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誤報を認めない共同通信。真実に迫れない日本メディアの実態

2018年の夏に行われた米空軍と航空自衛隊の共同訓練を報じる共同通信の記事に「明らかな誤報があった」と指摘するのは、『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんです。問い質す小川さんに、共同通信側の説明は、ファクトチェックの甘さを表面化。25年前にも体験した持つべき基本姿勢が欠如した新聞記者とのやりとりに、暗澹たる気持ちになったと、今回のメルマガで綴っています。

真相や事実に迫るためメディアが取るべき基本姿勢

一般的には知られていない事柄について政府当局者や権威者が間違いを答えたとき、あるいは意図的に虚偽を口にしたとき、メディアはどこまで真相や事実に迫ることができるのでしょう。

ファクトチェックの関係で知り合った全国紙の幹部は、そういうケースだと「お手上げ」だと答えました。確かに、そういう場合もあるでしょう。しかし、私が専門分野としている外交・安全保障の場合、情報や知識の発信源の多くが米国にあります。そして、米国は情報開示の国です。なんとか肉迫することができるのではないでしょうか。

この夏、米空軍のB-52戦略爆撃機と航空自衛隊の戦闘機の共同訓練について、私と西恭之氏(静岡県立大学特任助教)は「核搭載可能なB-52としている記事は誤り」と指摘しました。

これに対して、記事を配信した共同通信は「米国防総省は核については明らかにしない」から真相はわからないとして「逃げ」を打ちました。これは「否定も肯定もしない(Neither Confirm Nor Deny)」という考え方で、その通りではあります。しかし、取材先を国防総省からさらに拡げていけば、米国とロシアの間で結ばれた「新戦略兵器削減条約(新START)」に基づいた対象兵器の現状が、米国務省が6か月ごとに公表している文書に明記されていることが判ります。

国務省の文書によれば、航空自衛隊機と共同訓練したB-52は核搭載能力を撤去した機体だということは、垂直尾翼に記されている所属基地と部隊の標識でも確認することができます。要するに、「核搭載可能なB-52」というのは明らかな誤報なのです。

さらに2回目の誤報では、共同通信は1回目とはまったく逆に「国防総省が明かした」と報じましたが、これは捏造に近い行為です。もし、国防総省が「否定も肯定もしない(Neither Confirm Nor Deny)」というポリシーを覆して取材に答えたとしたら、それこそ世界的な大ニュースのはずです。

私は共同通信が同じ誤報を繰り返したことについて、N社会部長に指摘しました。しかし、1回目の時は「記事できちんと説明したい」としていたにもかかわらず、2回目については返信さえしてこない不誠実さです。見そこなったよ、と言わざるを得ません。

共同通信ばかりではありません。25年ほど前のことですが、毎日新聞の防衛庁担当記者に「朝鮮国連軍について、外務省がどのような認識を持っているか確認して欲しい」と依頼したことがあります。私は、北朝鮮が韓国とともに国連に同時加盟したのは、米軍が北朝鮮を先制攻撃する兆候が感じられたとき、加盟国として国連に駆け込むことにより、国連軍としての米軍の行動に歯止めを掛けるためだと考えていました。

はたして外務省の回答は、「朝鮮国連軍は形骸化しており、米軍が北朝鮮を先制攻撃するようなとき、それに異議を唱えることはできない」というものでした。これは全くの間違いです。同じときに話をした韓国陸軍の高級将校は、米軍は「国連軍の首かせ」に縛られないよう、北朝鮮を挑発して先に手を出させ、「反撃」という正当な立場を獲得しようとするだろう、と言っていました。韓国も同様に考えているとのことでした。これは、国連軍の存在が米軍の行動を規制できることを物語っています。

毎日新聞の記者は、それ以上の取材をすることなく、外務省の見解をFAXで送ってきました。普通に取材する気なら、それほど難しくない話ですし、外務省側の無知を指摘できたと思うのですが、その新聞記者としての当たり前の行為もなされることはありませんでした。

私が直接、外務省に聞けば、やり取りの中で違った回答があったのかもしれませんが、毎日新聞の記者にはその姿勢と能力がなかった結果、レポーターならぬ「情報のポーター」と化してしまったのです。

私としては、外務省が新聞記者にきちんと対応できるかどうかをチェックしてみたかったのですが、新聞記者の側が誤報を防ぐ基本姿勢を備えていないようでは、前途は明るくないと言わざるを得ません。(小川和久)

image by: Allen J.M. Smith / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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