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失敗なら国際秩序崩壊も?米が安倍首相に期待する仲介役の重要度

国賓として来日したトランプ大統領が、「米・イラン間の仲介に期待」する旨の発言をし、安倍首相のイラン訪問に向けた調整が順調に進んでいるようです。メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者で、シリアにて拘束されていたジャーナリスト・安田純平さんとの公開対談も6/19に予定されている国際交渉人の島田久仁彦さんは、他国の仲介を嫌ってきたアメリカ外交を考えればトランプ発言は「サプライズ」だと語ります。そして、米国とイラン、さらには米中、米朝の緊張緩和の実現可否が、国際秩序の維持か崩壊かを左右すると、日本の役割の大きさを指摘しています。

緊張が高まるイラン情勢と国際的な勢力図の変化?!

トランプ大統領の令和初の国賓としての日本訪問、そして欧州議会選挙にまつわるショッキングなニュース、そしてBrexitの調整に失敗したとされるメイ首相の退陣が引き起こす英国政治の一層の混乱といったニュースの影で、イランを台風の目にした情勢の変化が着々と進んでいます。

トランプ大統領の訪日直前まで威嚇合戦が続いていたことを受け、ザリーフ・イラン外相は、周辺国に対する調整努力を本格化させました。実際には、【有事の際の相互不可侵の呼びかけ】です。

『仮にアメリカと事を構えるようなことがあれば、その混乱に乗じてイランを攻めることはやめてほしい』とイラクやサウジアラビアなど周辺国に依頼すると同時に、『イランも領土的な拡大や攻撃を行うことはしない』との呼びかけ内容です。

悪化する一方のイランと周辺国との対立状況を考えると、周辺国が容易に受け入れるようなものではないと察しますが、そのような中でも敢えて“呼びかけ”を行うイランの真意は何なのでしょうか?諸々の情報を分析し整理してみると、中東の勢力地図を変えてしまいかねない大きな【究極の選択】が透けて見えます。それは、【イスラエルを選ぶか、地域の安定を選ぶか】というイランから周辺国への、いわば最後通牒です。

アメリカとの直接的な軍事衝突の恐れに対する呼びかけなのに、なぜイスラエルなのでしょうか?それは、以前よりお話している『長年の地域における対立関係とその裏に存在するアメリカのイスラエルびいきと、それに対するイスラエルの反応』です。

仮に調整の努力も虚しく、アメリカとイランが衝突する時代に陥った場合、ペルシャ湾に集結しているアメリカの戦力からの攻撃はもちろんですが、もし、『イランへのend game』をトランプ政権が目論んでいるとしたら、それを実現するための主力はイスラエルが担う可能性が高くなります。

公式には認めていませんが、恐らくイスラエルは核戦力も配備していると言われていますので、end gameを目論んでいる場合は、その使用も視野に入ってくることになります。(もちろん、イランからのretaliationも覚悟しているでしょうから、先制使用を考慮するでしょう)。あくまでもこのようなケースは極論ですが、もしそれが起きてしまった際には、そして仮にイランが同じく核で反抗する場合は、周辺国への影響の大きさは計り知れないレベルになると思われます。

今回の“呼びかけ”を通してその可能性も匂わせることで、もしかしたら、イランはイスラエルとイランの衝突で板挟みになり苦渋の選択を迫られることになるアラブ諸国に対して、最後で究極の選択を突きつけているとも考えられるかと思います。

そこで最後の望みを与えられる存在は、地域のバランサーであるトルコになりますが、こちらも最近、エルドアン大統領が行っている危険な火遊び(米ロ間のライバル関係を弄ぶ)ゆえに、以前のように、その影響力を発揮できないかもしれません。その一番の理由は、アメリカ/NATOとの間にできてしまった深い溝です。

公式にはなっていませんが、イスラエルとイランの核戦争に備えて、抑止力としての核戦力が両国に向けて配備され、有事の際には無力化のために使用されるらしいという役割が、トルコのNATO戦略基地に与えられていると言われますが、アメリカとNATOとの確執を見ると、今もそのcounter-balanceとしての役割を担っているか否かは分かりません。

では、もう一つの大国であり、最近関係が近しくなっているロシアはどうでしょうか?ロシアとしては中東地域への参画に出遅れたトラウマから、地域への進出の足掛かりとしてイランやトルコを用いていますし、両国に戦力の供与も行っていますが、いざ、イランとアメリカ・イスラエルの衝突が起こった場合、イランやトルコの後ろ盾として参戦してくれる可能性は皆無でしょう。

それは、イランも、北朝鮮も、そしてベネズエラも、ロシアにとっては、アメリカの軍事的なプレゼンスを分散させるための“コマ”に過ぎないからです。恐らくトルコも同じかと思われます。ロシアは、睨みは聞かせつつ、アメリカの軍事的な戦力分散が起こったら、恐らく本当の懸案事項であるウクライナの攻略を本格化させることになるでしょう。この件については、また別の機会に。

