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NY「ルームシェア」事情。日本と違い「致し方なく」みんなが選択

ニューヨークに住む多くの人が経験するルームシェア。理由は世界一高い家賃にあります。メルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者で、米国の邦字紙『NEW YORK ビズ!』CEOの高橋克明さんも、渡米後4年ほどはルームメイトと暮らしていたそうです。好むと好まざるとにかかわらず、「異文化体験エピソード」が蓄積していくというNYルームシェア事情を伝えてくれました。

インスタ映えよりもガチンコライフ

日本で「シェアハウス」が流行っていると聞きました。え?そこまで日本の家賃が高騰してるの?そう思ったものの、よくよく聞くと事情はニューヨークのそれとはまったく違うものでした。

当然ですが、世界一家賃の高いここニューヨークでは昔から「シェアハウス」文化。学生だけでなく、弊社社員も全体の半分は住居をニューヨーカーとシェア、もしくは日本人同士でシェアをしています。バカ高い家賃を折半するため、そこには性別、年齢、職業、宗教、国籍、人種関係なく、屋根を一つにする必要があります。そこはあまりにも当たり前の習慣なので、たまに新入社員で「シェアしてません、ひとり暮らしです」と聞くと「親御さん大金持ちなの?」と聞きたくなってしまいます。マネージャークラスで「やっと晴れて、ひとり暮らしできるようになりました」と嬉しそうに報告にくる社員もいます。

やはり、従来のサラリーではこの街での一人暮らしは現実的ではありません。ブルックリンですらニューヨーカーとシェアして、一人頭1000ドル(12万円)くらいが相場です。都内なら23区以外で結構いいマンションに当然一人暮らしできる家賃です。

僕も渡米して以降4年くらいは多くのニューヨーカーとシェアハウスをしてきました。

最初はラオス人の女の子。当時20代後半だった僕と同世代だったと思います。名前は忘れたけど、とてもいい子で、鍵をよくなくす僕に真夜中呼び鈴で起こされて、ドアを開けてくれる時もイヤな顔ひとつしない子でした。彼氏もよく遊びに来て、ラオス料理を食べさせてくれたこともあります。部屋の中で、観賞用のトカゲをペットとして飼っていたことを、退室する挨拶した際、知りました。もっと早く知っていたら、もっと早く出ていたのに、と思いました。

実は、去年の9月。僕の誕生日の夜に社員一同とタイムズスクエアのホテルのカフェに行った際に、ばったり再会しました。約17年ぶり。ウエイトレスとして働いている彼女が僕たちのテーブルに注文をとりにきた際、どっかで見たことある顔だなぁと思っていたところ、彼女から話しかけてくれました。左手には指輪がありませんでした。

次にシェアしたのは、ブラジル人の男性。とても気があって、頻繁にふたりで遊び歩きました。父親が母国で映画関係の仕事をしていたらしく、将来オレは大物映画監督になる!と口癖のように言っていました。アントニオのフルネームでSNSで検索しても、数えきれない人間が出てきて、未だ消息不明です。もちろん映画業界ではまだ名前を聞きません。

そして、次はシンガポール人のおばさん。結果、そこには今の嫁の自宅に転がり込むまで住み、最後のルームメイトになるのですが、彼女はいつもごはんを食べさせてくれました。中国に別れたご主人と娘さんがいたみたいなのですが、複雑な事情らしく、当時の僕の英語力では相談相手にすらなれませんでした。日本で母が急死した際、すぐに帰国、いつ戻ってこれるかわからない状態になった時も、最後の月は「家賃ももういいから、すぐに日本に帰りなさい」と言ってくれました。何もお礼もできないままだったのですが、数年後、日本食レストランのウエイターとして働いている彼女と再会しました。当初、まったくお金も職もなく、ごはんを食べさせてもらっていた僕が、社長業をしていると他の人から聞いていたらしく、再会した時は涙を流してハグしてくれました。

