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【書評】なぜ安倍首相はアメリカを裏切り中国と関係を深めるのか

ここに来て中国との経済連携を推し進める決意を固めたように見える安倍首相ですが、同盟国である米に対する裏切り行為とならないのでしょうか。 今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが取り上げているのは、そんな疑問や日米中関係の今とこれからが解説されている一冊。識者たちが繰り広げる予定調和なしの対談も読み応えあり、の良書です。

偏屈BOOK案内:宮崎正弘・大竹愼一・加藤鉱『米中壊滅 日中スワップ協定なんてとんでもない』

米中壊滅 日中スワップ協定なんてとんでもない
宮崎正弘・大竹愼一・加藤鉱 著/徳間書店

この本は、チャイナウォッチャーとして知られる宮崎正弘、世界を相手に活動しているファンドマネージャーの大竹愼一、10年間香港に滞在し中国を取材し続けてきた加藤鉱が、現在進行中の「米中貿易戦争」「日本と中国の関係それとパンク寸前のヨーロッパについて分析する。宮崎と大竹の対談は丁々発止、意見が合わないところがいい。別枠の「加藤鉱の視点」も説得力がある。

宮崎:安倍はウルトラCを温めている。今年7月の衆参同時解散前に消費増税の延期、もしくは凍結を発表する。中国経済が崩壊し、日本経済が危殆に瀕するという格好の「口実」ができるからだ。逆にいえば、安倍首相が衆参同時選挙で勝って、東京五輪まで首相を続けるシナリオとしてはそれしかない。
(※この本の発行は2019年3月8日)

消費税延期ができなかったら安倍政権はもう終わりで、レイムダックに陥る。まあベストは消費税廃止なのだろう。それができれば今年の衆参同時選挙を大勝するのは確実である。……宮崎はいい意味での「狼少年」だと思う。この人は10年以上前から一貫して「中国はいま破局寸前である」論を展開中である。

安倍首相が中国通貨スワップの再開や、「一帯一路」に協力を表明するなど、中国との経済関係の緊密化を進めることになった。アメリカに対する裏切りみたいで、なんか変だな~と思っていたが、宮崎のタネあかしによれば、落ち目甚だしい中国経済の大崩壊を避けるためにほかならない、とのこと。

「ということはアメリカの了解ありきだった。ウォール街としては中国経済をハードクラッシュさせたくない。可能ならソフトランディングさせたい。そのために安倍首相の出番が回ってきて訪中した。そんなシナリオが日米間のトップレベルでつくられていたような気がする」……気がする、って。一方の大竹は、そのシナリオを否定し、アメリカが中国を惑わす錯乱戦法の一つだという。

日本が手を差し伸べる格好をして中国を錯乱させ、さらに手酷い混乱を与えるつもりなのだ。とくに通貨スワップ協定などはきわめて危ない話で、そもそも日本側は通貨スワップを御せる能力を備えていない。この通貨スワップは次元の違う恐ろしさを秘めている。暴落する可能性が高い人民元とのスワップは、絶対にやめるべきだ。崖から地獄に飛び込むようなアホなことだ、という。

安倍首相は中国の「一帯一路」に協力すると明言したが、口で言ってるだけの可能性が可能性が非常に高く、「一帯一路は水泡に帰すると宮崎は見る。アメリカは高関税で中国を締めつけていけば「一帯一路」は停滞し、やがて動けなくなる。だから日本は協力を表明しても、結果的には何の助けにもならない、実効性のない話だとアメリカも結論づけている、と大竹は読んでいる。

 

日本はいまもなお中国に進出している。大竹がいつも言うのは「株市場でも日本人が参入してきたら売りのときだ。すでにピークを打って落ち始める」。中国でビッグデータに熱くなっている日本企業は突っこんでいけば必ず失敗する。トヨタは中国、アメリカ、電気自動車の3つのマイナス要因で潰れるかもしれないと大竹の警告。キャラの違う二人の対談は面白い。

日本企業は中国から続々と引き揚げている、はずなのに、実は日本人の駐在員、工場の数は増えている。しかも奥地にまで進出している。その最大の要因はプライバシーとビッグデータの関係に他ならない、と宮崎。日本にはプライバシー保護でビッグデータを使えないが、中国では使い放題。だからコンピュータ関連企業が中国で実験し、ビジネスの新しい方法を見つけることができる。

米国在住、日米欧で30年以上第一線で活動する大竹はそれを否定する。日本企業が中国で実験して、新たなビジネスを成功させられるかというと、また失敗するときっぱり断言する。いいな、こういう予定調和ではないタイマン対談は。株市場でも日本人が参入して来たら「売り」どきだという。日本人が怒濤のように押しかけたとき、そのアイテムは既にピークを打って落ち始める。

AIにせよ、ロボットにせよ、いまのビッグデータにせよ、日本人が将来の成長の源はここにあるとして大挙して飛び込んできたときは絶好の売り場になる。それがウォール街の常識で、大竹も当然売りに行くという。さらに「ビッグデータ研究は、本来日本人が考えている宗教的基盤とは、相反することではないか」。宮崎も「人権がないところの方がやりやすいから」と同意する。

中国経済の崩壊により1億人ボートピープルが日本に押し寄せる。日本列島の人口は爆発的に増えて2億人、アメリカに匹敵するGDPを叩き出せる、と大竹は考える。絶対にあってほしくないシナリオである。ローマ・カルタゴの戦いに匹敵する「米中100年戦争が始まった、と宮崎はいう。「米中が戦火を交える第一戦目は5年以内に起きる。アメリカにはやる気がある」と大竹も応じる。

宮崎は大胆な予想を披露する。あまり当たらない人だが。ノーベル平和賞は世界ウイグル会議総裁のラディア・カーデル女史が受賞する。ウイグルに何の興味もないアメリカ人に刺激を与え、ウイグル人が中国に迫害されていることを知らしめる。ミャンマーのアウンサン・スーチー、アルバニアのマザー・テレサに贈ったのと同じ手法である。平和賞だけはアメリカの意向を汲むからだ。

クーデターは起きるだろうか。中国はクーデター防止のノウハウを持つ。習近平は充分な対策を講じてから外遊に出る。もっとも、露骨に習近平に刃向かう者は殆ど失脚してしまい、潜伏も不可能である。いまは外国の特派員にも尾行はつかない。上空からのGPSで彼らの居場所はすべて把握できる。特派員が友人のスマホで通信しても声紋でバレる。ロイター記者がこんな体験をしている。

湖北省の山奥から武漢に来て、マスクを外して街中を歩いたら何分で捕まるか。当局に掛け合っての実験では、わずか7分だった。監視カメラは全国津々浦々に2億台が配置され、交通警官のサングラスには顔面識別装置を内蔵している。綱紀粛正という大義名分を掲げて多くの利権を奪い取ってきた習近平は、そこらじゅうで恨みを買い、暗殺未遂が習近平19回盟友の王岐山が21回もある。

習近平の真の狙いは終身独裁の専制政治体制を敷くことである。いま政権が巨費を投じて、世界最強・最悪のデジタル・レーニン主義の監視社会を着々と構築しているのも、専制政治をより強固にするためでしかない。だがこのシステムには重大なアキレス腱がある。ネットセキュリティの100%完璧な保護は不可能であろう。在外の優秀な中国人ハッカーならそれを破ることができる。その卓越した能力を使ってくれ。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock,com

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