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なぜ台湾人には日本好きが多いのか?世代で微妙に違う事情と理由

台湾で「日本語世代」と呼ばれる人たちによるグループの1つ「台日交流連誼会」が解散するというニュースが先日報じられました。メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の著者で台湾出身の評論家・黄文雄さんは、この件を受け、高齢化する日本語教育を受けた世代の現状を紹介。それでも脈々と受け継がれる日本への親しみを持つ台湾人の文化感について言及しています。

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2018年12月30日年末特別号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

「日本語世代」が減少しても変わらない台湾人の日本好き

台湾で日本語世代の交流会が解散

台湾には、日本統治時代を経験した「日本語世代」と言われる台湾人がいます。彼らは今では高齢であり、その数はどんどん減る一方ですが、戦後「日本語世代」を懐かしむ有志が集まって定期的に会合を開いてきたグループはいくつかあります。

今回、産経新聞のニュースになったのはそのなかの一つである「台日交流連誼会」で、記事によれば、

「同会は99年、日系企業の社員だった喜早天海(きそう・たかひろ)さんが世話人になり発足。多い時は元特攻隊員ら50人を超す参加者がいたが、死去や健康状態の悪化で20人以下に減り、毎月の開催が難しくなった」

「元ラジオ司会者の周進升(しゅう・しんしょう)さん(85)は戒厳令下で日本の演歌を放送し、当局から処分を受けたこともある。周さんは日本時代を『秩序ある社会だった』と振り返り、医師の劉啓栄(りゅう・けいえい)さん(82)は『修身で学んだ教訓は今も忘れない』と懐かしんだ。主婦の施碧珍(し・へきちん)さん(84)は『日台の懸け橋でもある有意義な集まりだった。平成の最後の年に一段落となり感慨深い』と話した」

さらに、記事は次のような言葉で締めくくられています。

「台北市では日本語で短歌を詠む会などが、なお続いている。だが、台中市での今回の解散は、台湾の日本語世代を取り巻く環境の難しさを象徴する出来事となった。」(以上、1月13日付、産経新聞より)

近年、日台の交流が日本のメディアでもよく取り上げられています。それは、災害時における相互援助であったり、訪日と訪台の観光客の数だったりと話題は様々ですが、ここ数年で確実に日台の距離は縮まっています。しかし、今の若者が見る日台関係と、上記にある「日本語世代」の見る日台関係は、全く違うものです。

日本統治時代を経験した台湾人「日本語世代」にとって、日本は祖国です。自分は日本人だという誇りを持って、日本に対する憧憬の念を素直に抱き、日本の教えに忠実に生きてきました。李登輝元総統も、その一人だったということを、秘書である早川友久氏が証言している記事があったので以下に引用しましょう。

李登輝は一連の民主改革を、一滴の血も流さず、一発の銃弾も打つことなく完成させた。「台湾の人々に枕を高くして寝させてあげたかったから」という信念を貫いた李登輝に、その強さの源を聞いて刮目したことがある。

「日本教育だよ。人間生まれてきたからには『公』のために尽くせ。そう叩き込まれてきたんだ。だから私は国民党の権力を手にしたときも、『私』のことは全く考えることなく『公』のために使おうと決心できたんだ」。

そして李登輝はこう続けたのである。「だから台湾の民主化が成功したのは、日本のおかげでもあるんだ」と。(12月22日、Wedgeより)

李登輝が「台湾民主化は日本のおかげ」と語るワケ

一方で、現在の台湾の若者にとっての日本は、「非常に親近感のある隣国」であり、決して祖国ではありません。台湾人の若者にとっての祖国は、中国でも日本でもない「台湾」です。それは、中国「一国二制度」の台湾でもないのです。日台における人々の捉え方には、こうした世代間の隔たりはあるものの、互いに非常に親近感を持った友好的な状態であることは間違いありません。

「日本語世代」がどんどん減ってきて、当時を懐かしむグループが一つずつなくなっていくことには、とても寂しさを覚えます。台湾名物であった、日本語でカラオケを歌うグループなども、そのうちなくなってしまうのかと思うと、本当に寂しい限りです。

