グローバル化の波に翻弄され、働く人々すべてが疲れ切ってしまったと言っても過言ではない現代日本。戦争がなく平和ではありましたが、経済面ではどん底を味わったとも言える平成とは一体どんな時代だったのでしょうか。健康社会学者の河合薫さんが自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、この30年間を職場環境の面から振り返り総括しています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年4月24日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
「加速の罠」にはまった平成の30年間
さまざまなメディアで「平成30年間を振り返る」的ネタを発信しているのですが、今週の「裏返しメガネ」も平成最後です(笑)。
というわけで、他では発信していない「平成という時代」について書き綴ります。
職場環境がいかに変化したかは、平成初期に実施された大規模調査と共に日経ビジネスデジタルに書きましたが、やはり忘れてはならないのは高度成長期の産物ともいえる「過労死」「過労自殺」に真正面から向き合うことが平成の30年間でできなかったという悲しい事実です。
●「平成初期の中年男の悲鳴が予言していた『日本の自殺』」日経ビジネス
何度も書いているとおり「長時間労働」を削減するだけでは過労自殺は防げませんし、平成時代の長時間労働は「質的」に昭和時代より苦しいものとなっていきました。
その大きな要因の一つに「スピード」があると私は考えています。
平成の後半は“グローバル”という経済用語が、私たちの働き方にまで侵食。競争は激化し、企業環境は複雑さを増しました。企業は事業活動の数を増やし、業績目標を高く設定しました。
山一證券の倒産以降、これ以上「省けるものはない」というくらい無駄を省き生産性向上に努めてきた企業は、さらに生産性にこだわり、スピードを重視。こういった取り組みは短期的な競争には効果的なので、企業の業績は一時的に向上します。
しかしながら「スピード重視の文化」を継続的に進めていると、やがて従業員のエネルギーは消耗し、やる気が失せ、結果的に一人当たりの生産性は鈍化。すると、企業は社員へのプレッシャーを強め、より労働者たちを疲弊させ、うつ病になったり身体を壊すを量産。残った人たちの負担は増え、労働者は疲れ果て、「生産性が下がる」という悪循環に陥ります。
このメカニズムは「The Acceleration Trap=加速の罠」と呼ばれ、ザンク・ガレン大学教授のハイケ・ブルック教授らは、「スピード重視の文化は、長期的には企業業績の悪化を招く」と警鐘を鳴らしました。
「加速の罠」がいかに人のエネルギーを奪うかは、“KAROUSHI”が世界的に広まっていることからも明らかです。フランス、イタリア、韓国などでも職場のストレスによるうつ病や過労による自殺などが増えているとされているのです。
「加速の罠」から脱却するには、企業は戦略を絞り、不要不急の仕事を中止し、高すぎる目標を緩め、休息期間を導入する措置をとることが不可欠です。
しかしながら、ネズミとりをする警察もいなけりゃ、オービスもないので、法定速度(=人間の適正速度)をオーバーしているという認識が持てず、「加速の罠」にはまり続けてしまいがちなのです。
おまけに、社員の中には猛スピードに耐えられる能力を持った人もいるため、経営者はスピード狂のマネジャーを重宝し、そのマッチョさがやがてスタンダードに…。それがまさに「平成時代」だったと思えてなりません。
令和はもうちょっとだけスピードダウンしたらいいなぁ、と願いつつ。平成最後の「裏返しメガネ」はこれにておしまい!
みなさまのご意見もお聞かせください。
image by: Shutterstock.com
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年4月24日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
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2019年3月分
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※『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2019年4月24日号)より一部抜粋