ただ、ロシアのそのような戦略を読み解いているのか、今週に入って、アメリカの対イラン戦略の“変化”が見られます。ボルトン補佐官やポンペオ国務長官のイランに対するhardlinerの意見は変わりませんが、トランプ大統領自身は、『誰も悲劇を見たくはないだろう』と【軍事的な行動がもたらす破壊的な結果】に言及して警告はしていますが、訪日に際して『望むなら話し合いに応じる用意もある』と対話の可能性にも言及するなど、事態のエスカレーションの回避に動いています。

後で触れたいと思いますが、今回の訪日時に『安倍総理による米・イラン間の仲介に期待している』と発言したことも、仲介嫌いのアメリカ外交からするとサプライズ以外何でもありません。このトランプ大統領の“軟化”は本心か、それともdeal makingのための“エサ”なのかはなかなか読み切れません。

しかし、この“軟化”については、2月以降一向に進展していない米朝間でのdeal makingに関係する【北朝鮮へのメッセージ】なのではないかと考えられます。

それは何か。表向きには、トランプ大統領“だけ”は、まだ北朝鮮を見捨てていないように見せていますが、実際には『イランとの衝突は秒読みとされてきたが、北朝鮮の出方次第では、アメリカの取る強硬手段の相手の順番を変更する』、つまり『北朝鮮への攻撃の可能性が増す』というメッセージなのではないかと考えています。

ここまで観ても、それぞれのイシュー(2国間のイシュー)がいかに他の問題への対応と密接に絡み合っており、国際情勢全体の緊張の高まりを加速度的に表しているかお感じになれるかと思います。それは、米朝間の駆け引きしかり、米中貿易“戦争”しかり、そして今回取り上げたイランをめぐる緊張しかりです。

そのような中で注目すべきは、それらのイシューに対してそれぞれstakeを持つ【日本の仲介役としての役割と外交的な可能性】ではないでしょうか。イランは常に親日的な国ですし、中国も米中対峙のバランスを取るように、日本への攻撃は鳴りを潜め、今は恐らく戦後最良の二国間関係を演出しています。

そして、北朝鮮に対し、安全保障面での脅威(特に中距離ミサイルと核、電磁波)と拉致問題を抱えると同時に、アメリカとは緊張関係にあり、中国からも見放され、ロシアからも表向きはバックアップを得ることが出来ない中、交渉の行き詰まり感を打破するためのプレイヤーとしての日本は、うまく戦略的に振舞うことが出来れば、国際平和と安定のキャスティングボートを握ることが出来るかもしれません。

今回の日米首脳会談で分かったことは、アメリカは戦後外交の一貫した流れとして他国の仲介を忌み嫌ってきましたが、トランプ大統領は、安倍総理がイラン問題のみならず、対中関係や、変化球ですが対北朝鮮問題の行き詰まりを打破する【仲介役】をこなせるのではないかと期待しているようです。

実際に記者会談でも、安倍総理の6月に予定されているイラン訪問も後押ししているように思われますし、中国との橋渡しも期待しているようです。問題は【それをいかにして実施していくか】というやり方・methodsでしょう。

効率的かつ効果的にその役割を果たすには、議長国としてアジェンダセッティングできるG20首脳会合は格好の舞台になると思われますし、各国からもそう期待されています。

そのためには、【中国およびアメリカとの“適切な”距離感の設定と橋渡し】、【マルチの場で北朝鮮問題を包括的に取り扱う場の設定】、【拉致問題解決に向けた直接対話の舞台設定とG20諸国からのバックアップ取り付け】、そして【イラン訪問によって、どのようなdeadlock打開策をG20に持ち帰り、トランプ大統領からどのようなコミットメントを引き出せるか】という全ての柱に肉付けを行う必要があるでしょう。

今、Brexitによる混乱の極みと欧州議会選挙で明らかになったnationalisticな勢力の躍進、そしてEU内での意見や対応の不一致などを受け、どの問題でも欧州各国は当てにならない中、トランプ大統領に物言いができ、かつ、世界で懸念事項に上げられる全てのケースにおいて、日本は関係を仲介できる位置にあるというユニークさをいかに生かすことが出来るか見ものです。

想像はしたくないですが、もしその“調整”が不発に終わった、もしくは、調整さえ行わなかったという事態の場合、トランプ大統領が世界に投げかけた国際秩序の終焉と分裂への流れが、実際に大きな犠牲と痛みを伴う結果になる可能性がかなり高くなると考えています。

日本外交が示し得る【橋渡し役】としての可能性に大いに期待しつつ、これまでに述べた懸念事項がすべて同時発生的に崩壊へのスロープを滑り落ちていかないように、私も努力したいと思います。

image by: Drop of Light, shutterstock.com

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