国際交渉人が解説。各国首脳がこぞって『安倍詣で』に参じる理由

 

現在のアサド政権下で行われている反政府勢力への攻撃や、非戦闘員への無差別の攻撃、真犯人がまだ見えない毒ガス使用疑惑など、決して肩を持つことができない内容は多々ありますが、シリア問題の根っこにある問題は、『誰もアサド大統領の言い分を聞こうとしない』という点にあります。 私が調停を担当した旧ユーゴスラビアの紛争(特にコソボ)でもミロセビッチ大統領を一方的に悪者に仕立て上げるという事態が起きていたように、私達が目にして耳にする情報は、アサド大統領は残虐であるという内容ばかりです。

そこに付け込んでいるのが、ロシアのプーチン大統領であり、トルコのエルドアン大統領であり、そしてイランなのですが、長年にわたり戦火に見舞われ、国力が著しく落ちているとはいえ、シリアはいまだに中東地域においては、実力国で、隣国レバノンとともに、イスラエルにとっては、イランと並ぶほどの『邪魔な国』です。そのイスラエル的な考えがアメリカやイギリスを通じて流布されており、なんとも言えない対立軸と緊張感を作りあげています。

日本の場合、意図してか否かは分かりませんが、シリアで行われている「こと」に対する非難こそしますが、欧米諸国の政府の様に、アサド大統領とその政権への直接的な非難は避けているように見受けられます。

それを受けてでしょうか、シリア問題に関する複雑な調停の機会に、シリア問題解決に向けた日本の役割への期待の声を聞きます。イランとよく似て、日本に対する親近感もありますが、サイドを取らない姿勢に、行き詰まりを打開するきっかけを作ってくれるのではないかとの期待があるようです。

残念ながらこのような声は何かにかき消され、日本には届いていませんので何も日本サイドからはアプローチがないようなのですが、人的・組織的なキャパシティーがあるかどうかという問題はありますが、この混迷の国際情勢の中で、日本が大きな貢献が出来るエリアではないかと考えます。

中東において日本が大きな役割を果たせそうな理由として、抱かれている親近感以外に、地域のフィクサー的な役割を担っていると思われるトルコとの絶対的な関係があります。

エルドアン大統領の下、今、トルコ政府はアメリカやロシア、欧州各国、そして中東の周辺国を巻き込んだ一種の外交的なギャンブルをしているように見えますが、中東・北アフリカ地域での影響力は絶大です。カショギ問題を通じてプレッシャーに晒されているサウジアラビアも、トルコを非難こそしますが、直接的な対決は意図していません。

トランプ大統領も、エルドアンのトルコがロシアからS400を購入し導入することを決めたことに対し、経済的な締め付けは行いますが、対ロシアのカードということのみならず、イランや周辺国に影響力があるという点に鑑みて、トルコとの対立は激化させないようにしているようです。もちろん、NATO軍の中東方面をカバーする戦略的な拠点という特徴もありますが、それ以上に、トルコに秘められた“力”を恐れているように見えます。

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