2島先行返還による日ロ平和合意への勢いをすっかり失ってしまった「北方領土問題」。丸山穂高衆院議員が元島民に対して口にした「北方領土戦争奪還論」が再交渉の妨げにもなりかねないとの報道もありますが、この先日本政府はどのような方針を立て進むべきなのでしょうか。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、日本が「米ロ中との国際関係の中で生き残る為の鉄則」を改めて記しています。
北方領土、なぜロシアは譲歩しないのか?
北方領土交渉、予想通りというか、なかなか難しいようです。
ラブロフ氏「北方領土、大戦の結果」強調 日露隔たり鮮明 外相会談
毎日新聞 5/10(金)23:35配信
【モスクワ大前仁】河野太郎外相は10日、北方領土問題を含む平和条約交渉を巡り、モスクワでラブロフ露外相と会談した。日本側は当初プーチン露大統領が6月末に訪日する際に平和条約交渉の「大筋合意」を目指していたが、歴史認識や安全保障問題などで隔たりが大きいため、合意を見送る方針。
「歴史認識や安全保障問題などで隔たりが大きいため、合意を見送る」そうです。
もう少し具体的に。
なぜ日ロの「歴史認識」はここまで違う?
ラブロフ氏は会談後の共同記者発表で「第2次世界大戦の結果を全面的に認めるべきだ」と述べ、北方領土はロシアが第2次大戦の結果として合法的に手に入れたという歴史認識を受け入れるよう改めて迫ったことを明らかにした。
(同上)
一つ目の「隔たり」は「歴史認識」です。日本は、「ロシアは、北方4島を【不法占拠】している」という認識。ロシアは、「第2次大戦の結果、【合法的】に手に入れた」としています。
日本側からは、当然以下のような反発がでるでしょう。
- ソ連は、日本がポツダム宣言を受諾した後、北方4島を占領したではないか!
- ソ連は、1945年4月に日ソ中立条約破棄を宣言したが、その後1年、つまり1946年4月まで条約は有効なはずではないか!
まことにもっともであります。しかし、ロシア側には、この日本の主張を認められない事情があります。リアリズム神ミアシャイマーさん的にいえば、「ナショナリスト的な神話」。
ソ連は、2,200万人の犠牲を出し、第2次大戦に勝利した。もちろん、戦った主な相手はナチスドイツです。ソ連政府は、この戦争を「大祖国戦争」と呼び「神話化」しました。上記のような「不都合な真実」は、「完全スルー」された。だから、ロシア国民は、上の二つの事実を知りません。さらに、「シベリア抑留」も知りません。これも、「不都合な真実」で「ナショナリスト的神話」にあわないので「スルー」されたのです。
私たちは、「では今からでも認めるべきではないか!」と思うでしょう?そんなに簡単ではないのです。なんといっても、戦後70年以上も、「ソ連は絶対善だった」ということで、つづけてきた。
これ、ソ連―ロシアだけではありません。アメリカだって同じことです。アメリカだって、「日米戦で、アメリカは絶対善、日本は絶対悪だ」という「神話」をつづけてきた。いまさら、「アメリカは、空爆で日本の民間人を90万人虐殺した」とか、「原爆投下は、人類空前絶後の大虐殺だ!」などと認めるはずがない。ロシアも事情は同じ。
これ、日本は、「ロシアは、歴史認識を改めよ!」などと「正論」をいうべきではありません。なぜでしょうか?戦勝国側のいわゆる「東京裁判史観」をもっているのは、ロシア一国だけではないからです。
この史観、アメリカ、ロシア、中国、韓国、さらにイギリス、フランスなども共有しています。もし日本がロシアに、「歴史観の変更」を求めれば、ロシアは中国、韓国に接近し、「日本で、歴史修正主義が台頭している!」「日本で、軍国主義が再び台頭している!」と大騒ぎになるでしょう。
覚えていますか?2013年、中国は、「日本は右傾化している!」「日本は軍国主義化している!」「日本で歴史修正主義が力を増している!」と大々的にプロパガンダしていた。そして、オバマさんも、このプロパガンダにやられていました。
だから日本は、ロシアとの不毛な歴史認識論争に突入するべきではない。それを一番喜ぶのは、もちろん習近平です。
では、「歴史認識問題」はどうすればいいのでしょうか?簡単なことで、「触れなければいい」のです。河野さんは、ラブロフさんに、「日ソ共同宣言の時のように歴史認識には触れないでいきましょう」と提案する。もしラブロフさんが、「いや、ここは絶対譲れない」といえば、そもそも返す気がないということです。
アメリカファクター
次の「隔たり」はこちら。
また陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を念頭に置き、在日米軍がロシアに脅威をもたらしていると懸念を示した。
(同上)
「在日米軍がロシアに脅威をもたらしている」そうです。これもロシアからみたら、「その通り」ですね。
ロシアの西を見てください。ロシアの西には、29か国からなる巨大反ロシア軍事ブロックNATOがあります。アメリカは、29国では飽き足らず、さらに旧ソ連のウクライナ、グルジアを加盟させようとしている。
ロシアから見ると、アメリカは明らかにロシアに敵対的。そんなアメリカの軍が日本にいるのは、もちろんロシアにとって「不安要因」。「北方4島を返せば、そこに米軍基地ができるのではないか?」と懸念するのは当然です。
いくら安倍総理が、「北方領土に米軍基地は置きません」といっても、「日本政府がそう思っていても、アメリカが決めれば逆らえない」と考える。
では、日ロ関係はどうするのか?
