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また厚労省の自作自演?統計不正問題、新聞各紙はどう伝えたか

次々と「不手際」が明らかになる毎月勤労統計を巡る不正調査問題。27日に招集された通常国会も「統計国会」の様相を呈していますが、統計不正問題を新聞各紙はどのように伝えているのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析しています。

「統計不正」問題を新聞各紙はどう伝えたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「厚労省 調査違反隠しか」
《読売》…「特別養子縁組『15歳未満』」
《毎日》…「監察委聴取 3割のみ」
《東京》…「厚労省 崩れた中立性」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「『賃金偽装』野党が追及」
《読売》…「『調査急げ』厚労省混乱」
《毎日》…「実感なき『戦後最長』」
《東京》…「交渉直前 つばぜり合い」

ハドル

各紙、「統計不正問題で、1面トップか解説面に新事実を乗せようと努力している姿が見受けられます。その努力に応えることにしましょう。《東京》の解説面はファーウェイ副会長起訴に絡む記事です。

アベノミクスの「賃金偽装」

【朝日】はきょうもスクープを含む3本の1面記事から。関連で2面の解説記事「時時刻刻」。見出しから。

1面

2面

uttiiの眼

《朝日》は、「毎月勤労統計で発生し、「賃金構造統計に飛び火した統計不正問題」の最新のニュースを1面トップにもってきている。厚労省の担当部局は、「調査員による調査」を行うことになっているのにもかかわらず「郵便調査しかやっていない違法状態を認識していたからこそ、その事実を隠しつつ、「郵便調査で構わないようにルールを変更させようと、総務省に掛け合っていたことが暴露された。規定通りに行うのではなく、規定に反した状態に合わせて、規定を変えようとした、つまり「法に現状を追随させようとした」わけで、自隊の現状に併せて憲法9条を変えるという発想と同じであることに気付かれた方も多いかと思う。

1面には他に、勤労統計の問題で行われた特別監察委員会による聴取が、その7割方身内の職員によって行われていたという記事も。こちらは各紙報じているもので、根本厚労相の記者会見で明らかになったことだ。

《朝日》はもう一つ、この1面に記事を重ねていて、その見出しは「首相ゼロ回答」というもの。国会でこの問題の責任を問われ、立憲民主党の議員から、根本厚労相の罷免と安倍首相自身の辞任を求められたことに対し、陳謝しながらも罷免と辞任を拒否。他の質問に対しても、施政方針演説で使ったフレーズを繰り返す、省エネ答弁に終始した。これを「ゼロ回答」と批判している。

2面の「時時刻刻」は、大臣の罷免と総理の辞任を求められるに至った問題の核心について、2点を強調。1つはアベノミクスの成果としてアピールされてきたのは「賃金偽装」ではないのか。もう1つは、特別監察委員会の第三者性欠如の実態

前者は、こういうことだ。18年1月から不正データを本来の全数調査に近づけるため、密かにデータ補正を行っていた厚労省は、伸び率を、データ補正をしていなかった前年(の同月)と比較したため、18年1月以降の伸び率は毎月、実際以上に高く出ていたことになる。6月分などは、「21年5ヵ月ぶりの伸び率」として3.3%もの増加と言われていた。これは再集計で2.8%とされたが、実はもう1つ問題があって、17年と18年では調査対象が変更されている。17年と同じ対象で比較したデータ(これを「参考値」という)を見ると、伸び率は1.4%にまで縮小。総務省は「参考値を重視すべき」と言っているらしい。つまりアベノミクスは、1.4%に過ぎない伸び率を、データを二重に不適切に処理することにより、3.3%に膨らましていたということだ。「二重の水増し」。これでは「賃金偽装」と言われても仕方がないし、景気拡大の実感に結びつかないのも当然だ。

看板を掛け替えただけの監察委

【読売】は1面左肩と3面の解説記事「スキャナー」、4面には参院本会議の詳報。見出しから。

1面

3面

uttiiの眼

《読売》はまだ、「統計不正」(《読売》は不適切統計としか書かないが…)問題を報じるのは、いまいち気が進まないようだ。1面トップには「特別養子縁組」の制度改正に関する記事を持ってきている。それはそれとして重要だが、1面トップにすべきことかどうか。

1面左肩は他紙と同じ、特別監察委員会の聴取で、外務委員が聴取したのは12人のみで、しかもその中の何人かについては次官級の審議官と官房長、あるいはそのどちらかが同席して質問までしていたという内容の記事。

解説記事の方はどうか。

こちらも解説対象は、監察委員会の問題。なぜ「中立性が大きく揺らいだ」のか、検討している。

最初に調査を開始した「監察チーム」は件の官房長をトップとして2016年に発足した内部調査組織で、設置以来、外部専門家の顔ぶれも変わっていなかったもの。その外部委員5人をそのまま特別監察委の委員とし、トップに樋口美雄労働政策研究・研修機構理事長を据え、全体を再編成して作られたのが「特別監察委員会」なるもの。厚労省の職員が聴取するというのは、「監察チーム」の頃からやってきたことだった。委員の一人は「従来の監察チームの延長の組織という認識だった」と語ったという。

