イランによる米無人偵察機撃墜事件で思い出す31年前の撃墜事件

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6月20日、米国の無人偵察機グローバルホークが領空侵犯したとして、イランにより撃墜され、報道によれば、トランプ大統領は報復攻撃を決行する寸前で中止を決断したようです。この事態に接し、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんは、31年前の米イージス巡洋艦によるイラン航空機撃墜事件を想起し、当時の経緯を振り返っています。

戦争を終わらせたイラン航空機撃墜事件

イランによる米国の無人偵察機グローバルホークの撃墜事件を受けて、思い出されてならないのは30年あまり前の「イラン航空機撃墜事件」です。

1988年7月3日、イランのバンダルアバス発ドバイ行きのイラン航空655便(エアバスA300)は、ホルムズ海峡付近を遊弋していた米海軍のイージス巡洋艦ビンセンスが発射した2発の艦対空ミサイル・スタンダードSM2によって撃墜され、乗客乗員290人全員が死亡しました。

原因については、ビンセンス側がエアバスの直前に受信したイラン空軍のF-14戦闘機の信号を誤認していたこと、攻撃してきたイラン艦艇を艦内のトラブルを抱えながら追跡するなかで、様々な人為的ミスが生じたこと、その艦内の混乱の中でエアバスのことを攻撃のために接近してきたF-14と思い込んでしまったことが挙げられ、そうした複合要因が関係して起きた可能性が少なくありません。

ビンセンス側はエアバスに対して軍事遭難信号と国際救難信号を使って警告しましたが、民間機であるエアバスには軍事遭難信号を受信する装置が搭載されておらず、国際救難信号についてもエアバスに対する警告かどうか判断することはできなかったと思われ、そのまま飛び続けることになりました。

F-14の攻撃が切迫していると判断したビンセンス側は、米海軍中東機動部隊司令官に報告し、さらに接近してきた場合の撃墜を許可されます。

8年後の1996年になって、米国政府はイラン人犠牲者248人に対する補償金6180万ドルを支払い、事実上、ビンセンス側の過誤を認める形になりましたが、いまに至るまで公式に責任を認める見解は示されていません。

しかし、このイラン航空機撃墜事件は8年間に及ぶイラン・イラク戦争に終止符を打つ働きをすることになりました。撃墜事件からわずか17日後、イランの最高指導者ホメイニ師は、それまで反対していた国連の仲介を受け入れたのです。

そこから、ビンセンスによるイラン航空機撃墜は、進められていた戦争終結交渉に圧力を加え、イランを震えあがらせるために意図的に行われたとする陰謀説が、いまも跡を絶ちません。

今回のグローバルホーク撃墜事件のあと、ペルシャ湾の緊張にどのような影響がもたらされるのか、注目していきたいと思います。(小川和久)

image by: Vytautas Kielaitis / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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