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日韓の衝突不可避、米が北攻撃?最後の調停官が2019年を大胆予測

去る2018年は「国際協調主義の終わりの“始まり”が明らかになり、自国優先主義に舵を切り始めた年」。そう総括したのは、メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者、島田久仁彦さんです。数々の国際舞台で交渉人を務めた島田さんが、米中関係や日韓関係をはじめ、複雑化、深刻化する2019年の国際情勢を大胆に予測しています。

2019年の国際情勢大予測

経済や金融に関係する予測は、読者の方々にもその専門家の方が何人かいらっしゃいますので、その方たちにお任せするといたしまして、私はその経済にも大きな影響を与えるであろう国際情勢の見通しについて語りたいと思います。

2018年最後にして、とてもショッキングだったのは、世界同時株安を引き起こすことになったトランプショックでしょう。これは、ロシアンゲートをめぐる捜査の進展という直接的な不安要因もありますが、FRB議長や財務長官の更迭の噂やマティス国防長官の辞任前倒しによる政権幹部から「国際協調派」が一掃されることにより、トランプ政権が一層America Firstの方向に傾き、そして米中貿易摩擦をはじめ、対日、対欧州各国などとの貿易面でのいざこざの激化、そしてそのあおりを食うことになる新興国経済へのとてもネガティブな影響に繋がります。

すでに2018年の新興国の経済成長率を見てみると軒並み悪化しており、特に東南アジア諸国経済はもうボロボロといってもいい危機的な状況に陥っていると言えます。今後2030年そしてその後の世界において、経済成長のけん引役と見られていた東南アジア諸国経済が崩れることで、非常に不安定な世界が生まれ、そして再度、世界は「自国第一」のブロック化が進む可能性が大きくなってきました。

その波は、東南アジア諸国のみならず、ラテンアメリカ諸国にも波及しており、メキシコのロペスオブラドール政権やブラジルのボルソナロ政権がナショナリズム政権であることで証明されているといえます。諸々の“連続性”が織りなす国際協調は薄れ、隣人から奪ってでも自国を富ませるという自国優先主義が拡大する一年になるような気がしています。

世界経済に影を落とす米中関係とBrexit

次に米中貿易摩擦の激化です。一応、先のG20首脳会合の際に開催された米中首脳会談で、追加関税の発動を2月末まで凍結することに合意しましたが、年の瀬を迎える現時点まで、ほとんど事務的な話し合いも含め、何も進展がありません。そして「いつ高級実務者会合が開催されるのか」という見通しも立っておらず、ナバロ氏の対中攻撃や、10月4日のペンス副大統領の対中宣戦布告ともとれる演説以降、ポジティブな動きはないというのが現状です。

そして、融和という幻を12月に入ってみた矢先、Huaweiの案件が持ち上がり、米中関係は、もしかしたら第3次世界大戦の前夜ではないかとの見解もちらほら出てくるほど、悪化しているようです。すでに両国経済には大きな負の影響が出てきていますが、すでに上述のように、対中貿易や対米貿易に成長を依存してきた新興国経済は、その存続が危ぶまれるほどの危険水域まで落ち込んでくる見通しです。アメリカか中国が摩擦を解消する以前に、もしかしたら、いくつかの新興国経済が破綻する危険性も見えます。

次に2019年3月29日に控える本格的なBrexitがもたらす世界にも、多くの不安定要素が潜んでいます。12月11日から13日の自身への不信任は乗り切り、そのまま13日欧州理事会に出席してBrexitの内容を協議したメイ首相ですが、2019年1月21日までにEUとの間で練ってきた案をイギリス議会下院で採決する必要性があり、目に見える進展がないまま、その日は迫っています。現時点では下院で「彼女の案」に過半数の支持が得られる見込みは低いとされ、その後2か月少しでどのような策を講じるのか、非常に難しいかじ取りが要求されます。

元首相のトニー・ブレア氏は再度英国民に対し離脱の是非を問う国民投票を急ぎ実施すべきと主張していますが、そのためには、メイ首相がEUに対した出した離脱のための通告をいったん撤回する必要があり、それをメイ首相は受け入れる様子はなく、時間だけが無駄に過ぎていくような気がしています。

このまま3月29日を迎え、合意がないままのHard Brexitが起こってしまうと、バックボーンとして準拠するべき決まりが存在しないことになり、関税同盟や人の移動の自由、金融市場の流動性などの根幹にかかわる問題が一気に重大な事態として英国とEUに襲い掛かることになります。