わずか1週間で調査結果を公表したのは、政府・与党の強い意向があったからで、「28日の国会召集前に監察委の調査結果を公表することで事態収拾を図ろうと考え、厚労省に迅速な調査を求めた」と、特に根拠を示さず断定的に書いている。外部委員による委員会に切り替えた時点で、「中立性は最も重要な要素だったが、同省がその視点を欠き、拙速に調査を進めたために、かえって批判が広がった」と叱っている。

「スキャナー」の最後段は、障害者雇用の水増し問題の時の第三者検証委員会や私立大支援事業を巡る汚職事件の際に設けられた調査チームと比べても、今回は「手続きのずさんさが目立つ」として、最後に、組織論の専門家の見方を紹介。専門家は、「今回は内部の調査を引き継ぐのではなく、最初から第三者委員会で徹底的な調査をするべきだった」とし、今から、「別の第三者委員会を作り少なくとも1ヵ月は掛けて調査をし直すべきだろう」と提案している。全く同感だ。

厚労相は「事務方に聞いて」を連発

【毎日】は1面トップに続き、2面の関連記事まで。見出しから。

1面

2面

uttiiの眼

《毎日》も1面トップは根本厚労相が会見で訂正した内容について書いている。他紙が書いていない要素が1つ。不正な抽出調査が続けられていた東京都内の従業員500人以上の事業所のうち、全数調査から漏れていた約1,000箇所について、厚労省が直接調査するという。《毎日》はこれを「例外的」と書いているが、それは違うだろう。違法状態を少しでも正しい状態に近づけるための措置だから、偉そうに「例外的」と言わせる必要はない。当たり前のことだ。

2面には3本の記事が並んでいるが、そのなかで特に注目すべきは厚労相についての記事。見出しは「厚労相『事務方に聞いて』」というもの。根本厚労相はかなり追い詰められているようだ。会見の場でも、この「統計不正」に関わる記者からの質問に対し、僅か20分間に「事務方に聞いて」という逃げの回答を5回繰り返したという。根本氏の会見では、普段からこんなことが多いらしく、また昨年10月の就任以来、衆参の厚労委員会でも厚労相の言葉足らずの答弁で何度も審議が中断しているという。省内には「このままでは国会審議を乗り切れないのではないか」と不安視する声があるという。

これで組織的隠蔽を否定できなくなった

【東京】は1面トップに3面の関連記事2本とQ&A、5面社説。6面には国会論戦のポイント。見出しから。

1面

3面

uttiiの眼

1面トップは各紙報じている「身内7割についての記事。リードは、新聞記事の書き方として大変巧みなものを感じる

……対象37人のうち、身内の同省職員のみでの聴取は7割近い25人に上り、同省が組織的隠蔽を否定する根拠とした監察委調査の中立性は完全に失われた。同省は監察委の外部有識者による調査を全面的にやり直す。

「同省が組織的隠蔽を否定する根拠とした監察委調査」と形容することで、「調査の中立性否定によって組織的隠蔽が否定できなくなったのだという意味が強く出されている。意味を強く出しすぎることには弊害を伴う場合もあるが、このケースでは正当な関連付けだろう。

後段でもこの「関連付けは引き継がれ、「根本氏は監察委について『官僚はメンバーから外し、中立性、客観性を明確にした』と強調してきたが、実際は外部有識者の目が入らないまま多くの聴取が行われ、組織的隠蔽はなかったと結論付けたことになる」と言っている。

2面のQ&Aは、《朝日》のところで書いた「二重の水増し」についてのもの。「不正」の影響以外に、「調査対象の変更」という要因があり、2つのトリックを剥ぎ取ると、18年6月の伸び率は3.3%から1.4%にまで下がり、この1.4%の方が実態に近いと総務省の統計委員会も認めているという件。グラフを使った説明が分かりやすい。

2面にはもう1つ記事があり、こちらは「統計不正」とは別個の問題だが、「身内の関与が常態化した同省の現状をよく表す事例として取り上げられている。国の機関の8割で障害者雇用数が水増しされていた問題でも、「第三者検証委員会」の報告書原案は、厚労省が自分で作成していたという事実が判明したという。厚労省はこの場合、障害者雇用という政策を推進、所管する立場であると同時に、水増しを長年見過ごした当事者でもある。さすがに《東京》もそこまでの表現は使っていないが、私が代わって示すとすれば、「被疑者が取り調べをするようなものと言ったら分かりやすいだろうか。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

かなり「統計不正」についての論点が煮詰まってきました。まだ“小出し”の感じですが、新しい事実も出てきています。また、これは飽くまで予想の範囲ですが、根本大臣は持ちこたえられないかもしれませんね。「薬害エイズ」でも「消えた年金」でもそうだったように、厚労省は省内各所に大中小のボスが潜んでいて、他省庁以上に魑魅魍魎が跋扈する世界。あそこでガバナンスを利かせるには、相当な腕力が必要でしょう。菅直人さんや長妻昭さんのような剛腕が入り込んで、周囲を震え上がらせるようなことでもしないと、動くものも動かないということはあるかもしれません。根本さんでは無理、なのかもしれません。

image by: 根本匠 - Home | Facebook

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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