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迫る中国企業。なぜ「モノづくり大国」ニッポンは凋落したのか?

かつてモノづくりにおいては世界一の評判をとっていた我が国ですが、今となってはその凋落ぶりが目立つばかりとなっています。ジャーナリストとして数々のメディアで活躍中の嶌信彦さんは自身の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』で、あらゆる面で国際的地位が低下する一方の日本の現状を記した上で、「工業大国として岐路に立っている可能性」を指摘しています。

不祥事多発と5Gに遅れ

日立製作所と系列10社が外国人技能実習適正化法に関し違反があるとして国の機関から改善指導を受けていた。日立といえば、財界総本山・経団連の会長を輩出しているだけに反響も大きかった。しかし、日本の大企業でこうした問題点を抱えている企業が最近、急速に目立っている。

ここ1~2年に企業不祥事で名前の挙がった企業を並べてみると、商工中金、日産自動車、富士ゼロックスの販売会社、神戸製鋼所、東芝、三菱自動車、東レ、シャープ、三菱マテリアル、マンション工事の杭打ち工事で旭化成子会社の旭化成建材と工事に関わった三井住友建設、日立ハイテクノロジーズ、電通の違法残業、東洋ゴム工業、タカタ──等々きりがないほどだ。

いずれも検査データの改ざん、無資格の社員による完成車検査38種、不適切な会計処理、架空売上と利益水増しの粉飾、性能に関するデータ改ざんなど、その内容も多種多様を極めている。

日本はモノづくりにおいては世界一の評判をとっていた国である。手先が器用で勤務態度が真面目で、納期に遅れることなく商品を納入し、出来上がった製品の質も折り紙つきといわれるほどだった。1980年代には、その日本のモノづくりの秘密を研究しようとしてアメリカの大学で講座まで設けられたほどだった。60年代頃までは、日本の製品にそれほどの評判はなく、アメリカの大手自動車メーカーは、日本車を買って全て分解し自社製品と比べる実験をしたが、当時は「まだ日本車は恐れる必要なし」という結論だった。

それが高度成長期に入り、各社が次々と研究投資を行ない、最新の設備投資を導入するとともに、社員教育に力を入れ海外に研修生を派遣するようになってからメキメキと実力を上げ、良質で廉価な商品を作るようになってきたのである。70年代に入ると日本の輸出品は世界で飛ぶように売れ、アメリカとは貿易摩擦が日常化するまでに至った。日本は世界一のモノづくり大国と呼ばれるほどになったのだ。

ところがバブル経済崩壊後の90年代後半から様子がおかしくなった。多分、多くの企業はいつでもかつてのように良質で廉価な商品を作れると自信を持っていたが、日本が油断をしている隙に韓国台湾東南アジア諸国や中国がどんどん力をつけ日本のライバルに成長してきていたのだ。いまや労賃などのコストは新興国の方がずっと安いし、商品も日本品を研究してひけをとらないものを作るようになっているのである。

しかもアメリカ、EU、北欧などの先進国は第5世代(5G)の先端通信機器を次々と考案し、新産業革命ともいうべき新しい工業製品を作り始めた。その間、日本は5Gと産業の融合に遅れをとり、特に中国企業がメキメキと力を伸ばして日本の市場を浸蝕しているのが実情だ。

国も企業も個人も余裕が出てくると、かつてのような熱気を失い油断してしまうのが常だ。今の日本はそうしたどつぼに落ち込んでしまったのだろうか。安倍首相は世界各国を廻り、外交面では評判がよい。しかし、日本の技術環境留学生研究開発とその論文等の分野ではどんどん国際的地位が低下している現実もあるのだ。少し大げさにいえば、工業大国として岐路に立っているのかもしれない。

(電気新聞 2019年4月8日)

image by: Shutterstock.com

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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