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12万でどう生活しろと。最低賃金の上がらない日本の暗い未来

先日行われた参院選でも与野党が公約として掲げた、最低賃金の引き上げ。現在設定されている金額では、フルに働いたとしても生活が立ちいかないという現実があることは否定できません。健康社会学者の河合薫さんは、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、最低賃金アップ反対論者が理由に上げる「雇用の減少」の誤りを指摘するとともに、全国一律で最低賃金を1,000円にすることが、現代日本が抱える多くの問題を解消する一歩になると記しています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年7月24日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

最低賃金を上げたがらないトップの怠慢

参院選が終わりましたが、みなさまは投票に行きましたか?

投票率の低さは相変わらずでしたが、各党が掲げた公約実現にむけて建設的な議論が展開されることを願うばかりです。

特に多くの政党が公約にあげた「最低賃金の引き上げ」をきちんと実施し、先進国最低レベルという汚名を晴らしてほしいです。

そんな中、厚生労働省は22日、2019年度の最低賃金の見直しに向けた議論を再開したと発表しました。

政府は、より早期に平均で1,000円を目指す方針を打ち出していますが、労働者側からは最低賃金の地域間格差の是正や消費増税による生活への影響を勘案すべきだとの声が出た一方、経済界からは中小企業の負担増を懸念する声があがりました。

つい先日も、日本商工会議所が否定的な見解を示したことが波紋を広げました。

最低賃金の引き上げがもたらす功罪については、さまざまな議論があります。

しかしながら、現在の最低賃金(全国平均874円)の場合、フルタイムで働いても月額14万6,000円程度(874円×8時間×21日)です。ここから社会保険料等を差し引いた手取額は、たったの約12万円程度。12万円でどう生活しろというのでしょうか?

本来、生きるために人は働きます。ところが働けど働けど、生活が楽にならない、苦しさ、貧しさから脱せないのが、今の日本社会です。

しかも、最低賃金レベルでの働き手が増えているという現実もある。

2007年には最低賃金=719円に近い時給800円未満の人は、7万2,000人でしたが、2017年には最低賃金=932円に近い時給1,000円未満の人は27万5,000人と4倍近く増加。10年で4倍に増えた計算になります(厚労省調べ)。

その背景にあるのが、雇用者の4割を占める非正規雇用の増加と賃金の低い産業での人手不足です。

最低賃金引き上げに反対する人の大きな理由は「雇用の減少」ですが、地方の企業などに講演会や取材で行くと「人手不足を解消するために賃金を上げた」と話すトップの多いこと、多いこと。

人手を求めて社長さんが海外に出向き、専門学校や大学などと連携し、外国人の働き手を増やしている企業の中には、日本人より高い賃金を払っている企業も多数存在します。

そういったトップが信じるもの。それは「人の力」です。

働く人たちが働きがいを持てる働かせ方をする。そうすることで働く人たちが「もっとがんばろう!もっと自分の能力を発揮したい!」「社長さんに喜んでもらいたい!」「会社のためになりたい!」とトップと会社を信じ、能力を拡大させるのです。

経営者も高い賃金を払うために経営努力をする。働く人たちの「人の力」が加わる。ここで科学反応が起き、企業もそこで働く人も豊かになる

呪文のように繰り返される「生産性の向上」とは、こういうことをいうのではないでしょうか。

実際、英ミドルセックス大の研究者らが最低賃金の上昇が始まった1999年から2008年までを分析したところ、賃金引き上げが企業の生産性に寄与していることがわかりました。同期間で実質の最低賃金が3割上がったのに対し、労働生産性は15%向上。トップと働き手の両輪が会社の力を高めることが、統計的に確かめられているのです。

「なんでもかんでも世界と比べるな!」と口を尖らせる人がいますが、最低賃金を強制的かつ継続的に引き上げることで、経営者が刺激され、業務の効率化が進み、労働の付加価値を高めようとする動きは世界各地で広まっています。

そして、もうひとつ最低賃金について言わせていただければ、日本にしかない地域間格差も解消すべきです。最低賃金が最も高い東京都が985円に対し、最も低い鹿児島県は761円。その差は224円もあり、地域間格差はこの10年間で倍増しました。

地方で働きたいけど安い仕事しかない」と嘆く学生がたくさんいます。一方、「地方から若者が消えていく」と地方の人たちは嘆いています。

今や、日本全国どこにいってコンビニがあり、スーパーがある。レストランや寿司屋のチェーン店も、多くが全国展開です。

政府が示すとおり、全国一律で最低賃金を1,000円にすることが、東京一極集中を軽減し地方もそこで暮らす人も豊かな生活をする第一歩になる。そう思えてなりません。

みなさまのご意見もお聞かせください。

image by:  Shutterstock.com

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年7月24日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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