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安倍官邸が統計不正キーマンの厚労省官僚を即座に更迭した理由

日を追うごとに与党の旗色が悪化する観のある厚労省の統計不正問題。国会での野党の追求にも政権サイドは防戦一方ですが、この一連の状況を新聞各紙はどのように伝えているのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析した上で、問題の本質追求を試みています。

「統計不正」問題、新聞各紙の伝え方

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「野党「政府、解明をブロック」」
《読売》…「休業補償 7月追加給付」
《毎日》…「追加給付工程 急場しのぎ」
《東京》…「関東地銀8割 手数料増」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「統計不正 政権逃げ腰」
《読売》…「アベノミクス 影響巡り攻防」
《毎日》…「厚労省の『統治』問題視」
《東京》…「厚労省 報告遅れの連鎖」

ハドル

国会の審議が熱を帯びてきました。もちろん、統計不正問題です。安倍首相はスケジュールの合間にレクの連続なのでしょう、既にヘロヘロの状態。辛うじて精気を保っているふうに見えました。閣僚は野党の追及をかわそうと、わざと見当違いの答弁を繰り返したりしていて、到底、正面から問題を受け止める姿勢とは言えません

各紙、色々書いていますので、きょうも「統計不正」です。

真相解明を妨害する政府

【朝日】は1面トップで衆院予算委の審議に関する記事と追加給付に関する記事。関連で2面の解説記事「時時刻刻」、4面は国会質疑の焦点採録、14面社説。見出しから。

1面

2面

14面

uttiiの眼

1面トップは、見出しが「野党政府解明をブロック』」という刺激的なもの。閉会中審査には政策統括官として出席し答弁していた大西康之氏を更迭したことの意味は、まさしくこの予算委で野党の質問に晒させないがため。政権は、万が一にも、大西氏が官邸からの圧力や自身の忖度を口にすれば大変なことになると恐れての「人事」であり、与党が参考人招致にも応じないという頑なな態度を取っている理由も、簡単に想像がつくというものだ。

もう一つ、1面には「追加給付 11月から」という見出しも躍っている。ここには、雇用保険の過少給付に対する「埋め合わせ」としての追加給付が、9ヵ月も先にならないと始まらないという意味が隠れているのだろう。統計不正によって過少給付となった人は延べ2,015万人。そのうち、雇用保険の失業給付に関わる人は1,942万人と圧倒的な多数を占める。その中でもおそらくは圧倒的多数を占める「受給が既に終わっている人」に対しては、4~10月に対象者を特定する作業を行い、判明した住所とそれ以前に分かっている住所に送付、受け取り口座を指定してもらってから振り込むという手順になっている。サラッと「対象者を特定する作業を行い…」などと書いたが、この作業は「消えた年金問題の時の復旧作業に次ぐ難事業で、住所が分かっていない人は1,000万人もいる。《朝日》は、「追加給付」の大宗が、難事業を経て行われるこの人たちに対する給付だという点を捉え、「11月から」と報じているわけだ。

2面「時時刻刻」は、予算委員会での追及についての分析。野党は大西康之前政策統括官の招致拒否を責め、また麻生財務相の「鶴の一声」で賃金の伸びが大きくなるような工作をしたのではないかとの疑惑の指摘(安倍氏は「できるわけがない」と否定)など。

与党側は小泉進次郎氏が、政府対応の説明の呼び水になる質問や閣僚らへのエールを繰り出す始末だったという。

野党質問の時の様子を国会中継で一部見たが、厚労相の答弁ぶりは特に酷いように思った。ほぼ答弁拒否に近いものまであった。

1,854万人には「一部」

【読売】は1面トップで休業補償に関する追加給付についての記事、他一本。関連で3面の解説記事「スキャナー」と社説、予算委の詳報を9面に。見出しから。

1面

3面

uttiiの眼

《読売》は「7月追加給付」との見出しを掲げ、5ヵ月後に給付が始まると報じている。これは労災保険の休業補償の分で、対象は45万人。圧倒的多数を占める雇用保険に関わる追加給付ではなく、ごく少数の労災保険についての追加給付を見出しに取り上げるのはどんな意味があってのことなのか

それでも《読売》の記事は、各保険で追加給付の対象者や給付開始時期などに違いがあることについて、一覧表で分かりやすく示している。雇用保険のところには、対象者1,942万人で、現在の受給者には4月から、過去の受給者には「11月頃」から給付が始まると読み取れるのだが、記事には驚くような事が書いてある。

「雇用保険の一部の手当は11月頃、労災保険で支給額の計算に時間が掛かる一部の人は8月から10月以降にずれ込む見通しだ」と。

11月頃にならなければ支給開始などできそうにない「雇用保険の一部」とはどれだけの人を指しているか。《読売》には何も書いてないが、1,942万人のうちの大多数を占める1,854万人と言われている。これを「一部」と表現する感覚は理解できない。ほぼ間違いと言って差し支えないように思われる。この部分を「一部」とするか「大多数」とするかによって、追加給付が必要となったこの問題全体の大きさに対する読者の認識は変わってくるように思われるが、どうだろうか。

「頃」が多過ぎる?

