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現役アナが教える「ぬめぬめ」「ねばねば」に湿り気を感じるワケ

日本語の表現力を上げるために不可欠なオノマトペ=擬声語(擬音語、擬態語)の活用法が最近のテーマとなっているのがメルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』です。著者でアナウンサー歴26年の現役アナウンサー熊谷章洋さんは、オノマトペを上手に使うため、音の性質を理解することだと説明。今回は、ア~サ行の復習と、タ行からナ行について解説しています。

一流の話し手が利用する「音の性質」。ア~サ行

オノマトペの上手な使い方について、解説を続けています。前回は、日本語の音韻の性質が、オノマトペの性質に直結しているので、それぞれの音韻の性質をうまく利用すること、逆に、「音の性質に合わないオノマトペは、相手に伝わらない」というポイントに至り、日本語の音韻そのものが含んでいる性質について、それぞれ分析していくことになりましたね。

まず、ア行

子音が付いていない、アイウエオだけの状態は、音の性質は極めて中立的。素直で、尖っておらず、丸い印象。「ア行だけ」で構成されるオノマトペは、数少なく、ウオーウオー、オエオエ、エイエイオー。叫びや嗚咽など、声そのものに由来する言葉などが考えられます。

続いてカ行

調音点は、口腔内の奥のほう。奥舌と軟口蓋の隙間を狭めて、呼気で破裂させて、音を作っています。よって乾燥感、空気感はありつつも、空虚ではなく、ちょっと小さめの「物質感」を伴う性質です。

次に、サ行

前歯の隙間から息を強くすり抜けさせることによって、サ行の音を出していますよね。つまり、硬質なもの(歯)と空気が擦れる音。よって、軽やかで明るく、湿気が少ない印象になります。 例えば、紙や枯葉が、「カサカサ」。これはまさに、カ行とサ行だけで構成されていますが、

と、紙や枯葉が出す音を見事なまでに完璧に言語化できていますよね。

「タ行」と「ナ行」の音韻が持つ性質は?

では今回も引き続き、音韻それぞれの性質について、解説していきます。ア・カ・サときて、次はタ行です。

タ行の性質

チ・ツ以外のタ行の調音点は上顎の硬口蓋で、そこを舌先の平たい部分で弾く音ですね。ですから、チ・ツ以外のタ行は、比較的硬い物質に、軽めのものが素早く当たるような性質の音。

でも、カ行の「カンカン」「キンキン」のように、さらに硬度が高く周波数の高い振動ではなく、中音域の柔らかめの音色。また、「ダンダン」などと濁音になると、もう少し周波数が低くなり、重いものが比較的ゆっくり接触した振動がイメージされます。

小太鼓が「トントン」、小太鼓より小さい鼓は「テンテン」、大太鼓は「ドンドン」ですからね。

いっぽう、チ・ツは、舌の接触が軽くありつつ、さらに口腔内を狭めたり、あるいは歯の隙間から、強い呼気をすり抜けさせて出す音です。

などの性質がありますね。例えば、「チクチク」というオノマトペに、誰もが抱く印象は、尖った何かが、ピンポイントの小さな範囲に当たっている感触ですね。これもまさしく、チという音の性質と、カ行「ク」の音の性質、それぞれを併せて見事に表しています。

続いて「ナ行」

ナ行はタ行と同様に、硬口蓋を舌で弾いて出している音なのですが、(「ニ」においては調音点は少し奥)。タ行に比べてその接触面積と接触時間が長く、あたかも、「んな」「んに」と、前に「ん」の音が含まれているような印象を受けます。

それによって、ナ行の音の性質は、

も感じますね、「ぬるぬる」「ねばねば」「ぬめぬめ」などの湿気や粘性、「のっぺり」「ぬぼーっとした」など、鈍い印象、「ぬくぬく」といった温かみ、 また同じナ行でも、「ぬ」や「の」は、暗めの印象を与えるのに対して、イ段の「に」では、「にこにこ」など、比較的明るい性質を含んでいます。これは、他の行でも当てはまることが多いようです。

また、こういった音の持つ性質は、オノマトペに限ったことでもないようです。現代の日本語ではオノマトペでない、他の品詞においても、例えば、お湯が「ぬるい」には「ぬ」が含まれていますが、これはおそらく、ナ行の含む性質が、そのまま形容詞という形で固まっていったのではないかと、推測されるのですが、いかがでしょう?

音韻の性質を反映した言葉が多い日本語

このような音韻が含む性質から成り立っている日本語、オノマトペ以外にも、とても多いと思います。

私もいま、この記事を書いていて、あまりにも多くの日本語が、音の性質を反映していることに、改めて驚いています。特に「和語」「やまとことば」に、その傾向があるようです。

それに対して漢字を音読みする「漢語」では、

は感じますが、音韻から言葉の性質まで読み取ることは、少し難しく感じますね…。

そして漢語の持つそれらの性質は、使いようで表裏一体の結果にもなります。例えば、論理性は理屈っぽいにも通ずる、ということですね。

いずれにせよ、和語を使うにしても、漢語を使うにしても、口語を操るのであれば、その音韻の性質まで制御できるところまで、目指したいものですね。

image by: shutterstock.com

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アナウンサー歴30年、極限の環境で話し続ける著者が、実体験から会得した「話し方のコツ」を理論化。人前で話す必要がある人の「もっと〇〇したい」に、お答えしています。一般的な「話し方本」には無い情報満載。

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