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ボーっとする時間を人から奪う、スマホ。脳に悪影響はあるのか?

最近世間では、5才の女児に「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られる事案が頻出していますが、最新の脳科学においては、「ボーっと」する時間が重要視されていると指摘するのは、メルマガ『8人ばなし』の著者・山崎勝義さんです。山崎さんは、テクノロジーの発達により与えられた時間が、別のテクノロジーにより奪われていく現実の中でも、「細切れ時間」を奪っていく「スマホ」利用に関し、精神面・身体面の影響を懸念しています。

細切れ時間とボーっと時間のこと

航空機の発達により人が空を飛ぶようになってから地球は狭くなったと言われる。勿論比喩的表現だが、実際に移動時間が短縮されたということを考えれば人にとっては地球表面が空間的に圧縮されたも同じであろう。結果、現代人には利用可能な時間が増えた。さらに日々の技術革新は機内や車内の居住性を大幅に向上させ、移動中においても屋内と変わらないと言っていいほどの環境を提供できるまでになった。これで利用可能な時間がまた増えた

このように、ある種のテクノロジーは人間に時間をくれるのである。しかし、その一方で人間から時間を奪って行くテクノロジーもある。

古い方からざっと並べると、ラジオ、テレビ、録画機、PCそしてスマホなどがそうである。これらのものと出会ってしまったがために、例えば受験生などは随分と苦労を強いられたりしたに違いない。また、これらの機器は、一たび我々の生活の中に取り入れられるや、時代と共に姿を変え、さらに性能を向上させたりしつつ、決してなくなることはない。

それでもスマホ登場前夜までの機器は、ある程度まとまった時間を要求する物であったために、こちらの側にもそれなりの時間的見積もりが可能であった。そもそもテレビと録画機は持ち出し不能の謂わば物理的据え置き機器であり、またラジオ、テレビはコンテンツ送出時間にこちらが合わせなければならないという謂わば時間的据え置き機器である。据え置きである以上、どうしてもこちらの方で融通を利かせる他はない。好む好まざるに依らず時間的な見積もりは当方にとって致し方のないことであった。ノート型PCはその点自由だけれども、これとて展開にはそれなりの時間と場所を要する。いつでもどこでも、という訳にはいくまい。

だが、スマホだけは事情が異なる。物理的にはポケットに収まるほど小さく、時間的には数秒で何かができるほど利便性が高い。つまり、この機器だけが細切れの時間をこまごまと奪って行くのである。その威力は、形小なりと雖も絶大である。それこそ塵も積もれば山的に膨大な時間がそういった意識もないままに奪われて行く。空きの5分、10分で、を4回やればもうそれで1時間なのである。

「どうせ空き時間なんだから、寧ろ有効利用ではないか」という意見もあろう。勿論、それを否定するものではない。ただ、ここで強調しておきたいのは、その副作用の方である。

本来人間は手を抜く生き物である。これは怠け者ということではない。一例を挙げれば、我々が雑踏の中で特定の音声だけを聴き取ることができるのは、この手抜き能力のおかげなのである。自分を取り巻く全ての音声をいちいち脳が解析していたのでは、とてものこと弁別できるものではない。耳には入っていながらそのほとんどの音声を無意識的に無視し、大切な音声のみを抽出して聴き取っているからこその芸当なのである。

このような手抜き、間引きをすることで、脳の機能が飽和することを回避しているのである。脳にとって細切れの空き時間は手抜きをするのに最も適した数分間なのである。最新の脳科学においては、ヒトが記憶や思考を整理するためにはボーっとしている時間が重要な意味を持つ、という考えが主流である。

この考えを積極的に取り入れ、従業員の業務効率向上のために瞑想(meditation)や座禅の時間を既に設けている会社も海外には(特にIT業界に)多いと聞く。しかしながら、細切れの時間を奪うことに容赦のないIT業界から逆にこういった動きが出て来るということ自体、何とも皮肉なことに思えるのだがどうだろうか。

我々はスマホという、実に便利で実に厄介なガジェットを手にした。ほんの少しの空き時間でもできれば(下手をすると空き時間でなくても)、最早反射的にスマホを手に取るといったライフスタイルである。そうしているうちにも、じりじりと貴重な「ボーっとするための時間」は切り取られ、今までは存在しなかったような新しいストレスに知らぬまま曝され続けるのである。

そして、いずれ遠からぬうちに、この問題が堰を切ったように一気に顕在化し、精神面・身体面を問わず、様々な不調・失調を訴える人が続出する、といった不幸な状況が起こるのではないか、そんなことを懸念するのである。

image by: metamorworks, shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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【著者】 山崎勝義 【月額】 ¥220/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 火曜日 発行予定

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