人前で話すあらゆるシーンに役立つプロの技を伝えてくれるメルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』の著者で、アナウンサー歴30年の熊谷章洋さん。今回は、話がわかりにくくなってしまう人が、何を意識したらわかりやすくなるのか、話し方のコツを明快に教えてくれました。
論点を絞ればすべての話がわかりやすくなる
相手の話がわかりにくい、自分の話がわかりにくくなってしまう。その原因は、ほとんど3つぐらいしかありません。
ひとつは、聞き取りにくいこと。これは当たり前ですよね。その話の音声自体が認識できない、あるいは間違って認識されてしまうわけですから、内容が伝わらなくて当然です。
発声、発音の問題や、話す環境の問題(例えば騒音で聞き取りにくいなど)はもちろん、相手が聞く態勢にないのに話を進めてしまうような場合も、聞き取りにくいと感じられてしまいます。「え?いま何て言った?」と聞き返されるようなケースですね。
ふたつめは、言葉の意味がわからないこと。知らない外国語で話しかけられて理解できないのと同様に、たとえ日本人が日本語で話しているとしても、聞き手の知っている語彙の範囲内でないと、話は通じません。
カタカナ語や専門用語、それに仲間内でしか通じない言葉や言い回しもそうですね。ただし、人間には類推する能力もありますから、たとえ、言葉がひとつぐらい理解できなくても、文脈で理解することは可能です。
とはいえ、知らない言葉が多すぎて、理解できない時間が長くなると、聞き手は聞くことを放棄するようになる、つまり、積極的に聞く気を無くしますから、結果的に、話は通じにくくなりますし、それどころか、潜在意識の中に、「話を聞くに値しない相手」というレッテルを貼られてしまう恐れもあります。つまり、なんか苦手な人と思われてしまうこともありますから、要注意ですね。
ここまでの話の詳細、そして改善法などは、これまで再三、テーマにしてきましたから、まぐまぐから過去記事を検索して、ご一読いただければ幸いです。
さて、問題は第3の原因ですよね。何だと思いますか?それは、論点が絞れていないことです。簡単な言葉に置き換えると、「何について話しているのか、わからない」状態ですね。
言っている内容がわからないことのすべては、論点が絞れていないことによる、逆に言うと、わかりやすい言葉、聞き取りやすい音声で、論点を絞って話ができれば、すべての話はわかりやすくなる、ということです。
そこまで断定されると、そんな馬鹿な!?話の内容が分からなくなる理由が、論点だけ?って思いますよね。でも、実際、そうなんです。わかりやすい例で、お話ししましょう。
論点が絞れている言い方とは、具体的にはこういうことです。
- 「私が好きな食べ物は、本マグロのヅケ丼です」
- 「私が昨日、一番楽しいと感じたのは、迷子になった〇〇ちゃんと出会えた瞬間です」
論点、絞れていますよね。
いやいや、この例文では単純なワードしか使われていないので、わかりやすいのは当たり前でしょう、と思うかもしれませんが、例えば、「AとBの関係性は、科学的には〇×@の定理で言い表すことができる」のように、〇×@の定理、それ自体が何なのか?は、さっぱりわからなくても、つまり、その言葉自体の意味がわからない、上記ふたつめの状態にあったとしても、AとBの関係性が、科学的には、〇×@の定理で言い表せる、というこの事実だけは、確実に伝わるはずですよね。
論点を絞るとすべての話が分かりやすくなる、とは、こういうことです。あなたが過去にやらかしてしまった、わかりにくい話も、この言い方にすれば絶対に伝わるようになります。
では、すべての話を、論点の絞れた話にするためにはどうすればいいのでしょうか?前述の例文で、感づいた方もいらっしゃるかもしれませんね。
それは、「話の要素を、もうそれ以上割り切れないところまで、分解して、速攻で、それに答えるようにすること」です。どういうことなのか、説明しますね。
私たち人間が日々話すテーマにしている事象は様々なのですが、その事象にはそれぞれ、話すべき要素がいろいろ含まれているものです。
例えば、「私のこと」これもひとつの話すテーマですよね。私たちは日常的に、「私のこと」を話しています。でも単に「私のこと」と言っても、話すべきことは何種類もあるでしょう。
つまり「私のこと」だけでは、論点が絞り切れていないのです。なのに「私のこと」というざっくりしたテーマだけを念頭に置いたまま、話し始めてしまうから、話が分かりにくくなってしまうのです。
「私のこと」のようなざっくりしたテーマは、まだまだいろんな切り口で分解することができますよね。数字で言えば、48みたいなもの。2でも3でも4でも6でも8でも12でも24でも、割ることができます。
前述の例で考えてみましょう。
私のこと(の中でも)
- > 昨日のこと
- > 楽しいと感じたこと
- > (その中で)一番
ここまで分解すれば、もう割り切れない状態ですよね。これに答えればいいのです。私のこと>昨日のこと>楽しいと感じたこと>一番=迷子になった〇〇ちゃんと出会えた瞬間
ハイ、論点の絞れた分かりやすい話が、一丁あがりですね。
コツは、「速攻で」答えることですよ。
お気づきかもしれませんが、「私のこと>昨日のこと>楽しいと感じたこと>一番」という、話のテーマを提示していく部分が、話の前振りのような形になっていますから、答えは、そのすぐ後に言うこと。
話をわかりやすくする方法として「主述を近づける」という記事を過去にも書いたことがあります。主述が離れるほど、話が難解になっていきます。意図的に難解にしたいのでなければ、前振りしたら速攻で答えるほうが、良いと思います。
もちろん話の演出テクニックとして、問いと答えを時間的に離すという手はありますが、そのためには、振った問いを聞き手に忘れられないように印象付けたり、自分自身が答えを言い忘れないようにしたり、など、わざわざ話を難解にするには、相応の苦労やリスクも伴うものです。
また機会があったら解説しますね。話をもとに戻します。
同様に、前述の例では、AとB>両者の関係性>科学的に言い表す=〇×@の定理。こういうことですね。
ちなみに、この話を続けるならば、AとB>両者の関係性>科学的に言い表す=〇×@の定理、ということをまず提示しておいたうえで、「ではその〇×@の定理とはどういうものなのか?といいますと…」と、次の段階に話を進めていけばいいわけです。
このように、ひとつの論点を簡潔に言い尽くして終わらせながら、次の論点に移動していく話し方ができれば、聞き手に「理解できない時間」を、全く与えることなく話し進めることが可能です。
この方法の利点は、聞き手がわかりやすいだけではなく、自分自身が、話すべきことを言い忘れなくて済む、ということもあります。話すべきことは、頭の中からどんどん減っていく一方になりますからね。
また聞き手にとっても、会話、議論において考えるべきことが、明確になります。まだ言及されていない論点に絞ればいいわけですから。話し手が提示する論点が明確だと、双方の思考がとてもクリアになる。建設的な関係が築きやすくなるのです。逆に言うと…いや、言うのはやめておきましょう。
最後になりますが、今回お話しした論点の絞り方を、一度お試しください。
例えば、「仕事について」。このざっくりしたテーマを、もう分解できないところまで分解して、論点を絞ってみてください。論点とは、その人なりの切り口ですから、人それぞれ、イメージできる論点は違ってくると思いますが、どういう論点があり得るか?
それを思い描けること自体が大切であり、またそれがその人なりの個性ということにもなると思います。また、話せる論点が多いほど、話の引き出しの多い人、話題の豊富な人、ということにも通じます。
さて「仕事について」、あなたなら、どういう話ができますか?
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