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ゴーン逮捕が日産経営陣のクーデターとしか思えない当然の理由

二度目の保釈請求も却下され、勾留機関がさらに延びることとなった日産のカルロス・ゴーン元会長。もはや「推定有罪」の流れを変えることができないような状況となりつつありますが、この逮捕劇にたくさんの違和感を覚えると語るのは世界的エンジニアの中島聡さん。中島さんは自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』で、日産について「まともなコーポレートガバナンスが機能しているとは言えない状況」とし、自分ならば現経営陣に同社の経営を任せることは出来ないと厳しく批判しています。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年1月22日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじまさとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

日産事件とコーポレートガバナンス

日本と米国ではコーポレートガバナンス(企業統治)の方法が違うという話は、良く知られていますが、その根底には「会社は誰のものか」「会社は何のために存在するのかというもっと根本的な違いが存在します。

米国の場合は、非常に簡単です。一言でいえば、「会社は株主のもの」以外の何物でもなく、株主から会社の経営を委託された人が「経営者」なのです。「取締役」の役割は、株主に変わって経営陣を監視することで、経営陣が株主の利益よりも自分たちの利益を優先した行動をしたりしないように監視する責任を持ちます。

私は、3年ほど前にXevo Inc.(当時はUIEvolution Inc.)のCEOに復帰した時、日本での上場を目指して準備を進めていましたが、一部の株主に猛反対されて断念しました。米国の株主から見れば、日本の市場など信用できないし、上場よりも売却の方がはるかに手離れが良いすぐに現金化出来る)からです。

そのままの株主構成では上場不可と見た私は、日本での上場に反対している一部の株主から株を買い取るための資金を集めて、株主構成を大きく変えようと試みましたが、その資金の一部が紐付きのお金であったため、手続きに時間がかかり、結果的にその計画もうまく行きませんでした。

結果的には私の思い通りにならなかったものの、一連のプロセスを通して、米国の企業のコーポレートガバナンスが良く機能していることを当事者として理解することが出来ました。創業者CEOである私の思い通りにならなかったという事実が、「経営者による企業の私物化」を止める仕組み、つまり、コーポレートガバナンスが機能している証拠です。

そんな経験のある私から見ると、今回の「日産ゴーン氏逮捕事件」には沢山の違和感を感じます。

日本では、この事件は「日産vs.ゴーン氏」という構図で報道していますが、ここで言う「日産とは何なのかがすごく曖昧なのです。

米国の常識で考えれば「日産」は株主のものであり、かつ、日産の一番の株主はルノーなのだから、ここまでのことをするのであれば、ルノーの全面的な協力を持ってすべきなのです。内部調査でゴーン氏の背任行為があったと考えるに十分な証拠が見つかったのであれば、たとえゴーン氏がルノーで絶大な権力を持っていたとしても、ルノーの経営陣や、ルノーの株主であるフランス政府を説得することは可能なはずです。

まずは取締役会議でそれを問題として取り上げ、証拠を取締役全員に開示し、取締役会としてゴーン氏に辞任を迫るべきなのです。もし、どうしてもそれが難しいのであれば、次には大株主であるルノーの協力を得て、株主の総意として取締役の解任と言う手続きを踏むべきなのです。その上で、必要であれば、(損害を被った株主の代わりに)会社がゴーン氏に損害訴訟を起こすのが筋です。

この「真っ当な手続き」が取れなかったことに、私は大きな違和感を感じています。これはまさに、「ゴーン氏が会社を私物化していた証拠」がルノーの(ゴーン氏以外の)経営陣やフランス政府を説得するには不十分だったことを示していると感じるのです。

そうなると、日産の経営陣が、今回の行動に出た本当の理由が知りたくなります。本当の理由は「会社を私物化していたゴーン氏を排除する」ことにあったのではなく、これ以上ルノーの影響力が大きくなることを嫌った日産の経営陣のクーデターであったと思われても仕方がない状況なのです。

一部のマスコミによると、日産の経営陣は、ルノーの株を入手することにより「株の持ち合い状況」を作り出して、ルノーの議決権を奪おうとしているそうです。

それこそ(会社の持ち主である)株主の利益を無視した許されない行動であり、そんな経営陣の行動は、取締役会がなんとしてでも阻止すべきだし、そんなことを考える経営陣はクビにすべきです。

日産の利益の大半がルノーに吸い取られていることを問題視する声もありますが、利益のうちどのくらいを配当として株主に還元するかを決めるのは取締役会だし、全ての株主に平等に配当を支払っている限り全く問題ありません

そもそも、ルノーが日産を救済したのは、巨大な資本力を持つトヨタやフォルクスワーゲンに対抗するためには、単なる「パートナー契約」ではなく、資本提携や経営統合も含めた密な関係を持つことがお互いのためになると判断したからです。今後、激化することが明らかな自動運転や電気自動車への研究開発投資は、運命共同体として集中して行った方が良いのです。

そんな株主の意向を無視して、せっかく日産が稼いだお金をルノーが吸い上げるのはけしからん、研究開発はルノー主導で行うのではなく、日産が独自で行うべきという考え方が根本的に間違っているのです。

そんな無駄な軋轢があるのであれば、日産をルノーの100%子会社にすべきなのです。

日産の経営陣は、個人的には「子会社の経営陣に格下げされるのは困る」「フランス人の下では働きたくない」と感じるかも知れませんが、彼らの役割は、(自分たちの利益ではなく)株主の利益を最大限にすることであり、経営統合をして一つの会社として戦った方が有利であるならば、その道を選ぶべきだし、その動きを阻止してはいけないのです。

私がルノーの経営陣(もしくは株主)であれば、ゴーン氏を追い出した日産の経営陣の放置は決してしません。(拘留されていて仕事ができない)ゴーン氏に代わる取締役をすぐに送り込みます。

そして、日産の株主に対してルノーの株を発行することによる日産の100%子会社化を、日産に対して提案し、他の(日産の)取締役および株主の説得にかかります。どうしても(取締役を兼任している)現経営陣が反対するのであれば、経営陣の総入れ替えを目指します。

いずれにせよ、今回の日産の経営陣の行動は、会社の持ち主である株主の利益を最優先にした行動とは思えず、まともなコーポレートガバナンスが機能しているとは言えない状況です。ゴーン氏が実際に私服を肥やしていたかどうかは別として、このまま現経営陣に日産の経営を任せることは出来ない、と私なら思います。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年1月22日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込864円)

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