国際交渉人が解説。各国首脳がこぞって『安倍詣で』に参じる理由

 

そのトルコと常に友好的な立場にあるのが日本であることは周知の事実ですが、そのトルコも混迷を極める地域情勢において、地域で比較的受け入れられていて、何かしらの“合意”が出来た場合、その実行を裏付けるだけの経済力がある日本がもっと積極的な役割を果たしてくれることを期待しています。

あとは、日本移民が多いラテンアメリカ地域、私も関わるタイ深南部のポンドゥック、ミャンマーのロヒンギャをめぐる問題など、数多くのイシューにおいて、調停の役割を果たすポテンシャルを日本は持っていると考えています。恐らく外交当局はそのようなポテンシャルには気付いていないのでしょうが。

多くの可能性を秘めており、かつ新たな外交的なフロンティアを開く機会が日本にありますが、役割を果たすことが難しいと考えられるのが、韓国や北朝鮮といった自らが当事者になっているマターや、地域問題から国際問題に格上げされた南シナ海問題(対米、対中という観点で)でも『調停役』は果たすことはできません。この点は、戦後、一切変わっていないでしょう。 それに加えて、困難を極めるのが、すでに起きてしまっている武力紛争の調停です。紛争調停の経験を基にお話いたしますが、紛争の調停においては、外交・交渉を通じて行うことが望ましいのですが、外交・交渉力を発揮するためには、それを支える軍事力・軍事的なプレゼンスの可能性が必要です。残念ながら、日本は『軍隊を保持しない』ため、軍事的なオプションを背景にした(支えにした)調停や交渉は機能しません。ゆえに、一旦戦争がスタートしてしまった場合、停戦に向けた“願い”は表明できても、実質的には蚊帳の外に置かれてしまいます。

しかし、紛争の場面においても日本が主導的な役割を担えるエリアがあります。それは、戦後復興支援です。経済的な支援に加え、さまざまな専門家のチームを組織し、派遣したうえで、peace building/post-conflict reconstructionに貢献ができます。

現在、さまざまな憲法議論が再燃していますが、国際案件の解決におけるプレゼンスという観点からは、すそ野を広げるのではなく、「日本はどの分野で主導的な役割を果たすか」、「どのエリアには関与できないか」を明確に整理しておく必要があるでしょう。 2018年あたりから崩れ出し、2019年に入って混迷の度合いを増している世界の協調体制ですが、そのような中だからこそ、世界各地に散らばり、くすぶり始めている世界戦争の種火を抑える役割を担えるplayerが必要です。私は、まだまだ日本は気づいてはいないかもしれませんが、日本にはその役割を担うだけの十分なポテンシャルはあるかと思います。

国際舞台におけるmajor playerに躍り出るか。それとも、これまでのように「うーん、優秀なんだろうけど、ちょっと微妙」といった位置づけに留まり、解決を誰かに委ねたままでいるか。その決断を下すまでに、もうあまり猶予はないと考えています。

image by: Drop of Light / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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