【毎日】は1面トップで追加給付についての記事、関連で3面の解説記事「クローズアップ」と社会面25面にも。見出しから。

1面

3面

25面

uttiiの眼

《毎日》は、ちょっと面白いところに着目した。1面トップ記事、見出し2行目は「統計不正 時期に多用」とある。発表になった追加給付の工程表(スケジュール)には「…ごろ」という表現が多用されている。《毎日》が作成した発表資料によれば9箇所。ただ、なぜ「…ごろ」が多用され、時期の関する記述がアバウトなものになっているかについて、記事は丁寧な説明をしている。

工程表は、衆院予算委に間に合わせるように作られたもので、問題発覚後、自民党厚労部会(部会長・小泉進次郎氏)から強く求められていたもので、昨日の予算委には小泉氏が質問に立ち、その後記者団に対して「最大の成果は工程表が明確になったこと。スケジュール感は安心につながる」と語っている。問題の早期収束を目指す政権と与党は、この点に注力していたことが窺える。

だが、厚労省は追加給付の対象者や給付額を特定するために、「大規模なシステム改修を進めて」おり、システム会社との間に完了時期についての確実な約束もないのだという。これでは、いつ、追加給付のための準備作業が完了するか分からない。厚労省の専用ダイヤルには3日までに6万6,000件の問い合わせが殺到したが、「いつ、いくら」支払えるのか答えることができないため、「謝罪窓口」と化してしまったらしい。そこで、工程表に書き込む場合でも、はっきりとした時期は書き込むことができず、「…頃とせざるを得なかったのだ。

政権や与党が、「何かを急がせる」ことが続いている。うまく問題を処理してくれるはずだった厚労省内の「特別監察委員会は大失敗だった。常識のある人なら「組織的関与と隠蔽」があったことは明らかと思えるのに、「そうとまではいえない」などと擁護したものだから、「監察」にも「中間報告」にもならなかった。工程表を拙速で仕上げてしまったために、内容に齟齬が出てきた時に、その理由を問い詰められることになるかもしれない。「…ころと言いましたよという抗弁が成立するものかどうか。

二重三重に遅れた報告

【東京】は1面左肩から。関連で2面に解説記事「核心」とその他2本の記事、5面に社説、7面に国会論戦のポイント、22面23面は見開きで「こちら特報部」。見出しから。

1面

2面

5面

22面・23面

uttiiの眼

《毎日》は厚労省が抱えた仕事の困難さを浮き彫りにしたと言えるだろうが、《東京》は問題が発覚してからの厚労省の対応の遅れズレに焦点を合わせている。

1面記事は、厚労相が政策統括官から不正報告を受けた昨年12月20日、翌日の21日に、「毎月勤労統計」10月分の確報値公表が予定されていることを知らされず、半月余りあとの今年1月8日にやっと知るに至ったことを問題にしている。昨日の国会でも野党からこの点に質問が飛び、答弁にたった官僚は、大西統括官は「公表日程を認識していなかった」と答弁している。

2面の「核心」は、それ以外のところでも「報告の遅れ」が起きていたことをまとめて示している。見出しには「厚労相 報告遅れの連鎖」とある。まず、統計部門の担当者が大西政策統括官に不正を報告したのが昨年12月13日、そこから大西氏が大臣に報告するまで1週間掛かっている計算になる。そして20日に不正を知った根本大臣は、28日までの8日間、安倍首相に報告していない。10月分の確報値公表については、安倍総理への報告後の会見で記者に質問されてやっと気付いたという体たらく。それが1月8日のことだった。昨日の予算委での答弁を見ていても、思うことは1つ。根本氏に厚労相は無理ではないだろうか。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

話は次第に煮詰まってきている、そんな気配がありますね。勿論、「統計不正」の件です。野党の「アベノミクス偽装」批判は、今のところ根拠が麻生氏の「鶴の一声ということでちょっと弱いような気がしますが、実質賃金マイナスというデータが確実になれば、これは与党にとって強烈な一撃になるでしょう。つい今し方、根本大臣が「機械的な計算という前提の限りでは仰るとおり」と、実質賃金マイナス2018年1~11月を認めたようです。

image by: 根本匠 - Home | Facebook

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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