プレゼンテーションの成否は、聞き手の興味をどれだけ惹きつけられるかにかかっていると言っても過言ではありません。聴衆から笑いが起きたらそれは高確率で成功に近づいたともいえます。そんな、「笑いを取る」ことが得意というのは、外資系企業で活躍する澤円(さわ まどか)さん。澤さんは自身のメルマガ『澤円の「自分バージョンアップ術」』で、そのテクニックを惜しげもなく披露してくださっています。
プレゼンで笑いを取るテクニック
皆さんこんにちは、澤円(さわまどか)です。
今回は、ボクの得意分野のプレゼンテーションをテーマに書いてみます。その中でも、もっとも難易度が高い「笑いを取る」というアクションについてです。
TEDなどを見ていても、どのプレゼンテーションでも、ちょっとした笑いが起きるシーンがあります。プレゼンテーションにおける笑いは「アイスブレイク」なんて呼ばれたりもしますが、場の雰囲気をよくするためにはとても大事な要素です。実際、笑いがちょこちょこ起きるプレゼンの方が、集中力をもって最後まで聞けたりするものです。
プレゼンにおける笑いを、ボクは「息継ぎ」と呼んでいます。プレゼンは何かしらの情報を提供し、相手に行動を促すものであるべき、とボクはいつも言っています。ただ、ずっと情報を提供され続けてしまうと、聞いている側はどうしても疲れてきてしまいます。なので、途中で笑いを入れることによって、思考の緊張感を和らげる「息継ぎ」ができるのです。そして、緊張が少し緩んでいる分、脳に情報が入りやすくなります。
ボクが笑いのエッセンスを挟むタイミングは、何種類かあります。まず、「最初の挨拶の時」です。相手にリラックスして聞いてもらうために、挨拶の時にちょっとした冗談を言います。ボクの場合は
「こう見えてもサラリーマンです」
「ミュージシャンとよく間違われます」
「名前が女性っぽいので、メールだけで連絡していた担当者の方は姿を見た時にえらく驚きます」
こんな感じで大体最初のアイスブレイクは仕上がります。
次のパターンが、「トピックの切り替えの時」です。これは、頭を切り替えてもらうきっかけになるように、少し内容からずれた話をします。そうすることで、「あ、違う話題になったな」と明確に感じて頭のギアを切り替えてもらえます。
他にもいくつかあるのですが、それはまた別の機会に。
笑いにはメカニズムがある
つい先日、元お笑い芸人のビジネスパーソン、中北朋宏さんにお会いしました。さすがは元芸人、とても面白い方で、そして非常に言語化能力にたけた方で、すっかり仲良くなってしまいました。
その方がおっしゃっていてとても印象的だったのは「笑いのカツアゲ」という言葉です。これは、たいして面白くもない話をした後で「これ、笑うところなんですけれど」というやつですね。
時々、このセリフを口にする、社会的ポジションの高い方がいたりします。そうすると、周囲の人たちは致し方がなく「ははは…」と力なく笑うしかないわけです。まさに「笑いのカツアゲ」ですね。
さて、中北さん曰く「笑いにはメカニズムがある」とのこと。その中でも重要なポイントが「緊張と緩和」とのこと。ある一定期間緊張を与えた後で、それをふっと緩和させると、笑いが起きるのだそうです。
実際、ボクがプレゼン中の笑いを「息継ぎ」と定義しているのと同じ理屈ですね。ずっと逆ばかり言っていても、お笑いは成立せず、なにかしらの「緊張」を伴うようなストーリーのなかに、「緩和」の瞬間を挟み込むことで笑いが出るわけです。
緊張、と言っても何も怖い話をするとかいうわけではありません。製品の機能を説明したり、数値データを示したり、新聞の記事を引用したりして話している間は、ある程度の緊張感が発生します。
「この製品の特長は、前のモデルと比べて操作性がアップしたことです」というような説明は、別に怖い話をしているわけではありませんが、単なる「説明」になっているので、緩和を得ることはありません。では、どうすれば緩和を加えられるのでしょうか?
