世界勢力図が変化した2018年ですが、南北首脳会談、米朝首脳会談が行われるなど、朝鮮半島情勢も大きな動きを見せました。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴30年の日本人著者が、そんな激動の1年を振り返っています。
今年一年を振り返る
去年2017年の8月ごろからソウルを火の海にしてやるぞと威嚇的な発言を続けていた首領様。この首領様が今年2018年の年頭、「核のボタンはオレの机の上にある」と言ってのけたことから2018年は始まった。今年初めのころまでは、南の人々は(筆者も含めて)いつ北から核がぶっ飛んでくるのか、本気でヒヤヒヤしていた。
しかし2月9日午後8時。平昌冬季五輪が開幕すると状況は一変した。金委員長と血の繋がった妹、キム・ヨジョン(金与正)氏が金委員長の親書をもってきていたのだった。勿論相手は南の文大統領。「できるだけ早いうちに北を訪問してほしい」。それが親書の内容だった。ここから南北関係が双方のいがみ合いから仲良くしようやの方向へと大きく舵が切られる。
4月27日(金)午前9時半、板門店の南北境界線をまたいで南の文大統領と北の首領様(金正恩国務委員長)が劇的な握手をかわすことになったし、5月26日(土)には電撃的に第二次南北首脳会談が開かれた。このとき金委員長のソウル答礼訪問が約束された。「多くの人がソウルに行くなというけれど、わたしは必ず行く」と金委員長が語ったと韓国のある国会議員が明らかにした。が、今年中の答礼訪問は事実上困難となった。
そして6月12日にはシンガポールのカペラホテルで歴史的な米朝首脳会談が行なわれる。米朝首脳による共同声明に署名はされたものの、惜しくも声明の内容にCVIDの文言はなかった。CVIDとはご存知の通り「完全(Complete)かつ検証可能(Verifiable)で不可逆的(Irreversible)な非核化(Denuclearization)」を意味する英語の頭文字を並べた記号だ。
6月12日の米朝首脳会談の成功を見たあたりまでは、ああ、これで北の非核化もトントン拍子に進んでいくのかなと思わせるものがあったのだけれど、どうしてどうして、そうは問屋が卸さなかった。北の非核化および南北関係さらには米朝関係など、3人の中心人物(北、南、米)の関係は勿論、それを取り巻く中国、日本、ロシアなど脇役たちの関係も、そんなに具合いよく進んでいるとは言いがたい様相だ。
長く膠着状態が続いているので、文大統領の人気もかなり下がってきている。きのうも同僚の教授と昼飯をともにしたのだが、「ムン・ジェインがしたこと、何があるんだよ?」とちょっと喧嘩腰で筆者にのたまうのだった。韓国人でもない筆者にそう言われても返す言葉もないのだが、「いや、ソウル火の海説がなくなっただけでも、手柄っていえるんじゃないのかね」とわたし。核をぶっ放すぞとわめいていた首領様。勿論本当に核がソウルに飛んでくると考えている人はいなかったけれど、しかし尋常ではないあの首領様のこと、いつなんどき何があるかわからない、というのも大方の認識だった。上述の繰り返しになるが、金玉が縮み上がっていたことは今ここに白状するしかない。
それが監視警戒所(GP)撤去で、南と北の軍人が丸腰でお互いのGP撤去跡を検証するというこれまでは想像もできなかったことが現実に起きている。決して筆者はムン・ジェインのファンではないけれど、このことだけでも偉大なる成果といえる。さらに12月17日には南北鉄道連結のための基礎調査が終わり、12月26日には南北鉄道連結のための着工式が行なわれた。鉄道が連結されたとき、北の兵士が汽車に乗ってどっと南に攻め入り瞬時に南を赤化統一してしまうんじゃないのというギャグも今、南ではちょっと流行っている。でも、まあ、そうはならないことを願っているしならないであろうけれど、保守的な人々の中には結構本気で憂慮している方々もいらっしゃる。
南北関係以外では、1月末に一人の女性検事がJTBCという韓国一の有名テレビに出てセクハラを訴えた「#meToo」の動きが記憶に新しい。これを契機として韓国では「#meToo」の嵐が吹き荒れ、多くの男たちが芸能界を去り、名誉を汚し、命まで落とす事件も発生した。ノーベル文学賞の候補にもなってるような韓国文学界の重鎮も「#meToo」を契機に失脚していった。あらゆる分野で男たちのセクハラ問題が提起された。浄化された社会ができることを願う次第だ。女性が何も気にすることなく「普通」に生きられる世界が具現されなければならない。
一方、対日関係としては、10月30日に出された韓国の大法院(=最高裁)の強制徴用賠償判決問題がある。「賠償せよ」との判決だった。日本は当然のことながら強い不快感を表わした。この判決には筆者も正直驚いた。親韓的で有名な黒田福美氏も同様のようだ。なにしろ1965年の請求権協定を覆す判決となっているわけだから、どれほどの日本人がこの判決を快く思っているだろうか。韓国でもそのような立場でものを言う人がいるくらいだ。「解決している問題なのになんでまた今になって蒸し返してくるのか」という人(韓国人)が実際にいるのだ。勿論ごく少数派ではあるけれど。
ただし12月に入って、徴用賠償判決の話題がピタと報道に出てこなくなっている。韓国政府がマスコミに圧をかけているのか、自らすすんで報道しないコンセプトを立てたのか。わからない。テレビ新聞が報道しなければ、韓国の人もあまり興奮せずに時間の流れに任せることができるのだろうに。テレビ新聞がばんばん報道するから、ありもしない敵愾心が自ずから湧き上がってくることになる。理由はわからないけれど、今現在のようにあまり煽った報道をしないよう、韓国のマスコミ界にはお願いしたいところだ。
朝鮮半島で暮らすものにとっての最大の関心は南と北がいつ統一するかということだ。中国も米国も日本も皆、朝鮮半島の統一には消極的だと言われている。中国としては子分のような北がいなくなって統一朝鮮になるわけなのであまり気持ちよくはない。米国としてはこれも子分のような韓国がいなくなるのだから、武器も売れないし気分はイマイチだ。日本もそうかもしれない。今でさえ韓国からああだこうだといわれて苦労しているのに、これにさらに北が一枚加わっていっしょの声を上げられた日にはどうなるべという気持ち。
でも、人類として人間として地球村の市民として考えるべきだ。同じ民族が分断しているというのはあってはならない現象だ。必ず統一すべきだしそうなる。だったら早いとこいっしょになってもらったほうがいい。さらには国という区別もなくなる世の中が来るものと筆者は確信している。100年後になるか200年後になるかわからないけれど。本稿でも以前お届けした「統一の予言」によれば、だいたい2020年くらいから2025年あたりまでに統一することになっている。あくまで予言だけれど。
もう何年も前のことのような感じがするんだけど、スピードスケートの奈緒が泣き崩れるイ・サンファ(李相花)を抱き寄せるビジュアル。平昌オリンピックといえばあの場面しか記憶にないのだけれど、あの名場面が南北へと続き、さらに日本へと拡大されていくことを強く願いながら、今年最後のコラムを締めくくろうと思う。
読者の皆さん、よいお年を。そしてすばらしい新年(己亥年 つちのといどし)をお迎えください。
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