知名度と実績は別。解決すべき外交問題を全て無視される安倍総理

shima20190703
 

海外訪問や首脳会談に意欲的な「安倍総理の外交」はここ数年、世界で認知されつつありますが、目立った外交的課題の成果は得られていると言えるのでしょうか。今回、ジャーナリストとして数々のメディアで活躍中の嶌信彦さんは、自身の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』の中で、「名前を売っただけ」として安倍外交の問題点を鋭く指摘し、今後日本外交が目指すべき新たな道筋について考察しています。

成果無い安倍外交のこれから

安倍政治で注目を浴びるのは、いつも外交である。日本の政治家は言葉の問題もあって外交は不得意という印象が強かった。しかし安倍首相に限っていえば、とにかく訪問や招待を含め、外国首脳との会談は戦後随一だろう。トランプ大統領やプーチン大統領との会談は20回を越し、中国や韓国、欧州首脳との会談も多い。最近は北朝鮮の金正恩総書記との対話にも「条件をつけずに話したい」と意欲をみせている。

過去において日本の首相は、必ずしも首脳会談に熱心ではなかった。国内政治、特に野党との付き合いが重要と考えていたし、地理的にアジアの東端に位置する日本としては長い期間にわたり首相が国内を空けることへの批判が野党などには多かったからだ。

首相が海外訪問する場合は、先進国同士や東南アジア諸国との会合を利用するケースがほとんどだった。このため外国首脳とのつきあいは、どうしても形式的になったし、腹を割って話し合ったり個人的に仲良くなるケースは少なかった。ところが、安倍首相は好んで外国に出かけ、行った先で趣味のゴルフなどをしたりしていたので、個人的にも付き合い幅を広げており、いつの間にか安倍首相の世界における存在感も高まっていた。

しかし、海外訪問は多いものの各国間との外交的課題についてはこの数年間で進んできたとは言い難かった。トランプ大統領は安倍首相との個人的相性の良さは認めたものの、日本に対する貿易赤字について毎回言及してきたし、自動車や農産物の関税引き下げ要求もしつこいほど述べたててきた。

また韓国はすでに決着がついたはずの第二次大戦中の徴用工の賠償について蒸し返してきているし、日本が最重要視している北朝鮮との拉致問題について北側は「すでに解決済だ」との姿勢を繰り返すばかりで新しい情報などを出そうとしていない。

中国では、天安門事件を「反革命の暴乱だった」との評価を変えず、遺族の監視強化を強めている。またトランプ大統領はアメリカの機器から情報盗難や中国の機器使用は情報漏れの恐れがあるとして使用しないよう注意を呼び掛けたりしている。ロシアも日本が北方四島などで経済協力をすれば糸口がつかめるとみて多くの協力をしてきたが一顧だにされていない。

いわば、安倍首相は世界を飛び回り、“日本に安倍あり”と名を売ったものの日本が解決すべき外交課題についてはほとんど無視されてきたというのが実情なのだ。

外交的解決は、名前が売れれば相手が忖度してくれるという甘い交渉ではない。やはり過去の約束や経緯を論理立てて説明し、国際社会にもアピールしてゆく宣伝も必要だろう。それと日本のホームグランドはやはり東南アジアであり、東南アジア諸国とも第二次大戦中の迷惑をかけた保障などは解決してきた実績があるはずだ。

日本は大国外交だけを目指すのではなく、周囲の東南アジア諸国の支援や仲間づくりにもっと力を入れたらどうだろう。アメリカの口添えも力になるだろうが、実は、東南アジアの国々を味方につけることのほうが大きな力になるだろう。日本はアジアの国の中心的存在であることを自覚し、今後もそうした振る舞いに努力することが案外近道になるのではないだろうか。

(Japan In-depth 2019年6月21日)

image by: 安倍晋三 - Home | Facebook

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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