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入管法改正案、外国人労働者受け入れ業種と人数の「乏しい根拠」

11月13日、衆院本会議で審議入りした出入国管理法改正案。翌14日には同法案を巡り、政府が外国人労働者の受け入れ人数や対象業種を発表しましたがその根拠は明らかにされず、野党などからは批判の声が上がっています。この件について、新聞各紙はどのように報じたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析しています。

外国人労働者受け入れ見込み数を新聞各紙はどう伝えたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「首相「2島先行」軸に」
《読売》…「平和条約交渉を加速」
《毎日》…「日航、飲酒で12便遅延」
《東京》…「日ソ宣言基礎に領土交渉」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「北方領土 首相の決断」
《読売》…「外国人材 急場の試算」
《毎日》…「離脱交渉なお不透明」
《東京》…「34万人 根拠あいまい」

基本的な報道内容

菅官房長官は、政府が来年4月導入を目指す新在留資格のうち、熟練を認められ、長期の滞在が認められる「特定技能2号」については、現時点では「建設造船の2業種のみを想定していることを明らかにした。併せて、新制度全体では5年間で14業種の最大35万人を見込み、初年度は4万8,000人との試算も公表した。

「2号」の需要は本当にあるのか?

【朝日】は1面中央と2面のQ&A「いちからわかる」、4面に関連記事。16面社説。見出しから。

1面

2面

4面

16面

uttiiの眼

4面記事のリードは、今回の見込み数公表にまつわる最大の問題を端的に示している。「熟練した技能を持つ人に付与される『2号』の対象は2業種にとどまり、2号に比べ技術水準が低い『1号の労働者へのニーズが集中していることも明らかになった」としていて、新しい在留資格を作る狙いが「熟練労働者」ではなく、限りなく「単純労働者に近い労働者に集中、傾斜しているということだ。政府は「単純労働者を受け入れないというタテマエを保持したまま、各業界の労働力需要に応えようとした結果、タテマエを成り立たせる上でも、「熟練労働者」の「2号を設定せざるを得なくなったという理解だろう。ついでに言えば、「建設」や「造船」にしても、取りたてて「2号」が欲しいわけではなく、真の狙いは「1号」にあるはずだ。

2面記事の中に興味深い記述がある。野党のヒアリングで法務省が明らかにしたところによると、「2号」を想定した外国人労働者受け入れの対象業界が「建設」と「造船」だけになったことについて、「ほかに要望がないというのが理由だというのだ。浮かんでくるのは、「建設」と「造船」の「2号需要」なるものが、どれくらいリアルなものなのかという疑問だ。どの業界からも「2号要望」が上がらなければ、法務省官僚の立場はなくなるし、飽くまで「単純労働者は受け入れない」としている政府の立場も危うくなる。私が官僚なら、2つの業界に頼み込んで手を挙げてもらうようにするが、さて、実際はどうだったのだろう。

《朝日》は2面記事の後段で、技能水準の測り方について強い疑問を呈している。想定されている制度実施まで、残り4ヵ月ほどしかないというのに、各業界を所管する省庁で実施するとされている「試験がどのような内容と形式になるのか全く明らかになっていない。1号の希望者には「相当程度の知識または経験」、2号の場合は「熟練した技能」を持つか持たないかを判断する重要な「試験」の具体的な姿は、少なくともこれまで明らかにされてこなかった。山下法相は「所管省庁が緊密に連絡を取り合った上で今後決めていく」と答弁しているという。意味が分からない。

確かに業界も困惑しているだろうが…

【読売】は1面左肩に3面の解説記事「スキャナー」。見出しから。

1面

3面

uttiiの眼

3面「スキャナー」の見出しが「外国人材 急場の試算」となっているように、昨日の「受け入れ見込み数」の発表に対しては、さすがの読売も批判的なトーン。ただし、その批判は、業界団体の不満に気持ちを寄せた結果のように見え、「算定の基準や根拠は不透明で、業界団体からは新制度に対する注文も相次いでいる」とリードにあるように、制度の曖昧さが、人手不足解消を新制度に期待する業界を当惑させているというタッチ。業界は可哀想…なのか。

