反社会的ではなくても、例えば「この資材管理システムは、データーベースを2種類持っていて非効率」だが、それは昔からの経緯で、「F社とN社とのしがらみ」があるので、一本化できないなどという、トホホな話もあります。このような事例の場合は業務引き継ぎの中で「2種類のデータベースがあって面倒だけど、昔からの経緯があるので諦めなさい」みたいな話が引き継がれるわけです。
あるいは、2種類のデータベースを運用する場合に、トラブルにならないための微妙な運用のさじ加減みたいな点を、必死になって引き継ぎ、それを覚えるというようなこともあるはずです。
ということは、引き継ぎの中身というのは「反社会的と言われても仕方がないので、マニュアルに書けない」実務について、コッソリと口頭で延々とそれを継承する、とか、「あまりに古臭くて改善すべき」だが「しがらみがあるので改善は無理、だからこうしなさい」といった内容、つまり「反社会的で、反改革であるような業務姿勢」を「続ける」ためのコミュニケーションをやっているわけです。
こうなると、引き継ぎということ自体が、会社が良い方向に変わるチャンスを潰している、あるいは会社の良くない「闇」の部分を、口頭でコッソリそのまま変えずに伝えるというようなことをやっていることになります。
いずれにしても、この年度替わりの季節、多くの官庁や企業で「業務の引き継ぎ」が行われていると思います。一見すると、重要な仕事に見えますが、そこに仕事の進め方の問題点が浮き彫りになっている、その点を見逃してはダメだと思います。
ちなみに、欧米やアジアの企業では、多くの場合、業務引き継ぎは行いません。理由としては「辞める人間にマトモな引き継ぎは期待しない」とか、「新任者には、自分の知識と経験による自由裁量が期待されているから」ということがあります。
重要なのは後者で、スキルや経験を評価されて転職し、あるポジションに就いた場合には、そのスキルや経験を生かした業務が期待されるのであって、そのポジションの前任者からの引き継ぎなどは、むしろ必要ないという考え方を取る会社が多いのです。
この点から考えても、日本の組織が「真面目に業務引き継ぎをやっている」というのは、それ自体が結構ガラパゴスなのかもしれません。
image by: Shutterstock.com