Open Sky協定で英国とEUの都市間の航空の自由化が存在していますが、欧州の航空当局は、Hard Brexitに備え、業界としてOpen Skyを支持する旨をすでに発表せざるを得ないなど、混乱はすでに始まっています。そして、Hard Brexitへの“恐怖”が、現在世界を席巻しており、2019年も混乱が予想される世界の金融・株式市場にこの上ない不確実性を与えることになるでしょう。

ロンドン・ブリュッセルの友人たちにいろいろと聞いてみると、以前に比べ、起こり得る最悪のケースに備える動きが強まってきています。もしかしたら、2019年の世界の混乱は、欧州・英国発の衝撃からスタートするかもしれません。

米朝協議の進展は?さらに、どうなる日韓関係

北朝鮮をめぐる情勢も非常に不安定です。1月末までに米朝首脳会談の開催を目指すとのコメントがワシントンDCからありましたが、その開催に向けた協議も進んでいません。またこの案件は、米中間の争いの影響をまともに受けています。中国と言えば北朝鮮の後ろ盾として機能していますので、米朝間の微妙な空気は、実は米中間の争いの縮図となっています。

そしてまた、「非核化」が意味する内容が米朝間では違うことも分かってきました。アメリカ側の理解(日本の理解)は、「北朝鮮が開発してきた核兵器をすべて廃棄し、そして核開発も不可逆的にストップ」という内容ですが、北朝鮮側の主張は、あくまでも「朝鮮半島の非核化」であり、これは韓国に駐留する在韓米軍の非核化も指します。

これに対し、マティス国防長官は“よほど大きな変化がない限り”と前置きしたうえで、在韓米軍が一兵たりとも削減されることはない、と言い切り、日本をはじめとする同盟国を安心させようとしてきましたが、その空気も、彼の辞任と、韓国の北朝鮮への傾倒が、非常に不透明で不安定なものにすることになるでしょう。

その微妙な空気の合間で、北朝鮮の核開発は“不可逆的なレベル”まで進められることになるでしょう。それが明らかになるのが2019年前半頃だと考えられます。そして、北朝鮮がまた東アジア情勢の混乱に乗じて核開発をさらに進めるような事態になると、日本の懸案事項である拉致被害者の問題解決も見通しの立たない戦いに戻る恐れが高くなります。

次に日韓関係の著しい悪化がさらに進むことになるでしょう。徴用工問題は、面白いことに外交問題から、韓国国内の政治マターに変容してきましたが、韓国海軍の駆逐艦による航空自衛隊のP1哨戒機へのレーザー照射問題や、韓国海軍による竹島“防衛”作戦の訓練の実施など、非常に日本の癪に障るような事態が頻発してきており、日本政府も外交ルートを通じて非難していますが、2019年に入ってこれらの懸念事項は一層エスカレートすることになるでしょう。

ただ、この日韓の問題は、双方の努力によって回避可能です。韓国側については、まず一切の誤解を招くような威嚇行為は慎まないといけません。先日の哨戒機へのレーザー照射は、もし相手が米軍や中国の軍なら、即時に撃沈されているであろう深刻なレベルの行為と捉えられています。

また、少々物騒ですが、このまま日本の国民世論を反韓国に持っていくような行為を取るのであれば、竹島問題などを機に、どのような軍事的な衝突が起こるかもしれません。そうなると、これまで戦後慎んできた日韓の直接衝突が起こり得ます。日本側としては、今回の抗議や非難は正面からの外交的な策だとは考えますが、賢明だったかどうかは不明です。

今回の韓国側からの言い訳がいくらばかげていても、それに乗ってあげて、事態をやりすごすという“大人の手”もあったでしょうし、やり過ごしつつ、行為の重大さを分からせるために、逆にレーザー照射に匹敵する行為を“返す”というとてもデリケートな対応策も取れるかと思います。

いろいろとハンドリングが難しいのですが、2019年に迎え得る日韓衝突は、不可避と言わざるを得ないギリギリのラインまで来ているように思いますし、2018年になって日本の政府関係者や自衛隊から聞こえてきた「最近、韓国はどうも日本を下にみているのではないか」、「なめられている」との声は、非常に懸念するレベルにまで緊張が高まりつつあることを示しています。

裏には、竹島問題で騒いでも、慰安婦の問題で騒いでも、日本は結局何もしないという思いがあるのだと思いますが、仮に今回の愚行が軍部の単独行動であったとしても、このままエスカレートするようであれば、外交ではもう解決できないレベルに達してしまうかもしれません。(昨年末に、ソウルで開かれた日韓外交部の会談でも、その不穏な要素が垣間見られます)。

