています。両大国が見据えるのは、やはりもう一つの「あの大国」のようです。

INF全廃条約破棄後の米国の狙いとロシアの思惑

10月25日号のミリタリー・アイで「無計画な米国のINF全廃条約脱退」として西恭之氏(静岡県立大学特任助教)の分析を紹介しました。

米国の中距離核戦力(INF)全廃条約脱退については、読者の方から質問も寄せられていましたので、今回は非常に大雑把ですが、米国側の狙いと、それを受けて立つロシア側の思惑といった角度から眺めてみたいと思います。

トランプ大統領は10月20日、INF全廃条約の破棄を表明するにあたって、「中国とロシアは核戦力を増強しているが、米国だけが条約に縛られて身動きが取れない」と、その理由を明らかにしました。

INF全廃条約は1987年12月8日、米国のレーガン大統領とソ連共産党のゴルバチョフ書記長の間で調印され、1988年6月、発効しました。対象は、500~5500キロの射程距離を持つ地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルで、核弾頭型、非核弾頭型の双方が含まれます。相互査察も条件とされました。

そして、1991年6月1日までに2692基(うちソ連1846基)が廃棄され、その後は海上・空中発射型の巡航ミサイルが主流になっていきます。さらに米国は2010年、艦船から発射される海上発射型の核弾頭型トマホークの廃棄に踏み切ります。

ところが、トランプ大統領の立場から見れば「それなのに、ロシアは条約に違反する動きを続けている」ように見える動きが続いていたのです。

ロシア側は否定していますが、新たに開発された9M729(SSC-8)という地上発射型の超音速巡航ミサイルの射程は500キロを超えていると伝えられています。航空機・艦船発射型の超音速巡航ミサイルPJ-10ブラモス(射程300キロ以上)も発射装置さえ陸上に置けば、そのまま条約が禁じている地上発射型中距離核戦力に転用できると米国側は見ています。超音速巡航ミサイル9M729(SSC-8)はすでに2つの部隊が編成され、ボルゴグラード近郊ともう1カ所(不明)に配備されていると伝えられています。

22日には、米国のボルトン国家安全保障担当大統領補佐官がロシアを訪問し、パトルシェフ安全保障会議書記、ラブロフ外相と協議に入り、プーチン大統領とも会談しました。その後、プーチン大統領は「(米国が欧州に新たにミサイルを配備すれば)同等の措置を取らざるをえない」「米ロ間で軍縮を定めた条約の解消が続けば、軍拡競争を招く」と強く反発する姿勢をのぞかせることになりました。

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