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NYの「深夜の騒音」よりも日本の街なかの音の方が耳障りな理由

米国の邦字紙『NEW YORK ビズ!』CEOの高橋克明さんが発行するメルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』が今回紹介してくれるのは、ちょっと変わったニューヨーク名物・「深夜の騒音」事情です。時間も場所もお構いなしの工事音や鳴り響くサイレン音に警報音…。そして、そんな中で暮らしていると、帰国したとき「日本の音色」を耳障りに感じるのだとか。なぜなのでしょうか?

ニューヨーク・リアル・名物

ニューヨーク名物って何ですか?」いきなり日本からの観光客に聞かれました。

ここ最近は大げさでなく2日に1回は日本から観光で来られた方とお会いしています。以前は半日空けてでも、ツアコンよろしく、この街を軽く案内などしていましたが、さすがに今は、その数が膨大になり、ディナーだけご一緒させて頂くようになり、それも追いつかなくなりランチだけご一緒させて頂くようになり、それも追いつかなくなり、編集部前のカフェでお茶だけご一緒させて頂いてます。(メルマガ購読者のみなさんは、もちろん!半日!ツアコンいたします!)

先週、来られた某大手エレクトロニクスメーカーの方に、聞かれたのが上記の質問。名物?え。食べ物ですか…ベタですが、ベーグルとか…ホットドッグとか?……そう答える僕に「いえ、食べ物に限らず、ニューヨークと聞いて、今、真っ先に、高橋さんの頭に浮かんだものです」と禅問答のようなこちらを試してるの?というような質問。

真っ先に頭に浮かんだものは……真夜中の騒音…ですかね。と正直に答えました。真っ先に浮かんだものがそうなのだから、しょうがない。自由の女神でもなければ、ブロードウェイミュージカルでもなければ、エンパイア・ステート・ビルなんかでもない。そんなものは渡米1年目でありふれた景色に変わってる。

僕の答えに満足したのか、してないのか、相手は微妙な顔になりました。「昼間は確かにうるさいですけど…真夜中もですか?」聞けば、彼の宿泊先は今流行りのブルックリンのホテル。ミッドタウンには、日中しか訪れたことがないと言います。

夜中のゴミ収集車は、まず日本では聞くことのない音でゴミを収集します。どうしてゴミを集めるためだけに、あんなバックブザー音をトラックから出す必要があるのかは、ビタイチわかりません。夜中だから静かにしようという概念が丸ごと抜けてます。誰ももう注意しません。したところで「こっちは仕事中だ!」と逆ギレするに決まってる。

自宅はレキシントンアベニュー、オフィスはお隣のマジソンアベニュー、どっちもマンハッタンのど真ん中ですが、道路中央を騒音を立てながら工事していない時期は、この10年ありませんでした。来年度の予算確保のための意味のない工事は日本でも同じなので我慢するにしても、あのダダダダダダという爆発音を夜中の2時に振りまく感覚はニューヨークならではだと確信します。(えらいもんで慣れました)。

日中、ほぼ毎日のように、消防車のサイレンが響き渡ります。日本からの観光客は「なにかのイベント?」「映画の撮影?」と必ず音がする方向を振り向き、ただの消防車を(なぜか笑顔で)写真撮ってます。「あんな轟音、日本では聞いたことなぁ~い」とか言って。それが真夜中も同じ頻度なので、住めば笑っていられなくなります。(えらいもんでこれも慣れました)。

なにより、人、ニューヨーカーが出す騒音

レキシントンアベニューのお隣がサードアベニュー。ここはアイリッシュバーが乱立しています。バーだらけ。酔っ払いニューヨーカーたちは、平日週末構わず、大声で騒いでいます。飲んだくれが、大声で仲間を呼び、バー自体からもどデカイBGMが漏れ聞こえます。(まさかのこれすら慣れていきます)。

で、その中でも、もっともうるさくて、不快な騒音が、路上駐車している車の防犯アラーム。多分、これを読んでくれている人の中で、ニューヨーク在住の方がいらっしゃったら、絶対、笑ってくれるはずの「ニューヨークあるある」。

しかも、実際に盗難されているから鳴り響くのではなく、故障か持ち主のミスが原因で作動します。だってほぼ毎晩だもの!

