では、どうして「国家戦略特区」が必要なのかというと、自動運転は現在の法律では禁止されているし、遠隔診療もダメだからです。つまり、世界中が追いかけている新技術が、日本の法律では「ダメ」なのです。ということは、実験をして様々な使われ方の検証をしたりすることも、今は禁止されているのです。
特に自動運転ですが、2018年に数件の事故が起きたことで、アメリカや中国など先端を行っている国では、「人間並みのAIによる完全な自律走行」というのは無理であり、5Gを使ってクルマだけでなく、自転車や歩行者まで含めた交通情報をリアルタイムで共有しながら安全な走行をする「コネクテッド」という考え方が主流になっています。ということは現時点では、自動運転イコール5G技術といっても過言ではありません。
医療もそうです。遠隔地診療の際に、特に手術を含めた措置において必要なのは、超高速低遅延によるリアルタイム画像伝送です。これも5Gの目玉です。
ということは、このまま放置しておけば、世界中が必死になって競争している開発について、日本の場合は「ダメですよ。危険なので禁止ですよ」ということにして、アメリカや中国がグローバルスタンダードを作るのを待つことになってしまいます。
もっとおかしいのはこれに、行政の効率化や教育のICT化といった、4G以前のテクノロジでも十分に実用化されている問題を一緒に扱っていることです。どうして行政の効率化が「スーパー」なのか、それは法律通りにやっていたら、膨大な紙を作ってハンコを押したり、多くの職員に20世紀のような事務作業をさせなくてはならないからで、おかしいのは法律なのですが、その法律を変えるのはエネルギーがいるので、特区で「まずやってみよう」ということになっているわけです。
教育などはもっとそうで、アメリカでもアジアでも、子供は一人一台のタブレットやコンピュータを貸与されて勉強するのが当たり前なのに、それをやるには日本の法律が邪魔をしています。例えば、義務教育の場合は、紙の教科書を無償で配ってそれで学ぶのは法律で義務付けられてしまっているのです。
もっともっとおかしいのは、そもそもこの「スーパーシティ」がうまくいって「5G」の実証実験として良い成果が出たとしても、日本経済にはそれほどのインパクトはないということです。
現在の日本の情報通信産業には、新しい5Gのプラットフォームを開発する力はありません。金もヒトも特許もないのです。ですから、スーパーシティが成功したとしても、せいぜいがファーウェイかシリコンバレーの「顧客の一つ」になるだけです。それでも、それをやらなければ日本の経済社会は更に地盤沈下していくのでやろうとしているわけです。
要するに「スーパーシティ」などと言っていますが、それは「スーパー」でも何でもないわけです。21世紀の世界では、当たり前のことを日本では禁止されているからできない、それをごく一部のテストケースだけ規制を解除するというトホホな話であり、全く「スーパー」ではありません。