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NYで「実店舗」復活ムードを牽引する「ブルティン」成功の秘密

Eコマースの普及により苦戦を強いられていた「実店舗」での小売の世界に新たな光が差し始めているようです。ニューヨーク在住のりばてぃさんが、流行の最先端で光を放つ新店舗について自身の『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』で、紹介してくれます。今回は、女性の味方として支持を集める「ブルティン」が、マンハッタンに出店したさながら「女性の自立博物館」のような旗艦店から学べる点を伝えます。

ニューヨーク生まれの女性の味方、ブルティン

(1)小売業界で起こっている変化

常に新しいものが生まれるニューヨーク。先日も、再開発エリアのハドソン・ヤードにオープンしたショップや、ニューヨーク初となるAmazon Goがオープンしたことなどお伝えしたが、他にもいろいろ新たな店舗がマンハッタンだけでもいくつもオープンしている。

しかも、単に、新しいお店がオープンしたというだけではない。Eコマースの普及から一時は「実店舗」はもう終わりだ、アマゾン・エフェクトのせいで大量閉店だ、となった小売店が新たな形で生まれ変わり、今後も増加傾向にあるとみられているトレンドの一端でもある。

せっかくなので、今注目と思われる新たな店舗を数回にわけてご紹介しつつ、小売業界で起こっている変化について考えていきたいと思う。

(2)なぜ女性の味方なのか?

まずは、2018年8月にユニオン・スクエアに旗艦店をオープンし話題のブルティン(Bulletin)から。

ご参考:ブルティン公式

おそらく、今、アメリカで支持され愛されるモノやコトについて調べている人は必見のお店の1つ。興味深い点は多々あるが、まず、ブルティンは、店内スペースを中小ビジネス・オーナーに貸し出す形式の小売店で、小売店バージョンのウィーワーク(WeWork)とも評されている注目の小売店だ。

その証拠に、2015年の創業当時は給料も出せないほど資金繰りに苦労していたが、紆余曲折を経て、2017年春には、将来有望なスタートアップ企業に投資することで知られているYコンビネーター(Y Combinator LLC)から220万ドル(1ドル=110円換算で約2億2千万円)の出資を受け、注目の小売業者となった。

何が、そんなに注目なのか?それは、ブルティンの企業理念にある。ブルティンは、女性による女性のための小売店として、創業時から数多くの女性によるブランドを支援してきたのである。

日本でも、不条理なセクハラ問題に反対する#MeToo運動や、給料が男女で平等ではないことなどがアメリカで問題になっているというニュースは報じられているのでご存知と思うが、そういった女性軽視問題だけでなく、これまで見過ごしてきた女性の権利を改めて考えてみようという思いを持つ女性が増えてきている。

そしてこれは、このメルマガでも何度かお伝えしてきたが、女性だけでなく男性にとっても良いこと。男性もこれまで男性だからという理由でなんとなく気にしてこなかった権利や主張を見直せることにも繋がるものだから。

これについて細かく説明するには長くなってしまうので、よくわからないなという人は、2014年に女性のための国連機関「UN Women」の会合で、ハリウッド女優のエマ・ワトソンさんが、国連では史上初となる男女平等を普及するプログラム「He For She」の立ち上げを宣言する名スピーチを聞かれると考える材料になるかなと思うので以下どうぞ。

ご参考:エマ・ワトソンさんの国連スピーチの日本語訳スクリプト #HeForShe

このスピーチがされた2014年からじわじわと女性、男性、そのどちらでもないLGBTQの方々、みんなそれぞれが一生懸命考え行動してきた中で、ブルティンの創業者も同じように埋もれてしまっている女性による商品を紹介していきたい、そんな想いからブルティンははじまった。そして、その想いに共感する人たちがブルティンを支持しているのである。

そんなわけで、ブルティンは今のアメリカの消費者心理を考える上でも非常に参考になると思う。

(3)徹底した女性支持の姿勢

現在、ブルティンは、ブルックリンのウィリアムズバーグ、マンハッタン内のノリータと旗艦店であるユニオン・スクエアの3店舗ある。取り扱う商品は、いずれも女性起業家や女性デザイナーが作った品々が中心だ。

女性の自立や男女平等に関するメッセージ性の高いものが多く、商品を買いにいくというより女性の自立博物館にでも入ったような気分になるほど、その1つ1つが考えさせるもの多めとなっている。