澤流テクニックその1
ボクがよく使うのが「極端にオーバーな表現を使う」というテクニックです。前述の例であれば「操作性がアップした」ことをオーバーに表現します。「この便利さには全米が震撼レベルです」とか「この操作性は世界中の人が喜んで、ノーベル平和賞を与えてくれるかもしれません」とか。
別に大笑いは必要ないのです。ちょっとズレた表現をさしはさむだけで十分に緩和の効果が期待できます。
もちろん、この文章単体だと「えー、それ言うの勇気がいるんですけど…」という方もおられるでしょう。当然、このようなちょっとズレた表現は「流れの中でさらりと使う」のがコツです。そのために、挨拶の段階である程度緩和の瞬間を作っておいた方がいいですね。
ボクが最初の挨拶でちょっと笑いを取るようなフレーズを入れているのも、このようなズレた表現が差し込みやすくなるからです。「この人はクソ真面目にプレゼンをするわけではないな」という印象さえ与えておけば、ちょっとしたズレた表現は相手も受け取りやすくなります。
澤流テクニックその2
もう一つボクがよく使うテクニックが「架空の人同士の会話を入れる」という方法です。
これは、落語を思い出していただけるとわかりやすいと思います。落語なんかですと、将軍様から下町の承認、あるいは農民の人々など、たくさんの登場人物が現れ、すべてを一人の噺家が演じてしまいます。そのような、ちょっとした寸劇をクイックに入れるわけです。
製品の説明をしている最中に、ユーザーアンケートの結果を紹介するとしましょう。「このアンケートには10代後半から20代前半までの女性が回答してくださって、非常にいい評価を受けています」という内容をプレゼン中に伝えるとしましょう。
「この製品を女子高生の方に試していただいたところ、『マジでこの機能使いやすいんだけど~~!やばい~~!』と、大変ポジティブな反応をいただきました」と、女子高生のセリフの部分だけ声のトーンもちょっと上げ気味にして、ちょっと女子高生っぽく話すと、メリハリがつきます。
これも、あまり必死になって笑わせようとしなくてOKです。スパイスのような形で挟み込めば十分です。
ボクがよく使うテクニックは「歴史上の人たちを今風に登場させる」というやり方です。「織田信長さんはどうやって多くの兵士を動かしたのか」という話をするとき、信長さんの語り口を妙に軽くしてみたりします。
おそらく、織田信長は近い家臣に鉄砲を使った戦術に関する説明などを行い、合戦に臨んだのではないかと思います。普通なら「おそらく織田信長は、伝来したばかりの鉄砲を合戦で使おうと思いつき、家臣にその指示をしたと思われます」なんていうのが普通の説明になりますね。織田信長が誰かに説明をしているシーンを、ちょっとコミカルに演じてみるわけです。
「俺さぁ、武田さんに喧嘩売っちゃおうかと思ってるんだよね~。で、鉄砲とか使って晩バーンとか撃っちゃって、誰もやったことないイノベーティブなやり方で合戦とかしちゃおうと思ってるわけ。どぉ思う?」なんて話し方を、プレゼンの最中に挟み込みます。
こんな話し方をしていたとは到底思えませんし、イノベーティブとか言ってるわけがありません。ただ、このように笑いを呼ぶような説明をすることで、やわらかい雰囲気でありつつもボクが伝えたいことは表現できています。「織田信長は家臣に対して自分の新しいやり方を説明していた、それがきっかけで世の中が変化した」というストーリーを伝えるのに、あえて柔らかい表現を使うのです。
こういう「ズレ」は人々の意識の緩和を呼びます。そうすることで、本当に伝えたいことを受け取りやすくするのが、プレゼンにおける笑いの役割です。
最後に
プレゼンには笑いが必要だ、と思い詰めるあまり、プレゼン開始の直後に必死の思いでギャグを言って、思い切り滑ってしまった人を何度も見たことがあります。そして、そのあとの数十分は氷の世界の中でプレゼンをする羽目になります。そこまで思いつめなくて結構です。ちょっとした「緩和」を生み出せればOKなんです。
ちなみに、プレゼンの最中に「緊張しています」とカミングアウトするのも効果的です。なぜなら、たいていの人はその気持ちがわかるので、共感を呼ぶことができるからです。結果として、その場を緩和させることができます。ぜひ試してみてください.
ちなみに、中北さんは「笑い」をビジネスに生かす方法を書いた本を6月20日に出版されます。ご興味のある方は、ぜひともご覧ください。
●『「ウケる」は最強のビジネススキルである。』中北朋宏 著/日本経済新聞出版社
ご意見やフィードバックは、Twitter(@madoka510)などでお寄せくださいね。
またお会いしましょう、では。
image by: Shutterstock.com