なので、住人みんながその原因を知っているので、だーれも騒がない。まったく意味がない。元々の役割をなしていない。また、鳴ってるよ、てなもんです。当然、泥棒をひるませる為の音。あまりにうるさくて、あまりに嫌な音。これが真夜中から朝まで大音響で鳴り続けます。(しかも人間、怖いのはこれにすら慣れます)本当の泥棒の時、どうするんだろう。

ここまで読んで頂いている方には、「そっりゃあ、おまえんとこの家が、治安悪いエリアなんだろう」と思われるかもしれません。でもね、この際、言っちゃうけど、うちのエリアは「MIDTOWN:MURRYHILL」という、いわゆる高級住宅エリアなんです(ちなみにうちは1ベッドルームのマッチ箱)。もっとも、マンハッタンで治安がいいと言われているエリアのひとつでもあるんです。

つまり。ここで、こんだけうるさけりゃ、ダウンタウンやヘルズキッチンあたりは、もっとうるさい。結局、ニューヨーク、特にマンハッタンに住むってことはつまりはそうゆうことなんです。

やっぱりニューヨークは戦う街。学生であれ、ビジネスマンであれ、何かをする街。静寂を求めて来る場所ではない。日本人の僕にしてみれば、やっぱり最初は苦痛だったと思います。

それが、先日。妻の実家である埼玉県の所沢市に泊まった時のことでした。夜、静かすぎて、眠れない自分を自覚しました。ふと横を見ると、いつもはベッドに入った瞬間いびきをかく妻も目を開けて天井を見ています。

「…静かすぎない…?」「うん……なんだか落ち着かないね」人間の慣れって怖いなぁってつくづく思います。

ちなみに、うちには3歳の双子がいます。彼らは当然、生まれた時からその騒音にさらされています。大人が耳をふさぐ消防車のサイレンの音も、Fワード連発でよくガナリあってる喧嘩の音声も、最大音量のクラクションの音も、まったく我関せず、ベビーカーでも、ベッドでも、爆睡しています。両方。その寝顔を見て「おまえたちは、生粋のニューヨーカーなんだな」とつぶやいたりします。

ときには心が癒える音色も

でも、悪い騒音だけではありません。夜半過ぎ、面しているレキシントンアベニューから、いつも、物悲しい、そして優しくも甘い、あまりにも上手な口笛が聞こえてきます。多分、南米かそのあたりの民族民謡なのか、耳に心地いい音色です。

決まった時間に必ず聞こえてくる、その誰が奏でているのかわからない口笛を、ほんの1分くらいですが、BGMにして眠りにつく。そんな日々がある時期、続いていました。

共有のランドリーで、日本人の新入居者に挨拶された時のこと。同世代のその女性に、ランドリーのルールなどを聞かれていた際、彼女がふと「そういえば、ここのマンション、夜、いつも決まった時間に口笛、聞こえてきません?」と尋ねてきました。どこの誰だか知らないけど、私、あの音色が好きで、と。

確かに、いい曲調ですよね、と僕が言うと、彼女はウットリした表情で「ユアン・マクレガーみたいな人を勝手に想像しているんです」と、口笛の主を推測していました。

翌日、残業から帰宅した際、マンションの入り口で、例の口笛が聞こえてきました。振り向いた僕の横を、3頭身のハゲてるチョビヒゲのメキシカンが、デリバリー用の自転車に乗って、横切るところでした。あの音色と共に。条件反射的に、その自転車を「待って!」と捕まえてしまいます。