また、店員もすべて女性。しかも、ユニオン・スクエア店は、その出店時に設計などを依頼した建築業者も女性が中心の建築事務所だったというほどの徹底ぶり。

さらに、売上の10%は、中絶手術や避妊薬処方、性病治療などを非営利で行っているNPO団体のプランド・ペアレントフッド・ニューヨーク(Planned Parenthood of New York)に寄付される仕組みで、様々な形で女性を支援しているのである。

徹底した女性のための小売店を支持するのもまたその多くが女性で、店内を訪れている客の多くが女性だが、男性客ももちろん訪れている。

ちなみに、店を訪れる客は、単にファッション・アイテムを購入するのではなく、ブルティンで商品を買うことで、それぞれがアイデンティティを確認し、それによる自己表現を楽しんでいると考察されている。

ご参考:Feminist startup Bulletin is reinventing brick and mortar retail

上述したように現在ブルティンは、ニューヨーク市内に3店舗を構えているが、もともとは、当時23歳のアリ・クリーグスマンと同僚のアラナ・ブランストンの二人の女性がはじめたEコマース型のオンライン・マガジンがはじまり。

いわゆるショッピング・マガジンだったが、商品の売れ行きは悪く、コストをギリギリまで抑えても給料も支払えないような状況だった。

そんな中、ショッピング・マガジンで商品を販売するのは、資金の乏しいスモール・ビジネスのオーナー達で、本業を別に持ち、副業として手作りの品を販売する者が多いことに気づく。

彼らのニーズを分析したところ、オンラインではなく実際にお客が商品を手にとれる小売店でも販売したいというニーズがあることがわかった。しかし、通常の小売店では出店でお金がかかるなどスモール・ビジネスのオーナーたちにとっては敷居が高かったため、最初は、比較的お金のかからない週末に開催するフリーマーケット形式の小売をアリとアラナの2人で主催することにした。

しかも、ニューヨークの類似のフリーマーケットの多くが出店時に支払う金額が高く、また数ヶ月にわたって毎週末出店する契約が一般的だったところを、少額でも出店でき、さらに各出店者側の店員が会場にいなくても代わりに販売するサービスを提供したのである。

少額かつ定額のサービス料金や商品を提供するだけの仕組み、売上の取り分設定などがスモール・ビジネスのオーナーたちにウケ、急成長。天候に左右されるフリーマーケットでは限界があると感じ、2016年11月にウィリアムズバーグにブルティン初となる小売店を出店したのである。

そして、これがまた多くのスモール・ビジネスのオーナー達やお客に支持され、ファンが拡大。創業から5年も経たないうちにマンハッタン内のノリータとユニオン・スクエアへの出店が実現したのだった。

以下の経済誌Incの記事には、ユニオン・スクエア店オープン時の様子が映っている。ファンのお客が別のブルティンのお店で購入したTシャツを着ているとおり、どれだけブルティンの商品に誇りを感じ、支持しているのかが伝わってくる。

ご参考:Bulletin Blows Out Their NYC Grand Opening

ブルティンは商品を卸すスモール・ビジネスのオーナー達のニーズを探った過程で、今、まさにアメリカの小売業界で注目のビジネス・モデルに行き着いている。それは、『サービス・プラットフォームとしての小売店舗』(a retail-as-a-service platform)である。

近年、Eコマースからはじまったブランドが増えているが、それらのデジタル・ブランドが小売店で商品を販売する事例は増加。直営店ではなく、デパートやショッピング・モールに出店する事例も数多い。

そこで、各デジタル・ブランドに合わせて店舗デザインやディスプレイ、店員スタッフの手配、集客力調査、売上分析なども含めて包括的にサポートする小売店が近年、米国で増えており注目されているのである。

次回は、老舗デパートが手がける、『サービス・プラットフォームとしての小売店舗』(a retail-as-a-service platform)についてみていこう。

image by: Andrea Raffin, shutterstock.com

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ニューヨークの大学卒業後、現地で就職、独立。マーケティング会社ファウンダー。ニューヨーク在住。読んでハッピーになれるポジティブな情報や、その他ブログで書けないとっておきの情報満載のメルマガは読み応え抜群。

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【著者】 りばてぃ 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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