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軍事アナリストが気になって仕方がない産経の「ちっぽけな誤報」

4月25日に産経新聞が報じた「消防飛行艇の開発目指す 新明和、救難飛行艇に続き」の記事に関し、細かいけれども気になって仕方がない「誤報」があると紹介するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんです。記事を書く側がしっかりと抑え、読者に提示すべき記述の根拠となる情報が抜け落ちていては「誤報」になると、厳しく指摘しています。

令和も「ちっぽけな誤報」からスタート

平成から令和に元号が変わっても、10連休が終わっても、どうしても頭の片隅から離れない、「ちっぽけな誤報」がありましたので、令和第1回のケチのつけはじめにご紹介します。

4月25日の産経新聞は、「消防飛行艇の開発目指す 新明和、救難飛行艇に続き」として次の記事を掲載しました。

「救難飛行艇『US2』は海上自衛隊が5機保有し、米軍と共同使用する海自岩国航空基地で集中的に運用されている。初飛行から今年で16年。主な任務は海上遭難者の救出や離島の急患搬送だが、開発元の新明和工業では、US2の機体に改造を加えた消防飛行艇の開発を目指し、独自で研究を進めている。

US2(全長33.3メートル、幅33.2メートル、乗員11人)の最高速度は時速約580キロで、航続距離は約4700キロ。波高3メートルの荒波でも離着水が可能で、船と飛行機の両方の特徴を持つ。平成25年には、ヨットで太平洋を横断中に遭難したニュースキャスターの辛坊治郎さんら2人を救助して注目された。

同社は7年の阪神大震災で工場などが被災した経験を踏まえ、US2の機体をもとにした消防飛行艇の製造研究を開始。空からの消火活動で、ヘリコプターの約7倍に当たる約15トンの水を運ぶことができるという。開発に向けた国の作業は具体化していないが、同社ではUS2の胴体部分に水を格納するためのタンクを製造し、都市災害の発生時における効果などを検証している。

同社の石丸寛二副社長は『US2をもとにした消防飛行艇が誕生すれば、世界中の災害現場で役に立つ。広く飛行艇のすばらしさを知ってもらいたい』と力を込めた」(4月25日付 産経新聞)

US-2は私が大好きな航空機のひとつです。新明和の経営陣と食事したこともありますし、民間型を外国に輸出するうえでのハードルが低くならないか、国土交通省と話したこともあります。新明和からUS-2の劇画も届いています。さて、どこが「誤報」なのでしょうか。

実は、誤報はUS-2そのものではなく、その性能を紹介した新聞記事にありました。「空からの消火活動で、ヘリコプターの約7倍に当たる約15トンの水を運ぶことができるという」これが誤報なのです。

まず、比較の対象となるヘリコプターの機種が明らかになっていません。US-2が積むことのできる15トンに対して7分の1と言えば、2トンあまりでしかありません。2トンほどの水であれば、例えば静岡県が機種更新したばかりのAW-139も胴体下のベリータンクに積むことができます。

一方、ヘリコプターによる空中消火で最大の搭載能力を持っているのは、陸上自衛隊と航空自衛隊が備えているCH-47チヌークです。こちらは胴体の下にぶら下げたバケットを使いますが、陸上自衛隊の運用基準では7.5トンの水を運びます。カタログデータ的には、チヌークの機外吊り下げ能力は12トンとされています。陸上自衛隊のチヌークも、精一杯積めばバケットの限界の8トンはいけるということになります。

記事にある15トンというUS-2の搭載量のほうは間違いないと思いますが、「大型ヘリCH-47チヌークの約2倍」あるいは「小型ヘリの20倍、中型ヘリの10倍以上」と書かなければ誤報なのです。

勘違いの結果の誤報なのか、それともUS-2の性能を強調したいがために中型ヘリなどの搭載量を基準に7倍としたのか?同じUS-2のファンとして、贔屓の引き倒しにならないようにしたいものです。

「ちっぽけな誤報」のお話しでした。(小川和久)

image by: viper-zero, shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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