しかし、彼らの気持ちは確実に次世代に受け継がれています。例えば、祖父母から日本のことを聞かされて育った若者は、日本に興味を持ち、日本語を勉強したり日本に留学をしたりといった、違う形での交流が生まれています。日本が台湾を統治したことから始まった日台関係は、時代とともに形を変えながらも、確実に生きているのです。

去年末、台湾で行われた選挙で、劇的な逆転劇を見せて高雄市長に当選した韓国瑜は、いわゆる外省人ですが、インタビューで日台関係について以下のように答えています。

「(コップを持って)これが台湾です。中には3つの文化が入っています。米国文化、中華文化、日本文化です。この3つの文化がすべてこの島にあり、台湾はこの3つの文化と経済力を吸収して健康に強く育った『子供』なのです。米中日の世界3大経済体が台湾内部で衝突すれば台湾は衰え、弱体化します。」

台湾「蔡英文」が最も恐れる男「国民党の反日的言動は支持しない!」

この発言を見て、世代交代を感じました。非常に客観的に、日本も台湾を構成する重要な一部として捉えるべきだとさらりと言っているのです。ここには、なんの個人的感情も入っていません。「日本語世代」が持つような日本への憧憬の念はもちろんないし、台湾の若者が持つような親日感情にも左右されていません。

ただ、台湾の未来を築き上げていくには、どんな要素を重視すればいいのかを語っているのです。日本時代が台湾に残した遺産は、李登輝元総統を筆頭に、すべての台湾人に受け継がれ、これからの台湾に生かされようとしています。その過程で、「日本語世代」の減少、いずれは消滅などの残念なこともありますが、次を担う人々は彼らに敬意は払いながら、前に進んでいくのです。

「日本語世代」の交流会が解散というニュースを聞いて、「残念」と思う人は少なくないと思いますが、逆にそれを知らない人も少なくないのではないでしょうか。

「日本語世代」は、90歳代でも若いほうです。かくいう私も、アメリカ軍の空襲を経験した最後の「日本語世代」の一人です。「日本語世代」は、戦後台湾の各分野での草分け的存在であり、名実ともに実力者の方が多いのが特徴です。そんな彼らが消えていくのは自然の摂理であり、後継者がいないのも仕方のないことです。

かつての台湾少年工が戦後になってつくったグループ「高座会」のように、二代目の後継者が受け継いでいる例はまれなケースです。ただ、彼らの気持ちは、90年代に台湾に登場した「哈日族」(日本大好き族)にバトンタッチして、形を変えて継続しています。

哈日族が主に好きなものは、戦後日本のサブカルチャーです。マンガ、アニメ、ポップミュージックなどの分野で、日本から発信されるコンテンツは台湾だけでなく、海を越えてアジアや欧米でも人気です。それほど人の心を掴むオリジナルコンテンツを日本が発信しているのです。代表的ものとしてはジブリ作品などが挙げられます。韓国政府が国策として日本の文化をシャットアウトしようとしても、止めることはできませんでした。それほど日本のサブカルチャーは魅力があるのです。

中国は、「反日教育」や「反日メディア」を徹底的に利用して、国民が反日感情を抱くようにマインドコントロールしていますが、それでも、完全に人々を反日にできません。

台湾では、先の選挙の際に福島県産の食品の輸入の是非を問う公民投票を行った結果、輸入反対が多数を占めました。世界に反日をアピールしたい元台北市長のカク龍斌らは、この結果を喜び、勝ち誇って「世界で最も反日なのは台湾」だとアピールしていますが、それは台湾でもごく一部の人々です。多くの台湾人は、反日感情はあまり持っていません。

司馬遼太郎は、かつて李登輝元総統との対談で、台湾は日米中からの文化が入り混じっており、もっとも将来性が高いという司馬氏独自の「史観」を示しています。「純粋」よりも「混交」のほうが望ましいという文化観です。それは、古代の原始神道の「習合」思想からくるものではないかと私は思っています。

戦後の台湾は、教育面では中国の影響を、経済面では日本の影響を強く受けています。そして、軍事面と政治面ではアメリカの影響を強く受けました。こうして出来上がった台湾は、すでに中国とは大きく離れた存在となっており、ことに政治、軍事、外交面ではアメリカ式と言ってもいいほどです。「日本語世代」の人々が支えた台湾は、戦後70年以上、こうして独自の道を歩んできたのです。

image by: imtmphoto, shutterstock.com

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