曖昧さの第一。政府は受け入れ見込み数は示したが、その積算根拠を示さなかった。第二。法改正が成立した後に政府が「運用方針」を決めようとしていることに対し、与党さえ不信を抱いているらしいこと。そして、「見込み数」については当面「受け入れ上限」にする考えを表明しているが、「運用方針次第で数字も変わりうること。その他にも、人手不足が解消した場合に受け入れを停止する仕組みが不明であること、業者ごとに細かく「受け入れ分野」を指定する方針とされているが、その全体像は全く明らかになっていないなど。困惑させられる材料はいくつもある

業界の関心は、人手不足解消によって、落ち込んだ営業利益を回復させることが第一だろうが、さらに次のようなこともあるようだ。「労働需給が緩み、人件費負担を軽減できるとの思惑もある」と《読売》は書いているのだが、このカチカチの表現の中身は、労賃を下げても人が集まるだろうということに他ならない。外国人労働者の導入によろうがよるまいが、「人手不足解消」には、労働者の賃金を下げる効果があるということだ。これは覚えておかなければなるまい。

それにしても、記事を通して、日本に働きに来る労働者には一掬の同情さえ示さないのはどういうわけだろうか。超いい加減な制度によって呼び寄せられ、不安定な状態のまま、もしかしたら低賃金で現場に投入されることになる働き手たちは、1人1人生身の人間だというのに。

技能実習制度が土台

【毎日】は1面左肩と2面関連記事、5面には関連記事と社説。見出しから。

1面

2面

5面

uttiiの眼

《毎日》では、5面の社説に注目する。社説子は、政府が初年度に受け入れを見込む「特定技能1号」は、評判の頗る悪い技能実習制度を土台としていることを見抜いている。

技能実習生は、3年の実績があれば無試験で「特定技能1号」に移行することができ、政府も少なくとも全体の過半数は技能実習生から移行すると見ているようだ。「特定技能1号」を見込む14業種のうち12業種で既に「技能実習生」が働いていること、また、「1号」になれば、「実習生」ではなく「労働者」となり、一定の条件の下で転職も可能になることから、実習生の失踪問題もなくなると政府は期待しているようだ。

だが社説子は、「研修の名の下で、低賃金長時間労働を強いる実習生制度を温存した制度はやめるべきだ。実態とは異なる建前を維持するのはおかしい」と批判する。この感覚は正常だと思う。

しかし、政府はこの制度を止めようとはしないだろう。最大の理由は、技能実習制度には公益財団法人国際研修協力機構が関わっており、ここが法務省と外務省の天下り機関になっているからだ。特に法務省の入管部門は天下り先が少ないとされていて、技能実習制度は彼らの「虎の子」になっていると思われる。

「上限はない」

【東京】は1面の左半面と、2面の解説記事「核心」その他。見出しから。

1面

2面

uttiiの眼

《東京》は、2面の解説記事の下に置かれたベタ記事に注目する。

法務省の担当者は衆院法務委での答弁の中で、今回の新在留資格による外国人労働者受け入れ見込み数については「大きな経済事象の変化があれば上限を超えることもあり得る」と発言したという。安倍首相が「上限」の運用について表明したばかりにも関わらず、その内容を否定しかねない。発言したのは佐々木聖子審議官で、審議官は「制度開始5年目の数字が上限となり、それを越えて受け入れることにはならない」と言っておきながら、「非常に大きな経済事象の変化があった場合には、(上限は)上にも下にも変わりうる」とも発言。

この種の発言には、よくよく気をつけなければならない。審議官は「上限」が上下にぶれる条件について、「非常に大きな経済事象の変化」としか言っていない。まあ、「非常に大きい」と言っているのだから、バブル期のような「沸騰するような好景気」か、逆にリーマンショックのような「凍り付くような不況」をイメージするが、これはなんとも言えない。具体的な「経済事象」を指摘していないので、実際にはもっと小さな変化でも、例えば「先手を打って上限を調整することはあり得るのではないか。政府は、業界が欲するものに対応する必要があると考えているのだろうから、もっと色々な理由、例えば「賃金が高止まりしてなかなか下がらない」というような状況で、人を増やそうとする可能性もあるのではないか。審議官の言っていることを突き詰めれば、「上限はない」ということ以上でも以下でもない。

image by: 首相官邸

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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