先日閣議決定された、出入国及び難民認定法の改正案。これにより、単純労働を含む外国人労働者の受け入れが拡大されることになりますが、彼らの「住居」を巡り私たち日本人にもある覚悟が求められるようになるとするのは、無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』の著者でマンション管理士の廣田信子さん。その「覚悟」とはどのようなものなのでしょうか。
外国人入居者増でウェルカムパーティが当たり前に?
こんにちは! 廣田信子です。出入国管理法の改正案(まとめて外国人活用法案…と言っていますね)が国会を通ると、外国人の労働者、永住者が確実に増えます。これは、マンションにも大いに影響があります。居住者・組合員に外国人の方がこれまで以上のスピードで増えるということです。
日本では、外国人の不動産購入に制限がありませんし、管理組合は購入者に条件を付けられません。そして、所有者が持つ権限は大きいのです。
外国人の方を雇用している企業が、マンションの一室を買って外国人労働者を住まわせる…長く永住するつもりの外国人が自ら住戸を購入する…ということが、今後ますます増えるでしょう。その勢いは、私たちの想像を超えると思います。
それが、マンションの空室対策になって、市場価格の下落を防ぐことになる…という方もいますが、そううまくはいかないような気がします。便利な立地の小規模なマンションにニーズがあり、ファミリータイプの郊外型マンションの空室を減らすのに効果があるかは微妙です。
でも、日本社会が外国人の労働者を本格的に受け入れるということは、マンション住民、管理組合にも覚悟が必要だということです。積極的に外国人の組合員と関わって価値観・生活習慣の違いを理解していこうという覚悟です。同時に、外国人の隣人に、日本的な思いやりや誠実さを伝えて、それを理解してもらうことも重要なのです。
と書いていて、今、日本人同士でも、価値観が多様化していて、なかなか理解し合えないのに…。まず、自分たちのアイデンティティを確認することから始めなくちゃいけないのかな…と思いながらも、自分たちの集まって暮らすことへの基本的な考え方を、外国人の隣人に伝えていくためには、コミュニティの役割が大きいと改めて思います。
日本のマンションで生活を始める外国人には、共同生活の経験がない方もいるでしょう。分からないことがあって不安もあると思います。生活習慣の違い、ルールを知らないゆえの行動が、まわりの住民に不安や警戒感を与えることになります。お互いを知らないということが不信感につながります。
どんな人が隣に入居したか知りたくて管理会社に聞いても、個人情報の問題があって、なかなか答えてはくれません。やはり新入居した外国人の方から、まわりに挨拶をしてもらうのが何よりで、管理員さんや役員さんがあいさつに付き添ってあげるとスムーズにいくと思います。さらに、管理組合が居住ルールの説明会を兼ねたウェルカムパーティを開催することも必要になるかもしれません。
この話を聞いた管理組合の理事さんは…「でも、これは、別に外国人に限ることではなく新入居者が日本人だって、まわりに挨拶した方がいいに決まっている。ウェルカムパーティもいいと思うけど、なかなかその余裕がないんだよね。ただでさえ忙しい理事さんたちがそこまで手が回らない」とたいてい言われます。
日本人同士の場合、基本的なことは分かっているだろう…という妙な安心感があるから、新入居者への対応に必然性を感じなくて、面倒と思って進まないのでしょうが、外国人の方が増えたら、お互いの安心のためにウェルカムパーティ的なものが不可欠と思うようになるのではないでしょうか。
アメリカ社会で、ご近所に引っ越してきた方を招いてウェルカムパーティをする習慣が根付いているのは、相手が早く環境に馴染めるように…というだけでなく、隣人がどういう人か知らないと自分たちが安心して暮らせないという他民族社会ゆえの事情があるからだといいます。日本も、これから外国人の隣人が増えることを想定したら、ウェルカムパーティは必須になっていくかもしれません。
もちろん、それは、外国人入居者に限らず、日本人の場合も同じです。それが、外国人との間だけでなく、日本人同士、世代が違う住民同士が、お互いを理解し合うきっかけになっていくかもしれません。特に話さなくても常識で分かるはず…よく聞く言葉ですが、その「常識」が人によって違うから問題になるのです。最近は、夫婦でも、きちんとコミュニケーションをとって、言うべきことをアサーティブ(自分も相手も尊重しながら適切な場や方法で伝えること)に伝えていくことが重要だと認識されるようになりました。
話さなくても分かるはずという甘えが通用しない外国人の方が増えることで、マンションのコミュニティが新たな局面を迎えるかもしれません。管理組合運営上も、議案書を正確に読むのが難しい外国人の方のために議案書の内容を説明しながら手渡しをする…そんなことも必要になるかもしれません。だったら、高齢の居住者のところにも説明に行こうということになるかも…。なかなか、いいと思っても実行できていなかったことが外国人の隣人が増えることで、必要に迫られて実行に移されるかもしれません。
10年後、隣人は外国人…が当たり前の社会になっているでしょうから、どうせなら、それをマイナスにとらえるのではなく、プラスの方向に考えて、私たちも覚悟を決めるときなのかもしれません。
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