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【書評】車を捨てよ、町へ出よう。地方衰退の原因は自動車だった

都市部ならばクルマなしでも生活できるけれど、地方ではそうは行かない…。そんな「クルマ依存」が地方の衰退をエスカレートさせているという衝撃的な因果関係を論じた書籍が話題となっています。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが、そんな一冊をレビューしています。

偏屈BOOK案内:藤井聡『クルマを捨ててこそ地方は甦る』

クルマを捨ててこそ地方は甦る
藤井聡 著・PHP研究所

著者は京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。東京や大阪の都心ならクルマなしでも生活できる。しかし、地方はクルマがなければ生きていけない。実際に、地方の一般的な街では、移動手段の7~8割以上がクルマである。しかし、藤井氏は断言する。今地方社会が疲弊している重大な原因はまさにこのクルマ依存にある。これが「真実」である、と。初めて聞く因果関係。

わたしは生まれてこのかた、都心の近くに住み続けているから、日常クルマを必要としない。免許も持ってない。地方が疲弊していることは知っている。だが、それはクルマのせいだったなんて、思いもよらなかった。わたしだけではあるまい。殆どの人は(もちろん、地方の人も)そんな因果関係は知らない。

皆がクルマを使っていれば、クルマ社会=モータリゼーションが進展すれば、鉄道はどんどん寂れていき駅前商店街もダメになる。クルマ社会化は、地域の地元商業や公共交通産業に大打撃を与える。クルマ社会になると、郊外の大型ショッピングセンターが賑わう。しかし、地域外資本で作られた店だから、利益の大半は地元に還元されない。住民が稼いだお金が地域外に流出する。

地域経済はますます疲弊していく。そうなると、地元の市や県に納められる税金も減り行政サービスも劣化していく。これがクルマ社会化=地方衰退の法則である。地方ではクルマが当たり前という「常識」こそが、地方を疲弊させている。だが、クルマを使えば使うほど人々はクルマなしではやっていけない

それでも、「クルマを捨ててこそ地方は甦るのである」と藤井氏は断言する。「地方の暮らしには不可欠」のクルマが、いかに地方を疲弊させているかというメカニズムを明らかにし、どっぷりクルマに浸かった地方においても、部分的にでも「脱クルマ」の要素を導入し、それを通して地方を活性化し、創生していく道を明らかにするものである。じつに丁寧に、根気よく説得してくれる。

道路空間をすべて人に開放する「歩行者天国」という大成功モデルがある。人はこういう賑わいが好きだ。また、車道を削って歩道を広げて人を呼び込んだ京都の四条通りも経済活性化に貢献した大成功モデルだ。地方都市でも一等地からの「クルマの締め出し」が大きな効果を上げている。好例が富山市である。そのレポートの説得力といったら。地方行政関係者たちよ、直ちにここを読め。

つまり「クルマ化社会人々のクルマ依存)」郊外化中心部のシャッター街化)」を深刻化させる。郊外化した街では人々のクルマ依存度が高くなり、地方都市のバスや電車などの公共交通が弱体化する。地方都市の魅力も仕事も減り、人はどんどん流出し、地域の経済社会行政の弱体化に拍車をかける

いま、モータリゼーション、都市の郊外化、地方の衰退、グローバリゼーションの浸透という、最悪のスパイラルが四位一体で展開している。この本は「地方衰退の根源であるクルマを捨てよ」という大胆な発議である。過激な言い方ではあるが、絶対に正しいコンセプトだ。本文中の大事なところはゴチック体で強調している。理論は明解である。そうだ、国家プロジェクト、しよう。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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