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日本のために首脳会談を決裂させたトランプが目論む「皮算用」

非核化を巡る条件が折り合わず、事実上の決裂となった米朝首脳会談。事前の日米首脳電話会談で、完全なる非核化を強く求めた安倍首相の意見が取り入れられたとも言われていますが、その「代償」は小さくないようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では著者の津田慶治さんが、今月中にも始まるとされる日米通商交渉でトランプ大統領が「北朝鮮への非核化要求を日本との取引カードに使う」とした上で、相当に厳しい要求が来ることを覚悟すべきと記しています。

非核化と日米通商のバーターか

米朝首脳会議は決裂し、次の話題は米中首脳会議と日米通商交渉に移っている。日米株価は上昇しているが、今後はどうなるのであろうか検討しよう。

日米株価

NYダウは、12月26日21,712ドルまで下がり、PKOなどで2月6日25,439ドルまで戻した後、2月25日26,241ドルまで上昇し、3月01日26,026ドルになる。

ライトハイザー通商代表が、中国との交渉で構造改革部分でまだ交渉が難航していると発言して、今までの米中通商交渉楽観論が少し遠のいた。しかし、パウエルFRB議長の利上げを当分しないという議会証言で、適温相場に戻ったような雰囲気が一層濃厚になっている。まるで、FRBの政策目標が、株価安定のためであるかのようだ。FRBは、雇用安定、物価安定が二大目標としていたので、三大目標に変更したような感じにもなっている。

NYダウと連動して動く日経平均も、12月26日18,948円になり、12月27日にPKOを行い20,211円まで戻して、その後も上昇して3月01日に21,625円まで上昇した。こちらも22,000円に迫る上昇であり、上昇が止まらない

日米ともに、景気後退の方向であるのに株価だけは上昇ということになっている。円ドルの為替相場は、レンジ・ブレイク・アウトして円安ドル高になった。このため、3月1日の日経平均が上昇したのは、円安になったからである。ドルベースでは株価が下がり、買いが入ったようである。

株価上昇に伴ない、先行き下落と見る人が多いので、インバース系の持ち高が極端に増えていることで、ある投資銀行は、逆に積極的に買いに走り、買いの半数を占め、株価を踏み上げてインバース系持ち株の投げ売りを狙っているように見える。この状態で投げ売りが出ると、極端な株高になる。

また、ゴールドマン・サックスは、1月が底であり景気は持ち直したとも述べている。そして、投げ売りが出た時点で、ピーク株価になると見る。この動きから、最高値26,951ドルを越える可能性も出てきたように感じる。

米国も日本も国債などの債務残高が大きく、米国は今後も赤字幅が拡大していくが、国債などの債務残高を増やす方向である。米国の債務残高は2,200兆円であり、日本は1,100兆円である。どちらも債務残高が大きいが、金利を抑えることでデフォルトしないようにする。今、米国は先行きの景気が落ちると見て、国債の長期金利が下がり、金利負担が少ないので国債依存を高めるようである。しかし、金利上昇したら、FRBは量的緩和政策を即座に取り、金利上昇を抑える必要がある。

そして、大規模な財政出動を行い、景気を維持して株価を高値安定にしたいようである。日本は30年もこの政策を続けているが、デフォルトしていない事が証拠と、米経済学者は言っている。今の所、成功しているが、大丈夫なのであろうか?

ジム・ロジャーズ氏はもし、このバブルが崩壊したら、2008年のリーマンショックより相当に大きな世界的な経済崩壊になると言って警告している。ガンドラック氏も、遅くても2020年から2021年に債務危機が来ると言っている。

米朝首脳会議

ハノイの米朝首脳会談は、コーエン氏の議会証言と同時になり、米国の全テレビ局の中継が、コーエン議会証言になってしまい、トランプ大統領が望んだ首脳会談に注目が行かなかった。その上、コーエン氏の証言で少なくとも選挙資金の不正利用が濃厚となってしまった。

それかどうかは知らないが、北朝鮮が希望した寧辺(ニョンビョン)の核施設を完全解体するという部分的非核化に対して、韓国も望む開城の工場団地再開などの一部の経済制裁解除を行う方向で、米国担当者は、北朝鮮担当者に話をしていたが、首脳会談で北朝鮮は、トランプ大統領が弱気であると見て、実質すべての経済制裁解除に引き上げた。北朝鮮には、寧辺の他に秘密の核濃縮施設があり、少なくともその解体をトランプ大統領は要求したが、金正恩委員長は拒否した。このため、トランプ大統領は署名せずに合意を先送りした。

米トランプ大統領は、完全な非核化の道筋の提出がない限り経済制裁解除もないと金正恩委員長に明確な形で言ったようだ。この条件を持ち出したのは、安倍首相とトランプ大統領の電話会議で、安倍首相が強く主張したからのようである。

このため、ボルトン補佐官は、米国担当者ベースの合意内容で韓国と調整するはずが、急遽、韓国訪問を中止した。何かあると思ったが、最終局面で、日本の安倍首相との電話会談でトランプ大統領が意見を変え、電話会談に出席していたボルトン補佐官もトランプ大統領の意見が変わったと知ったので、急遽、韓国行きを止めたのである。ボルトン補佐官は、当初首脳会談に出席予定ではなかったが、韓国との調整にために出席になった。

米朝首脳会談の記者会見でもトランプ大統領は、アジアの同盟国との関係から合意文書に署名しなかったと発言している。このため、トランプ大統領は、日本に見返りを要求してくる。

