政府が今国会での成立を目指す出入国管理法改正案。外国人労働者受け入れ拡大により人手不足にあえぐ日本経済を停滞から救うためとはいえ、その進め方については「拙速すぎる」との批判も上がっています。健康社会学者の河合薫さんは、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、「今のままでの拡大については反対」と立場を明確にした上で、その理由と「まず日本全体で考えるべきこと」を記しています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年11月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
人手不足は本当か?
外国人労働者の受け入れを拡大するための出入国管理法改正案の審議が、13日から衆議院本会議で始まりました。審議では安倍首相が、「近日中に示す外国人労働者の受け入れ見込み数が事実上の上限になる」と表明。立憲民主党・山尾志桜里議員は「『移民政策ではない』という無意味なワンフレーズでごまかすことはやめるべきです」と迫っていました。
…まぁ、ワンフレーズだろうとなんだろうと、移民政策ですよね。というか、日本は既に「移民大国」です。
国連などの国際機関では一般的に「1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住する」と定義しています。最新(15年)の外国人移住者統計で、日本への流入者は前年比約5万5,000人増の39万1,000人。ドイツ(約201万6,000人)、米国(約105万1,000人)、英国(47万9,000人)に次ぐ、堂々の4位です(OECD加盟35カ国)。
念のために今までの動きをおさらいしておきましょう。
受け入れ拡大の背景には、政府がこれまで原則認めてこなかった単純労働に門戸を開放し、2025年までに外国人労働者を50万人超増やす数値目標が存在します。
やれ「技能実習生だ」、それ「EPAだ」、ほれ「国家戦略特区による外国人の受け入れだ」、これ「留学生30万人計画だ!」などなど、これまで人手不足を補うための制度は次々と打ち出してきましたが、「きちんと法律で整備しよう」と、来年4月の導入を目指し、新制度を公表したのです。
具体的には、新たな在留資格として「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類を創設。
「特定技能1号」は技能実習生から移行することを基本と想定し、「相当程度の知識か経験」と「生活に支障がないレベルの日本語能力」を取得条件としています。上限5年の在留資格を与えられますが、家族の帯同は基本的に認められていません。
一方、2号は熟練技能が必要な業務に就く人たちで、実質「永住権」が与えられます。
では、本題です。今回の外国人労働者の受け入れ拡大については、あちこちで私の意見は明確にしてあります。結論を申せば、「ノー」。現状で拡大することには大反対です。理由は、政府、いや企業が欲しがっているのは「日本経済の底辺を支える労働力」であり、労働の冗長性を担保するための存在として「外国人労働者」が必要なだけ。
日本政策金融公庫総合研究所が18年に発表した調査結果によれば(「中小企業における外国人労働者の役割~『外国人材の活用に関するアンケート』から~」)…
- 外国人労働者を雇用している業種のトップは、「飲食・宿泊業」で25.5%。次いで「製造業」(24.3%)、「情報通信業」(13.8%)
- 働いている人の母国は「中国」が38%で最多。次いで「ベトナム」18%、「フィリピン」7.7%
- 男性が女性より多く(56.4%)、男性は「技能実習生」が7割、女性は「非正規」が6割
- 月給は「正社員」は「22万円超」が6割、「技能実習生」は「18万円以下」が9割以上
- 時給は「非正規」の4割が「901~1,000円」、「技能実習生」の5割が「850円以下」
- 「技能実習生がいない企業」の33.2%が、正社員募集時の月給提示額を「22万円超」としているのに対し、「技能実習生がいる企業」では12.5%と激減
- 「技能実習生」を雇用する理由のトップは、「日本人だけでは人手が足りない」(42%)、次いで「日本人が採用できないから」「外国人の方が利点が多いから」が18.8%
さて、いかがでしょう? これらの結果から、「技能実習生=低賃金労働者」であり、日本人がやりたがらない仕事を、技能実習生が穴埋めさせているというリアルがわかります。
そもそも二言目には人手不足、人手不足といいますが、外国人労働者を雇用している業種は、もともと離職率が高い。28年度の雇用動向調査(厚労省)で、離職者数のトップは、宿泊業、飲食サービス業で1,373.1千人。離職率は30%です。
やめる理由は「給料等収入が少なかった」「労働時間、休日などの労働条件」とする人が多く、特に前者は近年増加しています。
人手不足を理由にあげるなら、まずは「離職率を下げる努力」が必要不可欠。「ここで働きたい!」という職場を経営者が作ることです。
そもそも「実習生」なのに「解雇」とか、「実習生」なのに「過労死」とか、まったくもって意味不明。16年度に事故や病気で亡くなった技能実習生・研修生は28人。脳・心疾患が8人で、全体の3割が「過労死」と考えられているのです(「国際研修協力機構」の報告書)。
厚労省のHPには、
外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的としております。
とあります。どこが「開発途上国等の経済発展を担う『人づくり』」なのか。形骸化している「技能実習制度」はもはや不要です。
外国人が日本に増えることは大賛成です。でも、今の状態ではムリ。
職場環境を整備し、韓国のように「本当に外国人労働者が必要なのか?」を精査する制度を導入し、「労働力」としてではなく、「一緒に暮らす生活人」としてのコンセンサスを、政府、企業、そして私たちが持たない限り、ムリです。
「日本には見えない鎖国がある」「外国人は日本の弱者」などと、切ない言葉を外国人の方に言わせないためには、私たちが「自分たちの問題」として関心を持つ必要があると思うのです。
是非、みなさまのご意見、お聞かせください。
image by:Jenson / Shutterstock.com
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※『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2018年11月14日号)より一部抜粋