うちの社員も、シェアハウスでのルームメイトとのエピソードに事欠きません。

スイス人の女性ルームメイトに、部屋でタバコを吸っているところを注意したら、「あんたの冷蔵庫に入ってるクッサい豆の方がよっぽど迷惑よ!」と逆ギレされたり(確かに日本人の僕も納豆の匂いは苦手かも)、オランダ人の推定200キロのおじさんが、部屋から全然出てこないので死んでるんじゃないかと何度もノックすると「うるさいっ!」とピザを咥えたまま怒鳴り返されたり(異様な匂いは彼女の部屋まで漂ってきていたそうです)。

6人のルームメイトが全員中国人女性だった、女性社員もいました。どうしても出されたケーキの上に乗ってる鳩の頭が食べれなくて苦しんだ(冷蔵庫の中の鳩の手の甘酢漬けのせいで、未だに道端の鳩すら恐怖症になったそうです)と言っていました。イスラム圏のルームメイトに、悪気なく豚肉入りの「餃子」を食べさせてしまい、あとで訴訟問題にまで発展しかけた男性社員もいます。

そう、この街でのルームシェアとは文化、習慣も一緒にシェア。家賃が高騰し、他にチョイスがない状態で、あらゆるバックボーンが違う人間と、一緒に暮らすことを意味します。単純に、一つ屋根の下で家賃を浮かせるだけの結果にとどまりません。

で、特徴なのは「致し方なく」という点です。誰も、窮屈な思いをするルームシェアをしたいなんて思っていません。一人暮らしの方が気楽に決まっている。どんな習慣があるのかも知らない状態で、見ず知らずの非日本人と暮らすということは少なからずストレスも伴います。でも、するしかない。常識的な家賃に落ち着かせるためにはそれ以外の方法がないのがこの街の現実です。だからこそ、不可抗力の中でこそ、異文化体験をこれ以上なくすることになるのです(本人の希望とは関係なく)

今回、先月まで日本でルームシェアをしていたという新入社員に話を聞いてみました。彼女はハッキリと「(ルームシェアが)おしゃれで流行ってるんですよ♪」と言いました。長年、それ以外に方法がなくルームシェアをしている弊社社員は全員、口をあんぐり開けました。彼女はルームシェアする必要もないのに、自らルームシェアを選んだ。

日本でのルームシェアは、もちろん生活費の節約や家事の分担というメリットが最大の理由ではあると思いますが、それ以上に「話し相手が欲しい」とか「相談相手が欲しい」とかが、理由に入ってくるそうです。都内23区であれ、ニューヨークほどは家賃は高くない。レントを安くあげるだけの理由では、流行する理由には確かにならないのかもしれません。

「ルームシェアをしてるってことで、生活も楽しくなるというか、インスタ映えもするというか…」そう続ける彼女に、社員連中全員、顔がクエスチョンマークになっていましたが(笑)僕はわからなくはないと思いました。生活が向上して、そのうえ家賃が安く上がるのであれば言うことありません。素晴らしい方法だとも思います。

「でも、当然、ひとりでいるよりもストレスを感じることもあるだろう?」そう聞く僕に「もちろん、そうですけれど、それも人生経験っていうかぁ、“ルームシェア”をしている自分っていうのが、自分で好きっていうかぁ、人に言えるじゃないですか、ルームシェアしたころがあるんですって」とハッキリ言い切りました。

なるほど。でも、最後、僕はこう言いました。

「いいじゃん。でも、うちのインターンはきびしいよ♪インターンしてる自分が好きって感じの仕事はないよ。インターンのためのインターンはいらない。人に話すための用意されたインターン仕事もない。ぜーんぶ、実践。じゃないと本当の人生経験にはならないから」

スタイルのためのスタイルはない。すべてがパッケージされてるサンプリング人生より、ガチンコなサバイバルライフを。

彼女は今日からハーレムのスタジオでイラン人とのルームシェア。インスタ映えよりずっと楽しく、面白く、苦しく、悲惨で、暖かくて、厳しい生活が待っている。

image by: Monkey Business Images, shutterstock.com

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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