というわけで、日ロ関係は、非常に難しいです。
こういう経緯を知れば、ネトウヨの皆さんであれば、「断交だ!」となるでしょう。韓国と断交し、ロシアと断交し…。誰が一番喜ぶかといえば、もちろん習近平です。中国の対日戦略を今一度熟読してみてください。
中国の戦略は、アメリカ、ロシア、韓国と組んで「反日統一共同戦線」をつくり、日本を破滅させること。そして、「日本に沖縄の領有権はない!」と宣言している。つまり、中国の対日戦略は、
- 日米分断
- 日ロ分断
- 日韓分断
である。対する日本の戦略は、簡単です。
- 日米同盟をますます強固にする
- 日ロ関係を改善させていく
- 韓国との関係を、なんとか保つ
いつまでこれを続けるべきなのでしょうか?米中覇権争奪戦がアメリカの勝利で終わるまでです。
そして、日米、日ロ、日中の関係は、常に、
- 日米 > 日ロ > 日中
でなければなりません。
日本政府は、再び正しい方向にむかいはじめた
では、具体的に日ロ関係をよくするためには、どうすればいいのでしょうか?
これ、簡単です。
日ロ関係には、単純な「法則性」がある。つまり、「島の話をすると日ロ関係は悪化する」。なぜ?ロシアは、北方4島を実効支配し、現状に満足している。正直いえば、4島も2島も返したくないのです。誰が「戦争で奪った島を返したい」と思うでしょうか?
そして、「金儲けの話をすると、日ロ関係は改善される」。これ、メチャクチャはっきりしています。ロシアは、金儲けがしたいのです。だから、日本もロシアも儲かる話をすべきなのです。すると、とたんに日ロ関係はよくなります。
この話、以前にもしました。そうすべきであると。RPEで書いたからかわかりませんが、日本政府、少し変わったようです。
日露間の当面の焦点は共同経済活動に戻っており、海産物の共同養殖など5分野に取り組むことで基本合意している。また、日本の事業者らが北方四島を訪れる際の「移動の枠組み」についても話し合い、今月20、21日に関連する作業部会を開くことで一致した。
(同上)
まことに「正しい」方向性です。
日本は第2次大戦で、「大戦略不在」で負けました。なんと、「アメリカが主敵」か「ソ連が主敵」か決まっていなかった。今回は、「中国が主敵」で決まっています。そうであるなら、勝つために、「北方領土問題」は棚上げしてもいい。
ところが、第2次大戦前、戦中もそうでしたが、日本政府は揺れるのですね。なぜ、米中覇権戦争が本格化した時に、日中関係を劇的に改善させているのか????????アメリカから見ると、「信用できない裏切り国」に見えます。安倍総理は、
- 日米関係 > 日ロ関係 > 日中関係
という優先順位を決して忘れることなく、日本を「戦勝国の一員」にしていただきたいと思います。
憲法改正もいいですが、日本が「敗戦国」から「戦勝国」に転換される。それこそが、まさに「歴史的」。そうなってこそ、我が国の「自虐史観」は、根本的に消滅します。
安倍総理が、真に歴史に名を残すのは、「敗戦国だった日本を、戦勝国にした」時です。
image by: Twitter(@河野太郎)