どうなる?北方領土問題

2018年に進展の兆しが見られ、2019年に花開くことが期待されている案件日ロ間での北方領土問題の解決も挙げられます。その進展の“兆し”は、1956年の日ソ共同宣言の内容、つまり「歯舞群島と色丹島の2島先行返還」という共通認識に立ち返り、同内容を基礎として、解決を図るという内容です。 日本では、ダレス米国務長官からの横槍を受けて、本共通認識が実施に移されることがなかったのですが、安倍総理とプーチン大統領がリーダーシップを発揮している間に問題を解決したい、との思いから、「2島プラスα」という“謎の”アレンジメントが持ち出されています。

なぜ謎か? それは日本側の解釈とロシア側の解釈が相容れないからです。日本にとっては、「4島すべての返還」という従来からの姿勢は変わっていませんが、同時に「返還=主権の回復」との認識です。つまり、4島は返還後、日本の領土として“再編入”されるという解釈です。

しかし、ロシアはこの“主権”問題には一切触れず、時折、ラブロフ外務大臣を通じて、2島の帰属の問題は、国家主権の帰属問題とは直結しないとの解釈を示しています。 表向きには、排他的経済水域(EEZ)の縮小を望まないことと、極東における軍事的なプレゼンスの確保(特に択捉島と国後島)という理由が挙げられますが、一番は、日本の主権的な領土に再編入された北方4島に米軍が駐留することをかなり恐れているというのが理由でしょう。(実際に、アメリカ・ペンタゴンの計画には、その内容があります)。

もし謎の「2島先行返還プラスα」を2019年中に実現するのであれば、αの内容をまず2国間で明らかにすることが大事ですし、主権の帰属問題もしっかりと合意しておかなくてはなりませんが、それは本当に困難な作業になるでしょう。

また、12月になって、本件に横やりを入れている可能性がある出来事をご存知でしょうか? モスクワで開催された国際会議の場で「アイヌ民族はロシア人」との議論があり、出席したプーチン大統領が「その通りだ」と答えました。この発言やエピソードをどのように捉えるかはそれぞれ違うかと思いますが、私には、北方領土問題に対しての牽制球とも受け取ることが出来るのではないかと感じています。

そのような中でも、私の本件への予測は、よほどの大事件が世界レベルで同時多発的に発生しない限りは、“何らか”の結論を見ることが出来るのではないかと考えています。

トルコがcasting voteを持つことになる中東情勢

そして、中東問題については、2019年はさらに混迷を深めるでしょう。マティス国防長官が最後まで抵抗したシリアからの米軍の撤退は、中東におけるパワーバランスを完全に変えてしまうことになりかねないからです。

すでにプーチン大統領は、「中東にアメリカは必要ない」と皮肉な形で歓迎していますし、イラン問題への対応やクルド人勢力への米軍の支持、ギュレン師問題、米国人牧師拘束事件などで悪化の一途を辿っていた米・トルコ関係も改善し、ついには2019年にトランプ大統領のトルコ訪問まで計画されているという状況は、トルコと一触即発の緊張関係に陥っているサウジアラビアへの凄まじいボディーブローになるでしょう。

また、トルコにとっては、クルド人勢力掃討に再度集中できることから、シリア問題のハンドリングでも、主導権を握ることが出来るようになり、一気に、中東地域の“未来”に対するcasting voteを持つことになります。 軍事的には対立したくないイスラエルとは現在は悪い関係にはありませんが、トルコが、イスラエル(そしてアメリカ)の宿敵イランの後ろ盾で、その後ろもしくは横にはロシアが控えているという微妙なバランスが変わることは必至で、中東における大きな転換の1年になることと思われます。

2019年は不穏で不安定な世界への移行の1年

2018年は、多くの怒り(anger)が渦巻き、多くのスキャンダルが暴かれ、多くの情勢がchangingしてきました。そして、国際協調主義の終わりの“始まり”が明らかになり、それぞれが自分さえ良ければという自国優先主義に舵を切り始めた年となりました。

2019年に向けた不安と不穏な空気を予見するかのように、年末に世界は同時株安に見舞われました。そして、日本を巡る情勢も大きく変わり始め、特に対韓国では直接的な衝突さえ予見させるほどの緊張感が高まりました。

6月に希望を見出したはずの北朝鮮問題の“穏便な”解決の扉も、2019年の前半には、このままでは閉じてしまい、2020年の大統領選挙に向けた“得点稼ぎ”で、すでに韓国を見捨てたアメリカは、北朝鮮を攻撃するかもしれません。 それが隣の大国中国をどう刺激し、東アジアはどのような状況に陥るかは、今後、米中の関係、そして米ロの関係が、水面下でどう改善され得るかにかかっていると考えます。

そのような不穏で不安定な世界へのtransitional year(移行の1年)が2019年であると、残念ながら、私は思えて仕方がありません。皆さんはどう思われるでしょうか?

image by: viper-zero / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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