びっくりした、その小太りアミーゴは吹いていた口笛をヤメ「ソーリー!」と謝ってきます。鼻毛大放出のまま。そりゃそうだ。気分良く口笛吹きながら仕事してたら、見ず知らずのアジア人に捕まえられたのだから。

「いや、こっちこそ、ごめん。あの…いつも口笛吹いてるの…おじさん?」そう聞くと「うるさかった?ふるさとの子守唄なんだよ」と照れた表情。鼻毛大放出のまま。「いや…これからも。とても好きだから…」と強引に作った笑顔でお礼を言って、そのマショマロマンのような“ユアン・マクレガー”を見送りました。

彼は再び、口笛を奏で、去っていく。鼻毛大放出のまま。ランドリーで会った彼女には内緒にしておこうと思います。知らない幸せ。知っちゃう不幸。

で、そんな騒音に慣れっこなニューヨーカーですが、やっぱり我慢できないのもニューヨーカー。市が実施する毎年のアンケート調査では、毎年、毎年、「騒音なんとかしろ!」というクレームが必ずランクインされます。歴代の市長は、この北米一「うるさい街」と戦う運命となります。

マイケル・ブルームバーグ(市長)時代(2002~2013年末)の前半では、「サイレントナイト・キャンペーン」も実施しました。日本語風に言うなら「静かな夜運動」。騒々しいバーや、必要以上のクラクション、意味のない大声を上げる酔っ払いから、それらに配置された警官が罰金をとっていきます。

一時期、ニューヨークのバーに「お願いだから!静かにしろ!じゃないと追っ払うぞ!」といった内容が書かれた張り紙が目につきました。

で、それらを「軽犯罪」として取り締まり、実績を上げ、これだけ取り締まりました。治安もよくなったでしょ、的な政治シーンに利用してる!と市長が叩かれた時期もありました。それらを「犯罪」にカテゴライズして、実績を上げたように見せかける数字のトリックを使って、支持率を上げようとしている、と。

だからなのか、そのサイレントキャンペーンも、いつのまにか暗礁に乗り上げられ、一時期ほど耳にしなくなった気がします。そして、またこの街にバーの喧騒と騒音が戻ってきています。

日本の街中で聞く「音色」をうるさく感じる理由

結局、「うるさい!なんとかしろ!」と喚いてるニューヨーカー自身も「うるさい」。人のことを言えない、自分を棚にあげちゃいけない集団がニューヨーカーなのだと思います。他人に静かにしろ!と注意するなら、自分も静かにしなきゃいけない。そんなの無理だとどこかでみんなわかってる。なので、多少の音は我慢しよう。それが偽らざるニューヨーカーの本音なのではないかなと思います。

そういう僕も慣れてきました。今では埼玉の茶畑の静けさは落ち着かないけれど、FDNY(NY市消防局)の耳をつんざくサイレンはどこかで心落ち着くようになってしまってる。つくづく、慣れって怖いなと思います。

先日の東京出張。「ドアが閉まります、お気をつけください」と何度も何度も何度も、親切で繰り返すエレベーター内の機械音が。歯医者や美容院までのコマーシャルを無機質な声で流す市営バスのアナウンスが。健康的で明るい、その店独自のオリジナル曲をヘビーローテーションで流すスーパーマーケットと、そのスーパー内の、あえてガラガラ声で、ブリだのイワシだのを押し付けようとする鮮魚コーナーの音声が。心の底から、うるさい、と思ってしまいました。

どうしてだろう。明らかに、ニューヨークの騒音の方が、音量はでかい。しかも、ランダムだ。調和なんてない。好き勝手にうるさいニューヨーカーたちに比べれば、これら日本の音声は、いちおうは丁寧で、しかも、リズムも一律で調和的だ。

わかった。それだ。それが原因だ。それが心地悪いんだ。

image by: Club4traveler, shutterstock.com

高橋克明この著者の記事一覧

全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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