高度成長と共に消費者の支持を得て、スーパー業界の中でトップに君臨した「ダイエー」。圧倒的で無敵な経営力を持っているように見えましたが、その凋落はあっけないものでした。長いスパンで企業経営を安定させるには何が重要なのでしょうか。今回の無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では著者の浅井良一さんが、「企業の定義」の定期メンテナンスが重要だとして、その理由を詳しく解説しています。
“定義”の陳腐化
こんなことを、ドラッカーは言っています。「難攻不落に見えた組織が、これほどまでに危機に見舞われるようになったのは“マネジメントの方法”が急に下手になったからではない」「単に、これまでの事業が時代遅れの間違ったものになったにすぎない。なぜか『事業の定義が陳腐化』したのだ」と。
続けます。「この事業の定義は三つの要素からなる」「第一が“事業環境の定義”、第二が“使命とするものの定義”、そして第三が“自らの強みの定義”である。これまで順調だったのは、この定義のそれぞれが、社会と経済の現実に適合し、かつ互いに適合し、関係者全員に一つの定義として“共有”されていたからである」
昭和30年代の初頭に「価格破壊」をスローガンとして、拡張路線をひた走った中内功さん率いる「ダイエー」がありました。「価格の決定権を消費者に取り返す」を信念として「いくらで売ろうとも、メーカーには文句を言わせない」の姿勢を貫き、メーカーと喧嘩しながらも「安売り」を決行し主婦の圧倒的な支持を受けました。
ドラッカーによると、「しかし、この世に永続するものはない。事業の定義が“陳腐化”する」「いささかなりとも事業に変調を来たしたならば、その事業の“環境”“自らの使命”“自らの強み”を現実に照らして点検しなければならない」。
現在のスーパー業界の売上高のランキング、第1位は「イオン」で、2位は「セブン&アイ・HD」と続いており、1位をひた走っていたはずの「ダイエー」は、2015年に株式公開買付けを受け「イオングループ」の一員(完全子会社)となってしまいます。ドラッカー流に言うならば「事業の定義」の点検を間違ったからです。どう間違ったのか、何が“陳腐化”したのかを拾いあげて行きます。
ダイエーの創業は1957年で、1955年ごろに始まる高度成長、大量消費という“事業環境”のなかで、より安い商品の提供を“使命”として、セルフサービス方式、チェーン展開等のローコストオペレーションを“強み”として、一気に波に乗って急拡大を実現させて行きました。この急拡大には、土地バブルの活用という特殊な要因もありましたが。
店舗進出にあたって土地を買い地価上昇で担保価値を高めて、それをもとに借り入れをおこして新たな土地を買い新店舗を開くというもので、だが、1990年代のバブル崩壊による地価下落と消費低落により、この好循環サイクルの“環境”は“陳腐化”して終焉を迎えるのです。止めは、1995年1月に起こった阪神・淡路大震災の発生でした。
ダイエーの凋落は、予期せぬ不幸もあってのことですが“環境”変化のあるなかで“定義の陳腐化”を放置して対応できなかったことによります。それよりも致命的だったのが、基本的な企業のあらねばならない“使命”をはき違えて“定義”誤謬を犯したことで、それがために繁栄をはかるための必須条件たる“強みの定義”が破綻したことです。
またドラッカーの言葉を引用します。
「組織が存在するのは、組織自身のためではない。企業をはじめとするあらゆる機関が、社会の機関である」「つまり組織は、世のため人のためのものである。世のため人のためのものになるとき、組織は繁栄する。逆に組織自身のためになったとき、あっという間に転落の一途をたどる」
イトーヨーカドーは、いち早くPOSシステムを導入し顧客の欲求に合わせた「品揃え」に努め、週一回の全店長会議で意思疎通と成功ノウハウの共有化をはかり、各店舗への権限移譲を促進させ地域の要望を取り込むなど、「顧客“欲求”を満たす」という“使命”順応の改革を行いました。その時期にダイエーが行ったのは、有能な人材の系列企業への派遣でした。