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韓国を徴用工問題だけで見るな。日本が見えない「大きな物語」

アメリカの中間選挙は予想されたほど「民主党圧勝」とはならず、トランプ大統領は「これまでどおり外交・通商問題を推し進めて行くことになる」とするのは、メルマガ『国際戦略コラム有料版』の著者・津田慶治さん。その先に見えてくるのは、「米中貿易戦争」後の中国時代の到来と、終戦宣言からの米韓同盟失効と南北統一、そして日本が中露2つの全体主義国への最前線になる未来……。津田さんは、そんな「大きな物語」を見据えた国内体制を議論すべきと警鐘を鳴らしています。

米中間選挙後でどうなるか?

11月第2週は、中間選挙の結果も予想通りで、FOMCの結果は12月利上げ確定となり、円安の割に株が高くない状態で引けた。それと「ねじれ」議会でどうなるか予想しよう。 中間選挙は、民主党が下院で多数、共和党は上院で多数になり、予想ほど民主党が強くなくブルーウエーブとはいかなかったが、予想通りの結果になり、それほどには株価の波乱はなかった

トランプ大統領の再選を考えると、40%程度の支持率でフロリダ、アイオワなど州知事が取れ良い結果だし、下院過半数を取られたことで、景気が悪化した場合でも下院のせいにできると考えたのか、トランプ大統領は「勝利宣言」をしている。

しかし、これで議会が「ねじれ」になり、不法移民への対策強化や中間層への減税は無くなるが、しかし、インフラ整備は民主党も推進であるし、対中強硬は民主党も賛成であり、トランプ大統領は進めることができる。また、外交・通商問題は大統領権限が大きく、議会の力は限定的であるので、トランプ大統領は大いに自分の考えを推し進めて、2020年の大統領選挙での実績としたいようである。

民主党も共和党も大きな政府の政策となり、少し昔の共和党茶会派などの赤字予算を止める勢力がいなくなり、大きな政府の方向に米国は行くことになる。中間層への減税がなくなるので、少し赤字幅は少なくなるが、国債の発行量が増えて、10年国債の金利は上昇することになる。金利が3.26%を越えると株価下落は10月に証明されている。

その上、当分、FRBが短期金利を上げるとそれにつれて長期金利も上がる可能性あるので、早期に金利が3.26%になる可能性もある。 FRBは12月の利上げは行うとしたが、中間層向け減税がなくなり、景気過熱感が少し薄れて、景気の腰折れが少し先に延びた可能性もある。景気過熱でのインフレがないなら利上げも急いでする必要がなくなり、来年の利上げ間隔が広がるか停止すると見る。これにより景気後退は、来年後半かもしれない。

株価の動向

NY株は、10月3日に26,651ドルと過去最高値を付けて、10月26日に24,688ドルまで下がり、11月8日26,277ドルまで戻したが、11月9日25,989ドルと下げた。中間選挙を終えて、不安定要因がなくなったことで上げたが、FRBが12月利上げを決めたことで金利上昇を意識されて下げている。

しかし、適温相場の継続なら、ウォール街は強気継続のようだ。バブル終盤、株価が一番上がることが過去の歴史から明らかであり、まだ上がると見ているようである。それと11月買い4月売りというアノマリーもあり、それも強気の根拠の様だ。

このため、押し目買いでFANG株も再度上昇している。ウォール街は大暴落まで強気を継続するようである。ということでNYダウ株は10月3日の26,651ドルを上抜けする可能性が出てきた。FRBが利上げして、金利上昇で3.26%になるまで適温相場と見なすのであろうか。

一方、日経平均も10月2日に24,448円と6年ぶりの高値を付けたが、10月26日に20,971円と3,000円以上も下落したが、11月8日に22,583円まで戻って来た。日本には、FANG株のような優良銘柄がないので、米国とは違う動きになる。このため、10月2日の24,448円上抜けはないと見ている。

しかし、11月29日に行われる米中首脳会談で、予想とは違い米中での通商問題で劇的な合意が来たら、これは25,000円以上になってもおかしくない。日本企業の売り上げに占める中国企業の割合が大きくなっているからだ。

現時点で、決算発表をみると、実績は増収増益なのに、決算見通しでは、中国との貿易での減額修正が多く、日本企業の中国とのビジネス規模が大きくなっていることがわかる。中国と米国の貿易戦争は、その意味で日本企業にも大きな重しになっている。このため、上海株が下落すると、日経平均株価も下がる

まあ、米中での基本合意は難しいので、11月29日の首脳会談では、交渉開始するレベルの合意になると思う。それでも、株価は上昇することになる。 米FRBの利上げが12月にあり、金利差が広がり、114円以上の円安になると、そこでも株高になる。ということで、11月末から12月には23,000円に乗せる場面もあるかもしれない。米FRBが利上げを継続すると円安になり、日本は円安での悪性インフレになる可能性が出てくる。しかし、来年FRBが利上げを止めると円高株安になる。という意味では、11月買い4月売りというアノマリーは本当かもしれない。

中東情勢

米国はイランに対して、国際決済システム(SWIFT)へのアクセスを停止させて、ドルでの決済ができなくなった。イランと貿易する企業もこのシステムから排除すると言っていた。しかし、イラン原油を輸入している国でも9ケ国に対しては、当面制裁をしないとしたが、米国のイランへの制裁はかなり厳しい

EU、日本、中国などのイラン原油輸入国は、当初米国のSWIFTとは違う国際決済システムを作る方向であったが、制裁を緩和したことで、当面は別システムの構築をしないようだ。このことを交渉材料にして米国に譲歩を迫ったようである。

