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ピンク色のレッグマッサージャーを見て重力と人間について考えた

「地球に残っている連中は地球を汚染しているだけの、重力に魂を縛られている人々だ!」と主張したのは、ネオ・ジオンの総帥シャア・アズナブルですが、私たちはいまのところ、重力から離れて生きていくのは難しいようです。メルマガ『8人ばなし』の著者の山崎勝義さんは、生まれてから死ぬまで、重力の影響下でその力に抗う人の一生について考察。結論は、重力を忘れたようにふわふわ生きている若者が親世代に言われがちなあるフレーズへと導かれていきました。

重力と人間のこと

家電量販店をぶらついていると、たまたま健康機器コーナーに行き当たった。今ではすっかり見慣れた光景となったが、そこでは多くの老男女が目を閉じながら置いてあるマッサージチェアをご自由にお試し中であった。

「最近の物はメルセデスSクラスのリアシート並みに立派だな」などと思いつつその前を通り過ぎようとした時、何となく場違いな物が目に入った。ピンクのレガースである。レガースとは野球でキャッチャーが脚に着けている防具のことである。

もちろん場所も場所、色も色だから、それが何かはすぐに分かった。女性用レッグマッサージャーである。売り場を見ると、フットマッサージャーの域など軽く越え、膝下どころか膝上・太腿まで包み込むモデルもある。これではどう見ても新種の格闘技の防具である。いくら美容のためとは言え、毎晩これをやられては色気も何もあったものではない。

とは言うものの、その恰好がいくら可笑しくてもその努力は決して笑うべきものではないということもよく承知している。知り合いにイベントなどでよく舞台に立つ仕事をしている女性がいるのだが、その人が言っていた。「三十歳間近になるとメディキュットが欠かせない」これもプロフェッショナルの言である。

こういった努力が必要なのも地球に重力があるためである。我々は重力に抗しながら成長し、また抗しながら老いて行く存在なのである。

誕生後、ベビーベッドの上で寝返りを打ち、興味のあるものに手や足を伸ばしたりすること、すべて重力に逆らいながらの運動である。そのうち自力でうつ伏せになれるようになると、次は初めての移動手段ハイハイである。四肢で自分の体重を支持し、柔らかい股関節をうまく使って前進する。重力、何するものぞである。

つかまり立ち、よちよち歩き。最も重い頭部が一番高い位置に来て、それを支える接地面としての足はまだ小さい。重力は力だけでなくバランスをも要求する。成長して自在に走れるようになっても油断すれば瞬時に支持力を失い、重力のつかまるところとなり転倒する。

大人になればなったで重力は朝夕の身長の変化をもたらす。これは24個の椎骨の間でクッション材として機能している椎間板が日中の活動中に重力によって圧迫され、その結果身長が縮むからである。因みに椎間板一つにつき1ミリ縮めば、全体で軽く2センチは身長が縮む計算である。ついでに言うと、無重力下(宇宙空間)だと身長は逆に5センチほども伸びる

足が浮腫んでしまうのも重力が体液(血液やリンパ液など)を下位(遠位)に留めようとするからである。これがあるために靴のフィッティングは夕方か午後がいいなどと言われるのである。因みに女性の方が浮腫み易いのは男性に比べて血圧が低いからである。ポンプの力が弱ければ重力に逆らうのはなかなかに難しい。メディキュットの出番である。

老年期になれば、椎間板の弾性がなくなりその緩衝能力は衰える。腰痛の始まりである。また血管が硬化すると収縮する力が弱くなるから浮腫みもますます取れなくなる。そして最後には重力に抗する体力も気力もなくなり寝たきりとなってしまう。身体のあらゆる部位が抗重力の活動を止める時、生命としての活動もいよいよ終わりの時を迎えるのである。
こんなふうに考えると、どうやら我々の一生は文字通り「地に足をつけて生きる」もののようである。

image by: Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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【著者】 山崎勝義 【月額】 ¥220/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 火曜日 発行予定

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