日本を代表する作家・評論家、堺屋太一氏と渡部昇一氏。惜しくも故人となってしまった二人が日本の歴史を振り返り、そして現代に至るまで日本を支えてきた偉人たちについて語る対談を掲載した一冊を、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが詳細にレビューしています。
偏屈BOOK案内:『歴史の遺訓に学ぶ 日本を拓いた偉人たち』
渡部昇一・堺屋太一 著/致知出版社
堺屋太一、渡部昇一、竹村健一、妙にウマの合った三人は「三ピン」と呼ばれた。この本で対談する二人は故人。渡部のあとがきに平成28年2月下浣とある。下浣とは下旬のこと、初めて知った。この対談は、日本の基礎を築いた偉人たち、戦後日本を発展させた政治・経済・文化のリーダーたち、日本の進路を見定める、三部構成である。28人の偉人について存分に語り合う。
堺屋著の『日本を創った12人』では、聖徳太子、光源氏、源頼朝、織田信長、石田三成、徳川家康、石田梅岩、大久保利通、渋沢栄一、マッカーサー、池田勇人、松下幸之助。渡部著の『理想的日本人「日本文明」の礎を築いた12人』では、聖徳太子、紫式部、西行、源頼朝、織田信長、徳川家康、松尾芭蕉、大久保利通、伊藤博文、松下幸之助、野間清治、岸信介。共通する人が何人も。
この二人の著作に戦後の豊かな日本をつくった人という見方で、付け加えるとしたら、所得倍増計画の池田勇人、沖縄を取り戻した佐藤栄作。産業界では豊田英二と豊田章一郎。二人に異論はない。二人とも「松下さんが英雄」という。
バブル崩壊後に衰退する「現在の日本」の責任者たちも挙げなければならない。堺屋はその代表として戦後の官僚達たちを「悪の凡庸」として挙げた。渡部は『古事記』を編纂した太安万侶の努力が仮名を生み、『源氏物語』が生まれたと説く。堺屋も日本語の基礎をつくった太安万侶は抜かせないと同意する。
というわけで、28人の偉人と関係する人たちを交えた「日本を支えた偉人」たちを語る。紫式部・光源氏=流行の先端にいる人たちを驚かせた『源氏物語』の世界観(渡部)。日本のトップは何も決定しないという伝統を作った光源氏(堺屋)。世界中で日本だけが一民族一国家一文明であることを象徴するのが『源氏物語』だ。こうなったら、橋本治『窯変源氏物語』に挑戦するかな。
江戸時代の石田梅岩は知らなかった。滅私奉公的な日本人の労働観を支えてきた人であり、宗教を相対化して心を磨く大切さに重きをおいた人でもある。日本人の感受性は松尾芭蕉の「わび」「さび」によってつくられた。西郷と比較されて人気薄の大久保利通だが、なりふりかまわず殖産興業を実現し、新日本の基礎をつくった大胆な改革者がこの人。大久保の後継者が伊藤博文である。
そして、戦後日本を発展させた政治・経済・文化のリーダーたちが続々と現れる。「所得倍増計画」の池田勇人。日本の高度成長を実現させた岸信介の安保改定。万国博覧会と沖縄返還、日本の青春時代のリーダー・佐藤栄作。国民的英雄になった、世界でも珍しい実業家・松下幸之助。名前を知る人ばかりだ。
この本の偉人は中学校の日本史教科書ではどう扱われているか。図書館で調べた。東京書籍の2016『新しい社会 歴史』には、渡部・堺屋の選んだ28人中13人しか入っていない。太安万侶、石田梅岩がいない。松下幸之助、小林一三、堤康次郎、五島慶太、豊田英二・章一郎、中内功、鈴木敏文、岡田卓也、松永貞一郎などの実業人は全滅。いくら左傾出版社といってもなあ。
編集長 柴田忠男
image by: Shutterstock.com