世界経済の先行きは不透明、国内では企業の不祥事頻発で道徳観念が崩壊しつつあるようにも感じられる混沌とした時代の中、日本政府は紙幣や硬貨のデザイン刷新を発表しました。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、新紙幣肖像画の一つに日本企業の礎を築いた渋沢栄一氏が起用されることに着目し、「道徳心の復興」の契機に繋げたいとの持論を展開しています。
渋沢栄一が新札の顔になる意味
日本政府、新札発行の準備を開始したそうです。
政府は数年後をめどに、1万円などの紙幣の肖像画を変える準備に入った。肖像画の変更は2004年以来となる。政府関係者が9日未明、明らかにした。1万円札は第一国立銀行や東京証券取引所など多くの企業を設立、経営した実業家、渋沢栄一▽5000円札は津田塾大学の創始者、津田梅子▽1000円札は「近代日本医学の父」として知られ、ペスト菌を発見するなど医学の発展に貢献した北里柴三郎の肖像画を使用することを検討している。
津田梅子さん、北里柴三郎さん、いいと思います。渋沢栄一さん、とてもいいと思います。なぜでしょうか?
安全な日本
日本に戻ってきて、驚いたことは山ほどあります。その一つは、「小学校1年生が、一人で学校に通っていること」です。時には、電車で通学している子供も見かける。私は全世界を見たわけではありませんが、これって日本だけの現象なのではないでしょうか?
ちなみにモスクワでは、12~13歳ごろまで、親が送り迎えをします。日本人からいわせると「自立心がない!」となりますが。理由は簡単で、「危険だから」です。日本は、本当に安全なのですね。驚きです。
これって、大昔からそうだったみたいです。江戸時代日本に来た外国人も、驚いていたそうです。日本は今も昔も道徳心が高く、安全だったのですね。
日本が失ったもの
しかし、日本には心配な兆候もあります。
皆さんご存知のように、「企業の不祥事」が相次いでいる。2013年に一時帰国した時、有名ホテルがこぞって、お客さんに出す食事の「産地偽装をしていた」と聞いて、卒倒しました。
その後、日本企業の不祥事が相次ぎ、驚くこともなくなりました。悲しいことです。数えきれない不祥事があるので、いちいち覚えていられません。ウィキに、2010年以降の不祥事リストがありました。
- 2018年:KYB – 免震装置データ改竄
- 2018年:スルガ銀行 – 不正融資
- 2018年:SUBARU – データ書き換え
- 2018年:はれのひ – 粉飾、詐欺
- 2017年:神戸製鋼所 – 品質検査データ改竄
- 2017年:てるみくらぶ – 粉飾、詐欺
- 2016年:スズキ – 燃費詐称
- 2016年:三菱自動車 – カタログ燃費の詐称及び不正計測発覚後の再測定における燃費詐称
- 2015年:東芝 – 長期に及ぶ不適切会計
- 2015年:東洋ゴム – 免震パネル、防振ゴムなど試験データ偽装
- 2015年:タカタ(企業) – エアバッグ不具合
- 2013年:みずほ銀行暴力団融資事件 – 反社会勢力取引
- 2013年:カネボウ化粧品・ロドデノールによる白斑症状 – 製品瑕疵
- 2011年:オリンパス事件 – 粉飾決算
- 2011年:大王製紙事件 – 不正による巨額損失
なぜ?
なぜ企業の不祥事が増えているのでしょうか?はっきりとはわかりません。これから書くことも、私の推測にすぎません。私の話には、だいたいいつも「証拠」がついています。しかし、今回に限っては、私の主観です。
思うに、「道徳を教わらなくなったから」不祥事が頻発しているのではないでしょうか?私の父親は、右翼ではありません。戦前を全肯定しているわけでもありません。ですが、あるとき「今の子供たちはかわいそうだ」といったことがあります。「なにが?」と聞くと、「俺たちが子供の頃は、修身という授業があって、何がいいことで、何が悪いことか教わった。今の子供たちは、道徳の授業がないから、何がいいか悪いかわからないだろう」と。
私は、「そうだよな」と思いました。戦後、「道徳教育は軍国主義復活につながるから、学校では教えない」ことになったそうです。では、子供たちはどこで道徳を教わるのか?「家で教わる」のだそうです。ところが、お父さんは会社教徒で、ほとんど家にいない。「お母さんも会社教徒にすべきだ」というのが国の方針みたいです。お父さんもお母さんもほとんど家にいないのに、子供たちは誰から道徳を教わるのでしょうか(学校では、道徳教育が復活しました)?
戦前、日本の社長さんたちは、「お国のため」という意識をもって経営していました。たとえば、松下幸之助さんは、終戦直後の1945年8月20日、こんなことをいいました。
生産こそ復興の基盤である。伝統の松下精神を振起し、国家再建と文化宣揚に尽くそう。
戦後の奇跡の経済成長を支えたのは、高い道徳心を持った経営者たち。しかし、その世代は、徐々に引退し、「道徳を教わったことのない人たち」が経営者になってきた。それで、日本企業の不祥事が頻発するようになったのかな~と考えています。
渋沢栄一=今の日本に必要な人
「日本企業の不祥事が増えている理由」についての私の主観。「私は違う考えだ!」という人も多いでしょう。しかし、「日本企業の不祥事が多いこと」は事実なので、誰も否定できません。どうすればいいのでしょうか?そう、「金儲けと道徳を両立させること」ですね。「金儲けと道徳」といえば、まさに渋沢栄一さんです。
渋沢栄一さんは、1840年に生まれました。1863年、後に最後の将軍になる一ツ橋慶喜に仕えることになります。1867~68年、欧州視察。明治維新後は、大蔵省に勤務。その後は実業家として、第一国立銀行(今のみずほ銀行)、東京海上火災保険、王子製紙、田園都市(現東京急行電鉄)、秩父セメント(現太平洋セメント)、帝国ホテル、秩父鉄道、京阪電気鉄道、東京証券取引所、キリンビール、サッポロビール、東洋紡績、大日本製糖、明治製糖などなど、なんと約500社の設立に関わった。
渋沢栄一、代表的な著書は『論語と算盤』。ここで説かれているのが、「道徳経済合一説」。この説の「本質」を説明した言葉は、こちら。
富をなす根源は何かと言えば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。
これが「そのとおり」であること、不正をした日本企業の末路が証明していますね。
令和を「繁栄の時代」にするために
もうすぐ平成が終わり、令和の時代がはじまります。そして、新しい1万円札には、渋沢栄一の肖像画。経営者は、1万円札を見るたびに、
富をなす根源は何かと言えば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。
を思い出すでしょうか。従業員は、1万円札を見るたびに
富をなす根源は何かと言えば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。
を思い出すでしょうか?そうであるなら、「令和」は「日本復活の時代」になることでしょう。
私たちにはお金が必要です。お金がないと、さまざまな不幸が起こる。一方で、「正しい手段でお金をゲットすること」も大事ですね。そうでないと、会社の評判が失墜し、信用を失い、下手すると刑務所行きになってしまう。
『論語と算盤』
「日本資本主義の父」
渋沢栄一さんが1万円札の顔になることを、心から願います。
image by: 公益財団法人渋沢栄一記念財団 - Home | Facebook