先日、リクルートキャリアが「AIによる就活生の内定辞退率予測」を企業に販売していたことが明らかになり、各所から批判や戸惑いの声が上がっています。合否の判定には使用されてはおらず、既に販売が打ち切られたとはいえ、後味の悪さは否めません。健康社会学者の河合薫さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、「採用の本来の姿」を記すとともに、企業の未来を左右するその採用活動に手間を掛けずAIに頼る姿勢を批判しています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年8月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
何のための採用なのか?
リクルートキャリアが、就活情報サイト「リクナビ」の閲覧履歴をもとに就活生の内定辞退率を予測して企業に販売していた問題で、トヨタ自動車とホンダが購入していたことが分かりました。
ともに合否判定には使っていないものの、トヨタは「辞退者を減らすため」、ホンダは「データを人事に活用するためのトライアルとして使った」と説明しています。
まったく…。開いた口が塞がりません。そもそもこのサービスは、リクナビが顧客企業から前年の内定辞退者の名簿を受け取り、どの企業をいつ、どれほど閲覧したかを人工知能で分析。その結果を踏まえて、就職活動中の学生が内定を辞退する確率を5段階で推測したものです。
おそらく数年前から「オワハラ(就活終われハラスメント)」が社会問題になったので、
「こんなサービスあるらしいぜ」
「AI予測か!いいね!」
「じゃ、とりあえず使ってみるか」
くらいのノリだったかのかもしれませんが、いったい何のための採用なのでしょうか?
もちろん人事部の人たちの気持ちがわからないわけではありません。
エントリーする学生が少なければ、「人数を集めないことには、いい人材なんて見つけられないだろ。内定辞退されて採用ゼロなんてことになったらどうするんだ」とプレッシャーをかけられ、採用した社員がいまひとつだったりすると、「ちゃんとした人材を採ってくれよ」と責め立てられる。
おまけに採用面接でちょっとでもキビしい質問をすれば、「○○会社は圧迫面接をするぞ!」とネットで拡散されるかもしれないので、相応の気を遣わなければなりません。
就活をする学生も必死なら、採用する企業の担当者も必死。そんな時「とりあえず」は格好の逃げ道となります。
とりあえずみんながやっていることをやった方が安心できるし、とりあえず学生を取り逃がさない施策をうっておけばうまくいかなかったときの言い訳になる。
でも、これって本末転倒ではないでしょうか。
そもそも企業にとって最大の課題は「人材を確保し、その人材を教育し、その人材を確保し続けること」。会社は新入社員に投資し、その投資が企業を支え、企業を成長させる人材にならないことには意味がありません。
そのためには「この会社で働きたい」という強い熱意を持つ学生を採用しなければならない。ただ「大企業だから~」とか、ただ「学生に人気があるから~」とか、ただ「休みが多そうだから~」という理由ではなく、「この会社の一員として、大変なことがあっても頑張っていきたい」「この会社の一員として、自分も成長したい」という覚悟ある学生と出会うには、採用する側が汗をかくしかないのです。その努力をせずにAI予測に手を出すとは…、実に残念です。
採用する過程は、自分たちの組織に適応できる人物かどうか、相性の良い相手かどうかを見極める重要な機会であるとともに、自分たちの仕事への思い、採用する思いを学生に伝える大切な時間です。
これまで取材させていただいたり、訪問させていただいた企業の中で、規模が小さくとも、世間的に知名度が低くとも、いい製品やサービスを生み出し成長し続けている会社は、必ずと言っていいほど採用に手間をかけていました。
自分たちの思い、自分たちのやってきたこと、自分たちの会社のことを学生たちに伝えるために、自ら大学に出向き、きちんと学生と向き合う時間を大切にしていました。いいことばかりではなく、悪いことも正直に伝え、「自分たちと同じ志を持って、いばらの道を歩いていこうという意志がアナタにはありますか?」と、直接学生と向き合い問うていました。
「就職先を志願する」ということは、人生の中で最も重みのある大切な行為の1つです。たとえその先に転職することがあろうとも、人生の時間軸で、共に歩む伴侶を見つける出会いであることに変わりありません。
特に最初に就いたキャリアは、その後のキャリアに大きな影響を及ぼすため重要な道標です。それだけに採用する側が汗をかき、自分たちの言葉を直に語りかけることが大切だと思うのです。
昨今の就活狂想曲にはさまざまな角度から異議を唱えてきましたが、遂にAIに、しかも日本を代表する企業が…、本当に残念です。
みなさまのご意見もお聞かせください。
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※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年8月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。