そして、NY株価は、合意見送りでも下げずに上昇している。米朝首脳会談を材料視もしていないようである。ノーベル平和賞狙いの首脳会議をしても、何も得るものがなかったようだ。

トランプ大統領は、この合意見送りで中国に対しても簡単には合意しない信号を送り、中国も身構えている。新華社の記事では、重大な局面を向かえるかもしれないと評論している。ライトハイザー通商代表が中国との交渉で厳しいので、トランプ大統領はもう少し緩くしろと注文したようであるが、最後はライトハイザー代表の意見を聞き入れる可能性も出ている。

トランプ大統領は、株価安定には、FRBの利上げ見送りと資産縮小停止でよくて、米中通商協議で少しぐらいもめても大丈夫と見たようである。FRBの緩和方向の姿勢が重要と思っている。

合意見送りで一番影響が大きいのが韓国で、開城の工場団地再開により賃金の安い北朝鮮労働者を使えるので、コスト的に中国より断然優位になると見ていたが、それができなくなってしまった。経済の悪化を乗り越える切り札と見ていたので、文大統領には大きな誤算になっている。

今後の展開

トランプ大統領も金正恩委員長も、再度米朝首脳会談を行い、合意に達するというが、北朝鮮は核濃縮施設をすべて解体する必要があり国内タカ派の反対を抑える必要がある。一方、金正恩委員長も対米交渉を諦めて、中国と韓国に対して実質的な経済制裁緩和を行うよう交渉する可能性もある。

米国は、北朝鮮がミサイル実験や核実験を行わない限り待てるし、テレビ局が首脳会談を中継しなかったように、米国内の関心は大きくないので、トランプ大統領は、北朝鮮への非核化要求を日本との取引カードに使うようである。

韓国は、事前調整を行い、一部非核化と一部制裁解除の筋道をつけていたが、北朝鮮が要求を引き上げたことで、うまくいかなかったと見て、米朝の仲介を今後も行い、北朝鮮への一部制裁解除を模索する。

米国と北朝鮮が合意しない場合でも、韓国は自国経済復活からも開城の工場団地再開を行う必要があり、国連に特例を要求するようだ。

日米通商交渉

トランプ大統領は、合意見送りの見返りとして日本との通商交渉では、日本が折れるべきと述べている。非核化と日米通商交渉のバーター取引になってしまったようだ。そのため、日米首脳電話会議後、すぐにライトハイザー代表は3月から日本との交渉を開始するとした。為替も議論に入ることになり、自動車の輸入台数制限も入れることになったようである。

安倍首相も為替が議論になるので、日銀の黒田総裁を官邸に呼んで、円安にしないための金融緩和縮小の政策策定、または、円・ドルリンク体制移行の実行手順作成を要請した可能性がある。日銀も、長期国債の買い入れを控えるようである。

日米通商交渉が3月から始まることで、日本も身構える必要が出てきたようである。日経平均株価上昇がいつまで続くか、この意味からも疑問である。相当に厳しい要求が来ることを覚悟した方が良い。

インド・パキスタン紛争

インド治安部隊の隊員が多数、待ち伏せされて、パキスタンのイスラム勢力に殺された。その報復のために2月26日に、インド空軍機がイスラム勢力の根城であるパキスタン北東部を空爆し、この時パキスタンは迎撃しなかったことで、批判され報復のために、27日パキスタン空軍機が、インド側カシミール地方を空爆した。インド側はMIG21で迎撃し、パキスタン側の攻撃機はF-16であり、インド側MIG21が2機撃墜された。F-16を1機撃墜したとインド側は発表しているが、パキスタン側は否定している。

国際社会は、核保有国である印パ両国が軍事的な緊張を高めないよう自制を求める声明を相次ぎ公表。ポンペオ米国務長官は「印パ両国は自制を発揮し、いかなる代償を払っても事態をエスカレートさせないよう求める」とする声明を出した。

パキスタン側は、MIG21のパイロットを捕虜にしたが、釈放をすると述べ、パキスタンのカーン首相は「この状況が悪化すれば、私自身やナレンドラ・モディ(印首相)の統制が利かなくなる。インドには再び、対話を呼びかけたい。我々の準備は整っている」と強調した。しかし、現時点ではカシミール地域での砲撃合戦が続いているようである。

核保有国同士の報復合戦に発展すると、いつか核戦争に行く着くので、報復の連鎖は怖いことになる。最初の原因であるパキスタンにいるイスラム原理主義者は、いろいろな紛争をパキスタン国内と周辺諸国にまき散らしているが、その取り締まりをパキスタンが原理主義擁護のサウジとの関係から行わないことが根本原因である。というより、パキスタン情報機関はこの原理主義者を利用していることで、インドや周辺諸国は不満を持っている。

このイスラム教原理主義者をパキスタンが駆逐しない限り、報復の応酬が起きる可能性が高いと見る。原理主義者がいるので、アルカイダやISなども、パキスタンを根城にする可能性がある。

パキスタン政府の対応が、問題になると見る。イスラム教圏との境の地域は、イスラム教原理主義者によるテロや紛争で大変なことになっているが、今回の件も同様な事案と見える。

イスラム教を甘く見てはいけない。イスラム教スンニ派を移民させると、原理主義者も入ってきて、日本の中でもテロ活動を行う可能性があり、移民としてイスラム教スンニ派を入れてはいけない。

それを、この件でも強く教えている。

さあ、どうなりますか?

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国際的、国内的な動向をリアリスト(現実主義)の観点から、予測したり、評論したりする。読者の疑問点にもお答えする。

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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