人前で話すあらゆるシーンに役立つプロの技を伝えてくれるメルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』の著者で、現役アナウンサーの熊谷章洋さん。今回は、話をまとめるのが苦手な人でも、格段に話がわかりやすくまとまるという、魔法のようなひと言を伝授してくれました。さらに、「現場から3分」のような制約の中、内容と時間配分を意識することで磨かれる、すっきり必要なことを話すコツについても教えてくれます。
すっきりと、まとめやすくする話の始め方
「横着ファイリング話法」の考え方と実践法をシリーズで解説しています。話を枠として認識することによって、簡潔で分かりやすい話ができて、話す自分もすっきりする、という話し方です。
私は「話し方相談オンライン.com」において、話し方に悩む多くの方にアドバイスしているのですが、そういったご相談者さまのほとんどすべてに共通しているのが、今から自分が何について話すのか、明確に認識できていない、という点なのです。
実はこの「明確に」というのが、くせ者でして、話す自分からすれば、自分の頭の中のことを言葉にしていくわけですので、何について話すのかは、明確に認識できているつもり、なんですよね。
私が「どういう話ですか?」と質問すると、例えば、「先週、〇〇をしたことについてです」というお答えがあります。説明がうまくできないというご相談者さまの、話す前の認識は、だいたいこのぐらいです。
ところが、さらに、「その〇〇がどんなだった話ですか?」「その〇〇でどう感じた話ですか?」と質問すると、うーん、とちょっと考えて、「〇〇が、こうだった話」と答えてくれます。自分の体験ですから、聞かれれば答えられるわけですよね。
こうした過程を経たうえで、「では、今からその話をしていただきますが、話す前に必ず、『今から、〇〇が、こうだった話をしますね』と言ってから、話し始めてくださいね」とお願いをしてから、話してもらいます。すると、話をまとめるのが苦手で、思いつく順番通りに話してしまうというご相談者さまの話が、実にすっきりしたものになるのです。
これは、ご本人の頭の中で、話のゴールが明確になり、余計なことを考えずに済むようになったことが一番の要因です。話の方向性に迷いがなくなり、また、自分の話が本題からズレていきそうな時は、自分で修正できるようになります。
そして、その話を聞いている私からしても、分かりにくくて冗長になりがちだったそのご相談者さまの話が、ぐんと聞きやすいものになるのには、毎度、驚き、そして感慨深さを覚えます。
聞き手の側からしても、我慢ができるんですよ。我慢と言いましょうか、待てるのです、その〇〇がどうだったというところに、話が到達するまで。
それが、「〇〇をした話」のままだったら、どうでしょう?聞きながら、この話、どこまで行くんだろう、何が言いたいんだろう、って思いますよね。ましてや、その話が長引きそうなら不安にすらなるものです。途中で口を挟まずにはいられないでしょう。
それが始めから、「〇〇が、こうだった話」と言われれば、たとえ話が長くなりそうでも、〇〇がどんなだったか言ってくれるまでは待とう、と腰を据えて聞くことができますし、たとえその話のテーマが難しい内容だったとしても、聞き手の記憶には、「〇〇は、どんなだ」という情報が知識として残ります。それが「〇〇の話」のまま散漫な話が続いたとしたら、もしかしたら聞き手には、何も残らない話になってしまう恐れもありますよね。
「〇〇をした話」を、「〇〇が、こうだった話」に掘り下げ、話の本質を絞り込んでから、話すこと。たったこれだけのことを、話す前に考えよう、ということなのですが、話し方、話すときの考え方、思考回路は、その人の生きてきた時間の分だけ、習慣化されてしまっていますから、一朝一夕には、変わりません。
そこで、その導入法としてご提案しているのが、「横着ファイリング話法」というわけなんですね。
どういう話をどのぐらいの時間で話せばいいか?
そしてこのような、今から自分が話す内容を「枠として捉える」発想ができるようになるための、ひとつの切り口が、「話の枠を時間で意識する」方法です。
先日の記事でも少し触れましたが、私のようなアナウンサーが、突然の生放送で、〇〇についての現場の状況を3分で伝えなければならなくなった時。その時に考えるべきなのは、現場にあふれている情報を3分にまとめることではなく、この話にどういう要素が必要か、ということです。
例えば、事件や事故、災害などの現場であれば、
- 現場の状況を説明しますと…
- 現在こうなっているこれまでの経緯はと言いますと…
- 特徴的なのは(象徴的なのは、ポイントは…)
- なぜそうなったのかと言うと…
- 今後どういう影響が考えられるかというと…
- 改善法など自分たちへのフィードバックの話、締め
このぐらいの内容になるでしょう。
わかりやすいよう、同じ箇条書きにするにしても、話し言葉を続けやすい「導入の言葉」で表現しました。「原因」などと箇条書きにしておくより、「なぜそうなったのかと言うと…」にした方が、次の言葉がつながるからです。
(この「導入の言葉」については、これまでの記事でも再三お伝えしてきましたので、ここでは詳細は説明しませんが、書き言葉で認識してしまうと、改めて話し言葉に変換するロスが生じることが多くなります。この例での、「原因」と「なぜそうなったかと言うと…」の間では、それほどロスはないと思いますが、話の段取りをスムーズに進めたいのであれば、こういう話し言葉の習慣も、わりと大事だったりします。)
このような話の要素は、この現場で伝える人から、聞き手が聞きたいであろうことは何か?求められている話は何であり、その話を成立させるために必要なことは何か?という枠の側から固めるからこそ、話す直前でもパパっと話すことが決められるわけです。
そして、このような項目をあらかじめ固められるからこそ、既に知っていること、言えることの無駄な詮索を省いて、知らないこと、話に必要な情報収集のための取材に注力できるわけですね。
上記の例で言えば、現場の状況は、見れば、言葉に変えられます。これまでの経緯は、話を聞く必要がありますが、事実なのですぐにわかることです。
ポイントはどこか、考える必要があります。そのポイントの理由は、知る必要があります。改善法などは、専門家の知識が必要になるかもしれません。これが自分の立場だったら?というようなフィードバックは、改善法などを知れば、後は自分で考えられます。このような、取材にかける力の配分ができるわけです。
そしてこれらを3分で話すためには、現状と経緯で45秒ぐらい、ポイントで1分30秒ぐらい、残りの時間で、改善法や今後について、というように時間を割り振ります。
内容がパンパンなら、より短時間で伝わる言葉を厳選しますし、枠が緩いときは、客観的な表現に加えて、主観を交えながら話を膨らませます。
このように、枠があるからこそ、話を考えること、話すことが楽になりますから、先に枠を固めて、どんどん「横着」をして欲しいんです。
なぜなら、話すべきこと、より良い表現は、次々と後から生まれてくるものですからね。とにかく始めぐらいは楽にシンプルに構えておかないと、臨機応変な対応に手こずってしまうのです。
【宿題】自己紹介の際、項目とかける時間は?
そしてこの「横着ファイリング話法」では、その枠を自分で設定していきます。どういう内容の話は何秒で、というような解説は、次回にするとして、今回は最後に、皆様に宿題を差し上げますね。
Q.あなたは、社内の人事異動で、これまでほとんど接点がなかった部署に配属され、朝礼の場で、自己紹介を求められました。あなたは、入社3年目で、社内ではまだ有名人というわけではありません。
さて、あなたなら、どんな自己紹介をしますか?
自己紹介で話す内容を、項目で箇条書きにして、それぞれの話にかける時間をお考え下さい。
image by: Elnur, shutterstock.com