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アメリカを「仮想敵国」に。仏マクロン大統領「悪魔」発言の裏側

去る11月11日、仏パリで第1次大戦終結100周年式典が開催され、米トランプ大統領も式典に出席しました。しかし、独仏を中心とする欧州と米国の関係悪化がかえって浮き彫りになったと語るのは、『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者、島田久仁彦さん。国際情勢に詳しい島田さんは、各国が孤立主義に走り、国際協調主義が崩れようとしている「世界のいま」を解説しています。

マクロン大統領の“悪魔”発言で米仏関係に変化

11月11日、フランス・マクロン大統領の誘いで、パリ・凱旋門を舞台に「第1次世界大戦終結から100周年」の記念式典が開催され、トランプ大統領、メルケル首相をはじめ、関係各国首脳が集いました。また、これを機に「世界平和に向けた国際協調」を“確認”すべく、「世界平和のためのフォーラム」も開催されましたが、トランプ大統領は欠席し、国際協調主義に対して“無言のNO”を突き付けたとのイメージが強調されました。

その表れとして、主催者であるマクロン大統領は、「世界はまた、孤立主義という名の“悪魔”に対峙している」と述べ、世界で広がってきている自国中心主義やナショナリズムに対して警鐘を鳴らし、グティエレス国連事務総長は「国際協調主義の重要さ」を繰り返していました。また、IMFのラガルド代表理事も「さまざまな国際的な懸念に対し、協調の下、答えを見つけるのが国際機関の役割」と述べ、国際協調の重要さを説きました。

しかし、その場にはトランプ大統領はおらず、アメリカの“沈黙”は、この国際協調主義への訴えに対する「無言のNO」となりました。実際にトランプ大統領はTwitterを通じ、「アメリカは、アメリカ国民の利益を最優先に」と述べていますし、「国際協調主義は、アメリカにおんぶに抱っこで、一方的にアメリカに負担を強い、依存している」ともこき下ろしています。

実際にパリでの式典前に開かれたマクロン大統領との首脳会談では、「公正なNATOの負担率」に触れ、「各国は見合った額を支払うべき」との発言をし、従来からの主張を繰り返しました。さらに、マクロン大統領が、以前にもお話した「欧州防衛軍」の考えを述べた時には、「アメリカに対する侮辱で、挑戦だ」と非難しています。

これまで、年齢こそ大きく違っても、「ちゃんと話が出来る相手」としてトランプ大統領はマクロン大統領を評価していただけに、この“緊張感はあるが、認め合っているパートナー”としての両国関係の先行きに不安を感じさせることになりました。

それを受けてかどうかは分かりませんが、先のマクロン大統領の“悪魔”発言を引き出し、欧州防衛軍のニュアンスに加え、そこに貿易戦争もチラつかせ、アメリカをついにはロシア・中国と並ぶ“仮想敵国”の位置づけにしてしまったようです(「今後我々は、ロシア・中国だけでなく、アメリカも相手にして、欧州の存続を考えないといけない状況になった」というのがマクロン大統領の発言の意訳です)。

いまの欧州は第1次世界大戦直前のよう

同じ日、英国やポーランドでも、同様の式典が開かれました。英国では、第1次世界大戦で生命を賭して戦った兵士たちを悼み、ポピーの花のバッジを付け、エリザベス女王の隣席のもと、式典が開催されました。しかし100周年を迎えるに当たり、初めて“遺族”たちも、思い思いのメッセージを掲げてパレードに参加しました。(注:これまではあくまでも英国軍と退役軍人のパレードのみでした)。

Brexitの行方はまだまだ不透明ですが、100周年パレードを別途ロンドンで開催したのは、「英国」として自立していくための気概を示したのではないかとの見方がされています。マクロン大統領の「欧州防衛軍」構想には、英国は組み込まれていますし、それは共同主唱者のメルケル首相も同じ理解のようですが、肝心の英国は、「協力する」と表明するに留め、まだ“参加”(コミットメント)については発言していません。これまで以上に欧州に距離を置いているようにも感じます(もちろん、国内の対欧州をめぐる争いが、英国としての態度を表明できない理由なのですが)。

ポーランドについては、同じく欧州から距離を置き、独自に第1次世界大戦終結から100周年式典を執り行いました。常にポーランドは、EUにおいても、フランスやドイツと距離を置き、頭痛の種となりながら、妥協を引き出す外交をしてきていますが、最近になって、より民族主義的な対応を強めるハンガリーやルーマニアと連携を深め、欧州における分裂要因の核になりつつあります。

