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紙の本と電子書籍、商業誌と同人誌、どちらのほうが優れてるのか

日常の中にある「面白い科学」をいつもわかりやすく解説してくださる科学者のくられさん。今回の無料メルマガ『アリエナイ科学メルマ』では、いつもの科学の話とは少し違った話題、本についての裏話を披露。『アリエナイ理科ノ大事典2』の校正作業の体験から、「紙の本」や「出版業界」の良い点・悪い点を考察しています。

本の裏話 同人誌と商業誌

アリエナイ理科ノ大事典2』の校正作業をしてきました。だからという訳ではないですが、今回は本ができるまでの流れ…というのをお話しましょう。科学関係無いですがw。

本というのはご存じの通り紙に印刷されたもので、今でこそ電子書籍というものがありますが、Amazonが圧倒的なシェアをとったおかげで利益が全然出ないものになっているのは知られた話です。なので自分は応援する漫画は必ず読み放題では見ずにお金を払うようにしています。

まぁ、そんな舞台裏はともあれ、本というのは、現在の価値観からすると、いろいろおかしな点がいっぱいある落ち目のメディアです。せっかく本を作っても、利益はたったの10%しかありません。500円の本を1万部売って、ようやく50万円の利益になるわけです。同人誌なら50万円の利益を出すなら、500円の本が1,000部売れるだけで達成できます(経費はともかく)。この10倍近い収益差を見ると、出版社がめっちゃぼったくっているクソシステムで作者は搾取されている…みたいな風潮もあります。

じゃあ1万部は同人誌でも最近売り出すサークルがありますが、2万3万…10万のオーダーになってくると、在庫管理や全国への流通網そして書店であればどこでも注文できる…という強みは在庫の不安定な同人誌には非常に難しい点があります。要するに売れない本でも在庫としてある程度備蓄し続けて、売れている本の利益をそちらの販促などを行えれば良いのですが…それも難しくなっています。

現在、商業出版で利益を出す…ましてや満足のいく金額の仕事をするのは至難の業となりつつあります。言うまでも無く、みんな書店に行かなくなっていますし、読み放題サービスなどで個別の料金が発生しなくなり、「作家には非常に辛い世界になっています。

…どうしてこんなに辛い商業誌の仕事をするのでしょうか?もっと良い方法はないのでしょうか?

収益の面で見れば同人誌のほうが儲かります。ただ、紙の本…というもので、収益を上げていく時代はもはや過渡期を過ぎたものという意見は一理あります。

確かに未だに何百万部という売り上げを出す本はありますが、全体部数としては当然下がっています。それは海賊版が悪いとか、子供の活字離れとか理由をつければいくらでもあるのですが、単純に競合するメディアが増えてスピーディな展開では電子メディアに完全に押し負けたからだと自分は思います。

最新ニュースを原稿にして、それを校閲し、デザイナーがカッコいいレイアウトに流し込み、それを編集者が何度もチェックし、印刷所で紙に印刷される…。情報を伝えるだけであれば、WEBのほうが一足であり関わる人間も少ないので人件費も圧縮できますし、なにより早い。商業WEBでさえ今や遅いと言われる中、商業出版物で「ホットニュース」を配信するのは正直無理ゲーなのです。

故に雑誌がすたれるのは当然…本当に良いこと無しの商業出版物に見えますが、そうでもない点もあります。

まず表現にある程度の自由が認められること。ア理科でさえ現在の基準では、犯罪幇助だの、武器製造指南など、いくらでも表現規制的な言いがかりを付けることが出来ます。しかし、それを言い出すと、この世の全ての技術書は悪用したらアウトなわけで、そもそも論がおかしいことになります。

表現の自由以上に、知る権利の自由もあるわけで、そうしたものを「感情論」で封印することは非常に危険なことです。これが行き過ぎたものが極端な国粋主義だったりファシズムなどの台頭のきっかけとなります。そんなただのエロ規制や表現規制程度が…と思う人は歴史を勉強してみてください。ファシズムのきっかけは魔女狩りです。

そして出版社というモノを介していないだけで、同人誌は個人出版物なので個別撃破されやすくなります。公権力に個人はとても勝てるものではないのです。

次に、商業出版物はISBNコードで管理され、なんやかんやで図書館や国会図書館に収蔵され、歴史に残るということです。自分の生み出した怪物『危ない28号』も国会図書館に収蔵されていたりします(笑)。ようするに古くから存在するので業界団体がそれなりに機能して、それなりにモノが残る世界になっているということ。個人が作っているモノは残りにくいと言えます。

最後に…紙の本が個人的に一番大事だと思うこと。

それはパラ見できることです。検索機能も無い紙の分厚い本は一見非効率的な媒体に見えますが、情報密度は圧倒的で、電子の本では拡大して読まねばならないものも紙だと表示は簡単です。

またなんとなくパラ見したり何冊も開いて資料とする…ことも電子では非常に難しく、事典などはデータが重すぎてそもそもタブレットの動作が重くなるレベルで閲覧もサクサクとはいきません。

このあたりは次第に液晶(ないしELディスプレイ)、CPUの進歩などでカバーされるかもしれませんが、現時点では紙の圧倒的便利さという点だと思います。

自分も漫画も紙で買っているものと電子版で追いかけているもの、双方あります。ただ紙の漫画は、リビングでごろごろして手を伸ばしてまとめて取って机にころがして、そしてゴロゴロしながら自分のペースで楽しむ…ことができるのはやっぱり紙かなぁ…と思います。

これに関しては自分が古いだけかもですが(笑)。

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image by: Joysuw / Shutterstock.com

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シリーズ15万部以上の不謹慎理系書「アリエナイ理科ノ教科書」著者。別名義で「本当にコワい? 食べものの正体」「薬局で買うべき薬、買ってはいけない薬 」などを上梓。学術誌から成人誌面という極めて広い媒体で連載多数。

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【著者】 くられ 【発行周期】 週刊

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