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池田教授が警告。組織による「無駄働きの強制」が日本を滅ぼす

「働き方改革」で残業時間削減や有給消化に血眼になっている企業が多くあると聞きますが、それほど無駄に長い労働時間を強いている組織が日本には多いということなのかもしれません。CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみ、メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』の著者で生物学者の池田清彦先生は、公立高校の教師時代に無駄な研修を全欠席したことを振り返り、それでも無駄な公務が多く、研究成果が上がらなかった体験を述懐しています。

無駄働きの強制が日本を滅ぼす

前にもどこかに書いたかもしれないが、大阪府茨木市にあるエビ加工・販売会社「パプアニューギニア海産」では10数人いるパート従業員の勤務形態をフリースケジュール制、即ち、出社の時間も退社の時間も自由、断りなく休んでもいいという制度にして、さらに35~36項目に分けられる分業のうちで、好きな仕事だけすればよく、嫌いな仕事はしなくてよいという制度を導入したところ、パート従業員の定着率もよく、人件費をかなり削減できたという。

この会社のこの制度はパート従業員に限られているようだけれども、同じ労働時間であれば、管理して働かせるよりも、本人の好きな時に最も得意な仕事をしてもらう方が成果が上がるという、当たり前の事実を示していて、大変興味深い。現行の日本の企業、官庁、学校の働き方を見ていると、これとは真逆なやり方をしているように思える。成果が上がらないのは当然だ。

私は企業や官庁に勤めたことはないので、そこでの働き方は詳らかにはできないが、仄聞する限り、無駄なことや本人が不得意なことに時間とエネルギーを費やしているのだろうと想像できる。私が良く知っているのは学校である。都立高校の定時制に3年間、国立大学(山梨大学)に25年間、私立大学(早稲田大学)に14年間、教員として勤務していたので、学校というところがいかに無駄なことに時間とエネルギーを費やすかについてはよく知っている。悪いことに、私が教員として勤務していた42年間を通してこの傾向は年とともに強まって、それと呼応して教育成果と研究成果はどんどん情けなくなってきたように思う。

私が都立高校の正規の教諭になったのは、都立大学の博士課程に在学中の1976年であった。今ではたぶん、大学院の正規の学生で、公立高校の正規の教諭という2足のわらじは許してもらえないと思う。公務員なのだから、公務に専念しろという建前がきつくなったのである。専念しろと言っても、無駄なことに専念しているだけでは、かえってマイナスなのだけれども、要するに世間が世知辛くなったのである。

今と比べれば、大分ましだったけれども、当時も時間の無駄以外の何物でもない公務が結構あって、私はなるべくスルーして、最低限必要なことしかしなかった。都立高校の「生物」の非常勤講師は大分長いことやっており、正規の教諭になったのは28歳であったが、一応新人なので、新人研修というのが年に15回(?)もあり、なるべく出席するようにと校長から指示があった。「なるべく」ということは出席しなくてもいいんだなと即座に判断した私は、研修はすべて欠席した。研修の項目を見る限り、役に立つとはとても思えなかったからだ。

半年くらいたったところで、校長に呼ばれて、「研修に行かないと、教頭や校長になれないよ」と諭された。校長はとてもいい人で、おそらく善意で言ってくれたのだろうけれど、私は、ニコニコ笑って「生涯、一兵卒として頑張ります」と答えた。校長はきっと呆れたのだろう。それ以上何も言わなかったので、私はその後の研修も全部さぼって、新人研修全欠という記録保持者となった。当時は、試用期間というのがなく、建前としては新人教諭へのサービスとして行っていた研修をさぼったくらいでは、正規の公務員を馘首することはできなかったのだろう。

余談だが、全欠の記録は他にもあって、早稲田大学に勤務していた14年間、大学から指示された健康診断を一切受診しなかった新人研修も健康診断も、私にとっては(おそらく私以外のほとんどの人にとっても)、頭や体に余計なストレスがかかって健康を損ねる、貴重な時間の浪費である、という2重のデメリットばかりで、メリットは何もないことは間違いない。

かつて内田樹は「権力とは無駄なことを強制させる装置である」という名言を吐いたが、これは、閉鎖的な組織(会社、学校、官庁、国家)の内部において権力に反抗する者の芽を摘むことには素晴らしい効果を発揮するが、外部と競争する段になると、激しいマイナス効果を発揮することになる。

image by: MigsGalapate, shutterstock.com

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