そこに常に“北”のEUに不満を持つイタリア、ギリシャ、スペイン、ポルトガルなどとの連携が強まる中、北西EUと東南EUという図式が明確になりつつあります。欧州の“分裂”というとBrexitに目が行きがちですが、このEUの2極化も欧州の統合に対し大きな懸念となってきました。

特に、最近になってよく言われることとしては、第1次世界大戦終結から100周年を迎える2018年は、第1次世界大戦がはじまる直前の状況に似ているということです。これまでの2度の世界大戦のときの様に、ユーゴスラビア(バルカン半島)が火薬庫にはなっていませんが(とはいえ、その火種には事欠かないのですが)、上述のように、EUの二極化が進むことで、火種が燻っています

そこに、ロシアが付け込み、難民問題を盾にトルコが影響力を発揮してきています。欧州防衛軍構想は、そのような外的な影響を排除し、“共通の懸念”であるはずの安全保障を欧州レベルで担い、再度分裂を避けるべきとのアイデアなのですが、出所がフランスとドイツということもあり、東欧諸国・南欧では支持を得ていません。

中南米は自国優先、アジアも緊張感高まる

目をヨーロッパ諸国の外に向けても“分裂”および“国際協調主義からの離脱”の動きは加速しています。中南米諸国では、メキシコの大統領に選出されたロペスオブラドール氏や、新たにブラジルの大統領になった極右政党のボルソナロ氏といった「反国際協調主義・自国優先主義」の候補が支持を集めました。

また、再度の通貨危機に直面するアルゼンチンも、IMFからの支援を受け入れることで危機を脱するという意見と、IMFにコントロールされたつらい過去を思い出して反対する意見が真っ向から対決し、分裂の様相が強まっています。

アジアでは、一時期、中国の一帯一路を軸に「親中国路線」の政府が多数を占め、地域的に共栄共存の雰囲気が醸成されていましたが、一帯一路の後ろに隠された中長期的な中国の“狙い”を嗅ぎ取ってか(勝手な思い込みという説もありますが)、今年に入りスリランカやモルジブ、バングラデシュなど「反中国路線」の政府が支持を集めてきています。

それにより、一帯一路も陰りを見せ、アジアは再度、それぞれが違った方向を見ている状況に戻ってしまった気がします。再登板したマハティール首相(マレーシア)やジョコ大統領(インドネシア)などが協調の雰囲気を醸し出そうとしていますが、それぞれに民族・宗教的な分裂を国内に抱えており、協調の核になることはできていません。

そして、北朝鮮問題は、日中韓の間に“楔”を打ち込むことになり、北朝鮮の暴発は避けたいという方向性は共有するものの、皆、違う方向を向いているのも懸念材料です。そして、中国も、アメリカとの貿易戦争や北朝鮮問題の先に、何を予感し、何に備えているか。非常にアジアも緊張感を高めています

確実に世界はまた多極化しています。第2次世界大戦後、より強固になったアメリカと欧州との環大西洋Grand Allianceは終わりを告げようとしていますし、中南米も協調から自国優先の分裂へと舵を切っています。アジアも、協調して大きな勢力圏になる可能性を秘めつつも、RCEP(アジア地域貿易協定)交渉での行き詰まりに表されるように、地域として進むべき方向を示せないまま、国際社会で漂流し、アメリカや中国、欧州諸国の趨勢に左右されています。

特殊なブロックを形成する日本にチャンスあり

そして日本も、アメリカや中国、ロシア、そしてアジア諸国、アフリカ諸国、中南米諸国などと“つながり”を強化しつつ、JAPANという特殊なブロックを形成している様な気がします。国際協調の体制を守るにあたり、そのような日本は大きなチャンスを握っているのですが、それを発揮できずにいるような気がします。

11月11日、第1次世界大戦終結から100周年を迎えた式典で、トランプ大統領、プーチン大統領、欧州各国の首脳が一堂に会し、笑顔で写真に納まりました。しかし、昨今の国際協調主義の衰えを受け、各国・地域が自国優先主義に傾倒していく中、もしかしたら、この集合写真が、最後の国際協調主義のシンボルになってしまうのではないかと懸念しています。

皆さんは、どうお考えになりますか?

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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