米ロ双方に漂う確信犯的雰囲気に注目
ここまでの流れを報道だけで眺めると、米国とロシアの激しい非難の応酬の末、お互いが条約を破棄して、軍拡競争が再燃するのではないかと心配になります。事実、そのような懸念を伝える報道は少なくありません。
しかし、ボルトン補佐官とラブロフ外相、プーチン大統領の画像を仔細に眺めていくと、お互いに笑みをたたえながら談笑しているシーンが見られるのです。「それは大人だからだよ。いがみ合ったりしないよ」という声が聞こえそうですが、確かにそうかもしれませんし、そうではないかもしれない。私には、米ロ双方に漂う「確信犯」的な雰囲気をこそ、注目しておくべきではないかと思うのです。
表面的に激しく対立する姿勢を見せる米ロ双方は、いずれは着地点を見出さなければなりません。そこで浮上してくるのが、仕切り直しの方向です。
どちらも軍拡競争などまっぴらゴメンですから、新たな条約が締結されるのは望ましい方向です。しかし、いまの条約の継続という形には戻らず、新しい条約のもとに双方の利益になる方向を見出そうということになる可能性は、少なくないと思います。
それは、米ロだけでなく地上発射型の弾道ミサイル、巡航ミサイルを持つ中国、インド、パキスタン、そしてイラン、北朝鮮を引っ張り込んで規制してしまおうという多国間条約です。
特に中国は、いまの条約に拘束されない立場にあって、「空母キラー」 の異名を取る対艦弾道ミサイルDF-21D(射程1500~2700キロ)を実戦配備したと言われています。地対地巡航ミサイルCJ-10(射程1500キロ以上)も、米国にとって規制しておきたい対象でしょう。
このように考えると、トランプ大統領が唐突に打ち上げたように見えるINF全廃条約からの離脱表明も、中国の規制が主眼だと判れば、得心がいくところがあります。米国とロシアは2007年にも国連安保理事会に多国間条約を提案しようとしたことがありますが、このときは実現に至りませんでした。
また、今回の離脱表明に関連して、米国は「中国のミサイルを条約によって規制するつもりはない」と言っています。しかし、中国の立場で見るとINF全廃条約が破棄され、米ロが軍拡の動きを見せるほどに不安になるのは確かで、タイミングをみて多国間条約に加わることは大いに考えられると思います。
INFをめぐる米ロと中国の動きは、日本の外交・安全保障政策にとって大いに参考になるはずです。(小川和久)
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