現役探偵にして、全国各地のいじめ問題を解決に導いてきた阿部泰尚(あべ・ひろたか)さん。そんな阿部さんがこれまでに2度、そのあまりの自治体の対応の不誠実さや加害者および周囲の酷さを報じてきた、山梨県北杜市で起きたいじめ自殺未遂事件ですが、事態は解決に向かうどころかますます混迷を極めているようです。阿部さんが自身のメルマガ『伝説の探偵』で、一部始終を白日の下に晒しています。
山梨県北杜市被災者いじめ事件、合意なき第三者委員会と新たな被害
山梨県北杜市で起きた東北大震災被災者をいじめ、自死未遂まで起こさせていたといういじめ事件。さらにこれを北杜市教育委員会と学校が隠蔽し、重大事態と見なさなかったり、第三者委員会を設置すると言って、委員名が黒く塗りつぶされた名簿を被害者・保護者に見せて無理やり承諾を取り付けようとしたという、とんでもない二次被害までもが発生したといういじめ関連事件を2回に渡って報告してきた。
【参考記事】
● いじめ自殺未遂に開き直り。教育委の呆れた逆ギレと逃げた北杜市長
● 北杜市いじめ事件で被害者を貶める、地元新聞の「忠犬」ぶり
この事件、また問題が浮上してきた。2018年11月初旬、下記のような内容で本件が報道された。
山梨県北杜市で生徒が自殺を図りいじめを訴えたが、学校側が「重大事態」としなかった問題で、市教委が家族側に第三者委の名前などの開示を拒んでいる。埼玉県川口市でも同様の問題。
ニュースはネットのニュースでも報道されるが、あるニュースブログに関係者と思われる人物から被害者と被害者家族を誹謗中傷する内容が書き込まれた。その内容は、いじめの具体的な内容や報道では知り得るはずもない被害者家族のことや実名、それを差別的に表現する内容など、いじめ自体に関わっている人間でしか知り得るものではないものであった。
ネット民は即座に反応し、投稿者を批判し被害者を擁護する書き込みが多く行われた。同時にいじめの舞台となった市立中学校から削除要請などが行われた。
この卑劣の投稿をしたのは誰か?
誹謗中傷をした人物
被害者側は問題を重く受け止めざるを得なかったことから、警察に被害届を出すことになったのだ。そして、犯人は特定され、書類送検されている。
さて、卑劣な投稿をしたのは誰か?という答えを書こう。
投稿者は「主体となるいじめ加害者の父親」だと結論付けられている。
正確には、主体となるいじめ加害者の家からの通信で投稿されたものであった。そして、この父親こそが、被害保護者に「〇〇はないの?」などとスポーツの道具などがあるかを質問し、被災して転居してきているために、被害保護者が「持っていません」と答えると、「なんだー、全部流されちまったのか!?」と鼻で笑った人物なのである。
ちなみにこの加害者一家の母親は教育関係者であり、同僚らには「いじめの加害者に勝手にされて困っている、本当の被害者はウチよ」と吹聴していた人物である。
固定化された加害者に反省を求めるのは酷
国立教育政策研究所のデータによれば、多くのいじめでは、被害者と加害者の入れ替わりが頻繁に起きていることがわかるが、被害者が固定化された場合や加害者が固定化された場合は、深刻ないじめ被害に発展すると考えられる。
特によくあるケースだが、加害者を調べ、その保護者を調べると、なるほど「この親あってこの子あり」なんだなと妙に腑に落ちることがある。
人間は環境動物であるから、保護者の作る家庭環境や保護者の言動を真似ていじめを行なっているのだ。つまり、加害保護者は、加害生徒よりもより強烈で、よりパワフルにいじめを行うのである。
被害保護者の多くは誠を持って話せば、きっと誠意が伝わって保護者として加害生徒を家庭でも指導してくれるはずだと信じて疑わないが、現実、加害保護者から脅迫されるなどというケースが多いのだ。
新たに起きた同一グループによるいじめ
ちなみに被災者をいじめたというこのいじめ加害者を中心としたグループは、被害者が不登校となったことで、いじめをする対象がいなくなってしまった。
学校にはいじめを予防する力も解消する力も皆無、教育委員会に至っては「いじめ」という言葉は聞きたくもない状態になっている。
同地域で調査取材を進めてわかったことは、いじめの加害行為をした同一グループは、すでに下級生をいじめの対象としており、その手口も同様で、「死ね」「自殺しろ」と言い続け、暴力をふるい、遊びだと称してボールを一斉に投げつけたり、家に遊びに行っているように見せかけて、被害生徒の部屋で言葉と暴力でいじめ続けるということを行なっていた。
