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女性同士の結婚式出席で感じた「多様性を認める社会」の深さ

オーストラリア人の友人女性があげた「女性同士の結婚式」に出席してきた体験について、ジャーナリストの引地達也さんが、主宰するメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』で語ってくれました。オーストラリアで同性婚が合法となるまでのスマートな手続きや、多様性を認める社会の雰囲気など、日本ではまだ感じられることの少ない成熟さのようなものについて伝えています。

女性同士の結婚式で「多様性を認める」深さを考える

3月末、女性同士の結婚式に招待され、出席した。場所はオーストラリアのキャンベラ郊外。日本に留学していた四半世紀前の知り合いのオーストラリア人の女性だが、レズビアンだと知ったのはここ数年のこと。

実際に彼女には「生理学的な」夫がいて、その間に2人の子供がいる。今回の結婚は一昨年に同国での同性婚の合法化を受け、2人の子供の母の立場を保ちながら、愛するオーストラリア人女性と1つの家庭を築くための大事な通過点となった。

両家の家族はもちろん、生理学的な優しい元夫や親戚、友人たち約120人が集まり、自然に囲まれた小屋の中で盛大なセレモニーとパーティだ。

LGBTを取り巻くコミュニティは合法化された制度とその事実によっても作られるし、同時に制度を作ろうとするコミュニティの総意が雰囲気を作り上げる。それは多様性への寛容さが基本であることは間違いないが、私たちの国や社会がそこにたどり着けるかは、ちょっと遠そうな印象だ。

オーストラリアが同性婚を合法化したのは2017年12月。その1か月前にオーストラリア政府は強制力のない郵便投票の形で、同性婚の是非を国民に募り、61.6パーセントが賛成した。

これを「賛成多数」と判断し、法案は議論を戦わすことなく、無修正で可決した。当日の報道ではオーストラリア議会内外や街角に同性愛者を象徴するレインボー模様の旗やデコレーションで祝う姿があちらこちらで見られたようだが、私自身、合法化前と後では、街角でレインボー模様が目に付きやすくなったのは気のせいではないと思う。

2000年に入り、同性婚が合法化された歴史は確実に欧州を中心に広がっている。オランダを皮切りにベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、イギリス、フランス、ポルトガル、ドイツ等の欧州や南アフリカ、カナダ、メキシコ、アルゼンチン等、全世界で30か国近くに及ぶうちアジアでは今年成立した台湾が初めて

日本では正式な法律ではない「パートナーシップ制度」が2015年に東京都渋谷区で始まり、同じような制度が東京都世田谷区、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市で始まっている。

出席したこのオーストラリアのパーティは、結婚した私の友人が大学に所属する芸術家であるから、コミュニティはアカデミック領域の方、そしてゲイやレズビアン、老若男女が入り混じる。

詩の朗読や歌、スピーチ、ダンスで盛り上がる。当初は会場脇のグラウンドでクリケットも予定されたが、季節外れの風雨で中止。その代わりに外で焚火を囲んで語らう人もいた。新しいカップルの誕生を真ん中に、誰もが幸福に過ごしている様子は参加者としてストレスなく気持ちがよい。

日本の結婚式と同様に本人や両親のスピーチも涙とともに披露されたが、同性婚であるという特殊性を認識することは皆無だ。あるのは2人の幸せを心から祝福しようとする自然な思いだけ。

最後には、パートナーの1人がスピーチで締めくくった。「このパーティで来られた方とのコミュニティが幸せになる人を増やしていく」。結婚を祝福するパーティはコミュニティ形成の場でもあり、この2人の幸せの門出に議論の余地などない。

日本から唯一の客であった私と妻に多くのオーストラリア人があいさつとともに職業を聞いてくるので、「障がい者向けの学校を作った」という話をすると、その反応に驚きはない。障がい者向けの学習が日本より充実しているオーストラリアでは、手法について本質的な議論ができる。この基礎は同性婚を認める社会につながっていると思う。

LGBTを「生産性がない」と口走る与党の現職議員がおり、それを擁護する論客がいる中で、この考えを正面から受け止め、そして反論し、同性婚の可能性を追究する議論が展開されないのは、新しい結婚の形がどのようなコミュニティを形成し、社会に「生産性」を持たせるかを説けないからでもある(生産性の議論は無益だとの指摘もあるかもしれないが、いったん議論する可能性は考えたい)。

現在、同性結婚についての裁判も行われているが、同時に身近なところで多様性の議論をすることも必要のような気がする。

image by: Yulia Grigoryeva, shhutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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