アパレル企業が作る服は面白くなくなっていることに加え、新卒のデザイナー採用は限られていると、日本のアパレル業界の閉塞した状況を語るのは、メルマガ『j-fashion journal』の著者で、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんです。坂口さんは、札幌のファッション専門学校での講演後に訊ねられた「校長になったら、どんな学校にしたいか?」の質問に、地域、世界を動かすことが可能なファッションの力を信じるアイデアを披露しています。
ファッション専門学校のイノベーション
先週、札幌のファッション専門学校の150名のみなさんに講演をしました。講演後の食事での会話ですが、「もし、坂口さんが校長になったら、どんな学校にしたいですか」と聞かれました。今日は、それをまとめてみたいと思います。
1.誰のためのファッションか?
ファッション専門学校は、洋裁学校からスタートした。洋裁学校で教えたのは家庭洋裁で、自分や家族の服を作ることを目的としていた。その流れは現在も続いている。学生は自分が作った服を自分で着て発表会を行う。基本は自分の着たい服を作るということだ。
もう一つの目標は、コンテストに入選すること。昔はコンタテストで入賞したり、グランプリを取ることがプロへの登竜門だった。しかし、コンテストの服は仰々しく装飾過多なものが多く、現代人のライフスタイルや現代のファッションに合っているとは思えない。そろそろ自分の服とコンテストの服から卒業するべきではないか。
プロのデザイナーは、クライアントのためにデザインする。多くはアパレル企業の利益を上げるためにデザインするのだ。それには、顧客に支持される服を作らなければならない。自分の好みではなく、顧客の好みに合わせること。そのために、トレンド情報をチェックし、市場調査を行う。
しかし、アパレル企業が作る服は面白くない。冒険をせずに安全なものを作っているからだ。それに、日本のアパレル企業は新卒のデザイナーを採用することをやめてしまった。 それなら、学生は何のために服を作ればいいのか?誰のために服を作ればいいのか?
2.地域を盛り上げるファッション
例えば、北海道の専門学校なら、「北海道を盛り上げるためにファッションは何ができるか」を考える。 例えば、北海道の産業を盛り上げる。農業を盛り上げるファッション。畑をステージと考えて、そこに色とりどりのファッションが働いている。その姿を想定し、テーマを決めてコレクションを作る。そして、畑でファッションショーを行う。 漁師さんを応援するファッションはどうか。本物の漁師さんをモデルにした写真集を出す。機能的にも優れたファッションを身につけてもらう。普段着ている服をリフォームするのも面白いし、普段着ている服を借りて、その人のサイズに合う服を作る。 ビアガーデンで着用してもらうチャリティの服はどうか。Tシャツかエプロン、前掛けなど。そこにメッセージのコピー入れて、みなさんに着てもらう。できれば、購入してもらいたい。これもイベント自体が発表の場となる。学生がフォトグラファーとなって、着用した姿を撮影するのも良いだろう。
3.観光資源としてのファッション
北海道の文化や歴史を紹介するなら、アイヌの歴史や文化は外せないだろう。アイヌに伝わる織物、柄などを使った工芸品を作れば、土産物としての需要も高いはずである。 北海道には繊維産業と呼べるものはほとんどないが、こうした文化を基本にしたコンセプトでモノ作りを行えば、他県で生産したとしても、それが北海道の特産品になるはずである。 単なるTシャツであっても、その柄がアイヌの伝統的な柄であることが重要であり、そこから北海道テキスタイルのブランディングが可能になると思う。
4.国際交流ファッションイベント
札幌市は中国の瀋陽市と姉妹都市である。瀋陽には魯迅美術大学がある。例えば、日中両国共催の「大自然と共生するサスティナブルファッションコンテスト」はできないだろうか。あるいは、同じテーマのアニメショートムービーのコンテストでもいい。 とにかく、まずは学校同士のイベントからスタートし、そこに行政や企業を巻き込むことを考えたいと思う。
多分どこの都市にも姉妹都市は存在するが、多くの場合マンネリ化した地味なイベントが行われるだけで、盛り上がりはない。若者が参加したくなるような魅力的なテーマのイベントを企画できれば、最終的には観光資源にもなるだろう。
いずれにせよ、ファッションは時代を動かすパワーを秘めている。個人の趣味嗜好だけで取り組むのは勿体ない。プロを目指すなら、ファッションで世界を動かそうではないか。
■編集後記「締めの都々逸」
「一つ一つのイベント育て 地域を盛り上げ 楽しもう」
何でもそうですけど、現実になるかならないかの時に、いろいろと妄想するのは楽しいものです。常に企画段階は楽しい。具体的に動き出すと苦労ばかりです。最初の企画に夢があれば、現実的な苦労も耐えられるというもの。そんな仕事をしたいと思っています。 北海道とは何となく縁ができそうです。面白いことができたらいいな。時間はかかっても、いつかは分かってもらえる。そんな気持ちで頑張りたいと思います。(坂口昌章)
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