学校は事態を把握しているようだが、一向に行動に移す気配はない。もはやいじめ加害者に対して明確な処分と強制的な指導をすべきところまできていることは間違いない。
新設された第三者委員会
2019年に入り、北杜市教育委員会は被害側の意向に沿わず、勝手に第三者委員会を設置した。委員については、公表はせず、被害者と保護者にのみ伝えるという形で、誰が委員かは伝える措置を講じた。
しかし、これまで、委員名を知らせなかったり、文科省ガイドライン通りにいじめの重大事態としての取り扱いを拒否するなど信用失墜行為を行なっていたために、被害者側は自らの推薦する委員を第三者委員会に入れるなど、公平性を担保するよう求めていた。
ところが、やはり北杜市教育委員会ならびに北杜市長は、これを無視。勝手に市議会に第三者委員会についての予算を通し、勝手に委員会を進めてしまった。
文部科学省のガイドライン
【被害者・保護者に対する調査方針の説明等】
○調査を開始する前に、被害者・保護者に対して丁寧に説明を行うことで、被害者等の意向を踏まえた調査が行われることを担保
【説明事項】
- 調査の目的・目標
- 調査主体(組織の構成、人選)
- 調査時期・期間(スケジ ュール、定期報告)
- 調査事項(対象となるいじめ行為、学校の対応等)
- 調査方法
- 調査結果の提供
※特に、6.の調査結果の提供の方法については、どのような情報を、どのような形式で被害者・保護者に提供するのかを説明しておく(個人情報については、個人情報保護条例等に従って行うこと)。
つまり、被害側との信頼関係はすでに無い状態の中、「丁寧な説明」が実施されることはなく、「被害者等の意向」を踏まえられるはずもない状態であり、文部科学省のいじめ重大事態についてのガイドラインをまたしても違反している。
ちなみに、被害者はこの合意なき第三者委員会が設置されたこと、会合をするということをニュースで知ることになった。もはや、この調査には、被害者の意向は存在しない。北杜市市長と教育委員会の都合しかないのである。
まとめ
北杜市市長は元体育教師であったそうだ。教育者出身であれば、いじめについての知識も経験もあろうと思うが、良い表現で言っても、この杜撰な対応はいただけない。
いじめの主体であった加害者の父親は、被害者をネットで誹謗中傷し、刑事事件化して書類送検され、大々的に報道され、予算までしっかり組まれた第三者委員会は、ガイドラインに沿わない合意なき第三者委員会であった。
地元住人の中には傍観する者が多くいるが、被害者側が被害を訴えたことを疎ましく思うグループがあり、主たるいじめ加害者家族同様にネットや住民の噂の範囲で、被害者家族について誹謗中傷する行為は未だに続いている。
教育委員会は隠蔽をし、閉鎖的でガイドラインにも従わない、学校は隠蔽する。地域的にもいじめ被害者をまるで加害者のように扱うということでは、北杜市でのいじめ対策は絶望的と言わざるを得ない。
編集後記
大人がいじめ対応に真剣に取り組むというのは、今やいじめ予防の世界では当たり前の前提事項になっています。文科省のガイドラインについては、これを遵守するのが当然であり、遵守しないことはその教育委員会が所管する地域では、異常な教育自治が行われていると判断されます。
北杜市のケースでは、異常であるとしか判断しようがないのです。
また一方で、合意なき第三者委員会を恰も合意があるように見せかけて予算を通してしまったというのは、税金投入という観点から、市民に対する背任行為と言って過言ではないはずです。
市民は怒って良いと思うのです。
一方で、このような異常な教育自治は実は色々な地域で存在しています。その地域で、いくら証拠を取っても無駄なのです。学校も教育委員会も、似非の第三者委員会も、真実に向き合おうとはしませんから。
そろそろ、国レベルで「いじめ対策」について本気で話し合い、本気で取り組まなければならないように「いじめ防止対策推進法」を見直しませんか(馳浩さんが座長で超党派の国会議員が法改正を目指していることは知っています)?
経済も外交も大事だと思いますが、子どもの命に直結するいじめ問題も重要だと思うのです。まあ、国会はセレモニーですから期待するだけ無駄かもしれませんが。一縷の望みとして…。
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