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【書評】現役医師が明言「口腔ケアを怠らなければ長生きが可能」

医療は日々進歩を続けており、「病気で人が死なない時代」がやってくるとのことなのですが、これを幸せと思うか否かは議論が分かれるところでもあります。我々の心は、どう不死と向き合うことになるのでしょうか。そんな医療が完成した不死時代について書かれた一冊を、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんがレビューしています。

偏屈BOOK案内:『Die革命 医療完成時代の生き方』

Die革命 医療完成時代の生き方
奥真也 著/大和書房

著者は医師医学博士経営学修士MBA)。270ページのハードカバー。本文は白地の面積が大きく、字詰めは短く行間が広い。ゴシックでサイドライン付きの部分がたぶん大事な記述。とても読みやすいのだが、ソフトカバーで安価な造本のほうがうれしい。ゴシック記述は見開きに1~2個所、それを拾い読みすれば、とりあえず医学の最新情報や、著者の言いたいことが分かる。たぶん。

という6章立て。一番最初の強調は「病気では人が死なない時代、『不死時代がやってこようとしています」であった。なんて迷惑なことを~。病気に対する医療の勝利とやらで、これ以上、超高齢者が増えてどうする。

脳出血、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、エイズ、がん、あらゆる病気が克服され始めている病気による死亡率はやがてゼロになる。完治できるのか、と思ったら「病気の9割は治らない」のだという。医療の立場から言えば、それでかまわない。病気の9割は医者にとって常に「病気」というステイタスにある。一病息災、完全に治癒しなくても、日々の生活に支障がなければいいのである。

救急医療体制の整備で「不慮の死」も劇的に減った。これと密接な関係にあるのが画像診断装置の進歩と普及である。また基礎体力の向上生活習慣病管理の進化による高齢者の健康強化がある。これと並行して重要なのは喫煙率の低下である。2020年4月に施行される改正健康増進法では、病院は完全禁煙に移行し、分煙さえも認められなくなる予定である。まことに結構なことだと思う。

すべての病気を克服してしまうのが「医療の完成」だとするなら、現在は9合目まできている。9割ではない。現在の人間は、病気だけでは「死ぬ理由」がなくなりつつある。だが、残りの1合には何があるのか。「あと少し」であり「もっとも困難な課題が待っている」というニュアンスが含まれる。

それは、発見・アプローチが難しい病気症例が圧倒的に少ない病気急死の三つにあてはまるものだ。たとえば膵臓がん、胆管がんなどである。自覚症状が現れにくく目立たず、病状が進み数値の異常として現れる頃にはかなり状態が悪くなっている。症例が少なく社会的関心が低い病気には、公的な予算が投入されない。急死は、大動脈解離、くも膜下出血、急性心筋梗塞などである。

医療を取り巻く制度にも問題がある。それは公的医療制度である。そこには二つ特徴がある。病院への「フリーアクセス」と「国民皆保険」である。前者は、「誰でもあらゆる病院に行って診察を受けることができる」という、世界にも珍しい制度だ。軽微な症状なのに、高度な医療技術を持つ大病院に行く患者がいる。医療が非効率化して、一部の病院や医師に過度の負担がかかっている。

高度で高額な様々な医療の登場と少子高齢化の影響で、現行制度は青息吐息、とうてい未来永劫続けられる状況にはない。所得に応じた医療の最適化を図るのは必然の流れだ。多くの人が納得できる欧米型の民間医療保険が登場する時期に来ている。最後の1合を攻略する方法論は見えている。

人生100年時代が目前だという。健康問題に過度に気を使わなくても、長生きができるようになるらしい。「死ねない時代の到来だ。医療の進歩でもたらされる時間を、どう過ごせばいいのか。好むと好まざるとにかかわらず、長い長い人生をいやでも生きなければならない。そんなのまっぴらごめんだが。

著者は不死時代の恩恵を享受するための注意点を挙げる。死なない意志があること、死なないための充分な健康に気配り(不死時代に入場する努力)をする、不死時代の恩恵が受けられない例外的疾患にかからないこと(運)、これに尽きる。といわれても、金がなくては絶対に無理な話だし、100歳で元気な老人なんて、子孫に迷惑だと思う。わたしは遠慮しながら生きるなんて絶対イヤ。

生き永らえるのが本人にとって幸せとは限らないような、重篤な病状になった患者でも、医療により必然的に救命されてしまう。これが医療の発達が副次的にもたらす大きな問題だ。著者は、そのことはいったんおいて、もっと積極的な広い概念で、まだ元気なうちに死を選ぶという意味の安楽死について考える。

人生において自分がなし遂げたいことをすべて終えてしまい、もうそろそろ人生を終わらせたい、という種の積極的な選択としての死が許されるのかどうか。いろいろな理由で死を積極的に選ぶという行為は、今後、高齢者に身近なものになり、常にそういう選択肢の存在を意識する状況になって行くであろう。

そういう安楽死アタリマエの状況を制度として明確に許容するのか、そこはオブラートに包んだままにするのか、という問いかけが社会に突きつけられることになる。「つまり、死は単に与えられる存在としての『死』ではなく、私たちが選択する対象になるのです」。われわれはそういう「新しい死」の概念とつきあっていかなければならない。死はもはや不意にやって来るものではない

死は原則的に予想される状態でゆっくり来るものになる。医師の目からは、時代はすでにそうなっている。カラダの不死が実現してしまい、ココロが不死の時代とどう向き合っていくか、これは我々の考えもしなかった事態だ。「健康で長生きが当たり前になるそうだ。「健康で長生き」以外の、持続的な充足感や生きがいの形成、アイデンティティの再構築が必要、……ああ面倒くさい。

著者は断言する。「思いがけず命を奪われることなく、自分の人生に納得して最期を迎えることができるのです。『ダイ・ハード』という映画がありましたが、これからの私たちはまさに、なかなか死なないダイ・ハードな人生の主役をそれぞれ長期間演じていくのです」。いや、そんなこと望んではいないが。

貴重なアドバイスがある。毎日心がけるべきは口腔衛生、つまり歯磨きである。「口腔ケアは、生活習慣病のリスクという点において、不死時代における基本的な健康の獲得に大きな影響を及ぼすから」である。歯科医で定期的に歯石除去すれば、歯周病の悪化防止になる。歯のメンテナンスは最優先である。それは知ってた。殆どの医者はいらなくなるとはこの本で初めて聞いた。文章がわかりやすく、非常に読みやすかった。この本のタイトルは秀逸です。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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