米国はトルコとの関係を回復し、サウジの反政府記者殺害で、サウジにカタールへの制裁を緩和させ、サウジとトルコの関係を修復する仲介をしているようだ。トルコはカタールを支援していて、この関係から対立している。

サウジはワハーフ原理主義のスンニ派でイランに対して厳しいが、トルコは穏健なムスリム同胞団のスンニ派でイランに対して寛容である。スンニ派と言いながら大きく違う。

しかし、この2つのスンニ派が対立していては、シーア派のイランに対抗できないので、トランプ政権のクシュナー上級顧問がイスラエル、トルコ、サウジを大同団結させるように動いているようである。

サウジがイエメン紛争に肩入れしているが、それも止めさせて、イラン打倒に向けたいようである。また、サウジは、米国の要請を受けて、OPECを解散して原油調整を廃止する方向に動き、原油価格を引き下げるようだ。この予測が出て、原油は1バーレル60ドル以下になっている。原油価格の引き下げをするのは、軍事費捻出に苦労するロシアに対するものである。米国はサウジをロシアから引き離したいようだ。

しかし、ロシアが中東地域に強力に軍事介入していて、誰もロシアには逆らえない。イランはシーア派地域を一体化して強力な軍事力を持っている。そして、ロシア主導のアフガン和平会議を開催して、中東での主導権を米国に見せつけている。勿論、この和平会談に米国は参加していない。 一方、米国は中東に空母を派遣できない。地中海にはロシア艦隊がいるし、ペルシャ湾はホルムズ海峡封鎖の可能性があり、紅海はマンダブ海峡封鎖の可能性があり、空母が近づけない。空母はアラビア海までであり、それならカタールの米空軍基地の方が近いし、効率が高い。 もう1つが、ロシアとの対決になる可能性があり、マティス国防長官は慎重である。 その慎重なマティス国防長官とケリー主席補佐官をクシュナー上級顧問やボルトン補佐官は辞任させようとしているようだ。中東政策が大きく違うことが原因であろう。そして、トランプ大統領は安全保障問題に興味がない

米国の通商政策

通商交渉では、日本に対して、20%の自動車関税で脅して、農産物の自由化を勝ち取ることを優先している。米国の大豆農家、牧畜農家の支持を得ることを優先する。自動車については米国での生産をするように求めるか、米国産日本車の輸入を求めてくる。

中国の次は日本とドイツに狙いを定めている。その中心的なテーマが自動車の輸入関税で脅して、農産物輸出を有利にすることである。 中国は、自由貿易を推し進め、知財権保護や自由化、関税ゼロ化などを推進していくことで、米国の関税UPを止めようとするが、そのスピードが問題になる。中国国内企業の保護はできなくなるが、中国企業の実力は相当に上がってきているので、自由化しても、中国の経済力が減衰することはない

米国の要求を実行する方向で、中国の指導層も覚悟を決めていると思う。このため、11月29日にトランプ大統領と合意する可能性もあり、両国ともに相手に対して強硬と思っている世界の政治家を驚かせる可能性もゼロではない。少なくとも交渉開始を合意するはず。

トランプ大統領の関心は通商問題だけであり、安全保障問題には興味がない。米国にとって経済分野で得か損かしか考えない。政治思想などはないからである。

トランプ政権で安全保障を考えているのはクシュナー上級顧問やボルトン補佐官とマティス国防長官などであり、その対立が先鋭化しているように見える。マティス国防長官は対中国を重視し、クシュナー上級顧問とボルトン補佐官は中東を重要視している。

米中通商問題で合意すると、世界景気は再度上昇してくる。株価も上昇して、民主党に下院を握られて穏健化するとトランプ人気は確実になるかもしれない。中国市場も開放されて、日本やEUにとってもよいことになる。

そして、確実に米国の時代から中国の時代になる。将来の歴史家は米国の対中貿易戦争によって、中国を強くしたということになるかもしれない。

しかし、ナバロNTC委員長は「中国との通商交渉に口出すな」とウォール街に警告したように、このストーリーを先に出すと中国の譲歩が少なくなると見ているようである。

北朝鮮代理人の韓国

韓国は、北朝鮮との統一を目指して、2ケ国が一番心理的に同意できる反日化の共同戦線を取り始めた。その上に、韓国の徴用工賠償問題で国際ルール無視という暴挙で、日米韓の3ケ国による北朝鮮への制裁は、実質的になくなり、韓国は日本が賠償しないなら、制裁を解除するとなる。

トランプ大統領も北朝鮮の非核化を急がないと発言して、徐々に当初の非核化はあいまいになっている。それと、制裁継続を望んでいるのは、日本だけになってきたようだ。このため、日本は中国に制裁継続を求めているが、日本を排除した5ケ国会議では、非核化のスケジュール化をしたことで、制裁解除、終戦宣言などになるようである。

終戦宣言で米韓同盟を失効させるので、朝鮮半島は中露の勢力範囲になりそうである。韓国と北朝鮮はロシアに近づき、中国をけん制することになる。

というように、北朝鮮の思惑通りになっている。韓国は北朝鮮の代理人を務めているように見える。

日本の評論家は、韓国の徴用工賠償と慰安婦問題だけを見て、朝鮮半島全体の動きを見失っているような気がする。大きな物語があり、その一部としての徴用工賠償と慰安婦問題と見ないと解決の糸口を失いかねない。

これにより、自由主義国の日本が、中露の全体主義国への最前線になる。その覚悟が日本には必要で、それを見据えた国内体制を議論して欲しいものである。

さあ、どうなりますか?

image by: little birdcage / Shutterstock.com

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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