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ソフトバンクが予言。これから10年で起こる「産業界の大変革」

凄まじい勢いで進化を遂げるデジタルテクノロジーですが、ここからさらなる加速を見せるようです。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんは今回、ソフトバンクが主催した法人向けイベントのレポートを寄稿。同社の宮内謙社長執行役員兼CEOが基調講演で語った驚きの内容と、ソフトバンクが目論む「全産業のデジタル革命」を紹介しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

ソフトバンクの予言と決意

ソフトバンクの宮内謙社長執行役員兼CEOは7月19日、法人向けイベント「ソフトバンクワールド2019」(主催・ソフトバンク、SB C&S)の基調講演に立ち、「これから10年でかつて見なかったほどの産業界の変革が起こる。そのキーテクノロジーは、5G(第5世代移動通信システム)、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)と3つあり、これらが一斉にシンクロナイズしながら進化することで、全産業分野が刷新される」と予言した。

講演する宮内氏

その中でも、昨年ソフトバンクとトヨタ自動車が共同で設立した、自動運転車のサービスに取り組む、モネ・テクノロジーズ(MONET Technologies)に関するプレゼンテーションは、日本の基幹産業である自動車を再定義する意欲的なプラットホーム構築の試みとして目を引いた。

宮内氏はソフトバンクに入社して以来、パソコン、インターネット、携帯電話、スマートフォンがそれぞれ普及していくことによるパラダイムシフトを経験。今や通信ネットワークによって、動画や静止画、メールなどテキストデータ、音声で、世界中の人たちがつながるようになり、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に代表される新しい企業群が台頭したと解説。

1990年代以降のデジタルツールの普及によるパラダイムシフト

4Gの革新

しかし、GAFAが4G(第4世代移動通信システム)の技術で変革したのは、広告と小売の分野に限定されており全産業のうち6%(米国GDPベース)を再定義したに過ぎないと指摘した。そして今後10年、5G、IoT、AIの目を見張る発展により、残りの94%の産業が再定義される。

5Gの革新

世界最大級の経営コンサルティング会社、アクセンチュアによれば2030年にIoTによって生まれるマーケットは約1,400兆円とのこと。IoTだけでも、ビジネスに対する大きなインパクトを持っている。

また、これら3つのテクノロジーの恩恵を受けて、企業が飛躍的な成長を遂げるには、企業内に分散するデータ管理の統合一元化が不可欠と強調。顧客を完璧に理解するために、データ管理の一元化に取り組む必要性を訴えた。

最先端のテクノロジーによるコラボレーションを提案する講演や展示を行う法人向けのイベント、ソフトバンクワールドは今年で8回目。7月18日、19日の両日、東京都港区のザ・プリンスパークタワー東京にて、「ソフトバンクワールド2019」として開催された。

宮内氏の講演は前日の孫正義・ソフトバンクグループ会長兼社長の講演を受け、具体的な革新的企業の事例を紹介。さらに、ソフトバンクグループの新しい取り組みをナビゲートして、その部門の責任者が登壇し、現状の取り組みを報告する内容となっていた。

テクノロジーで日本を変える、デジタルデータによって本質的な競争力をつける、即ち「デジタル・ジャパン」が宮内氏の講演のテーマとして最初に提示された。

5Gのネットワークは3年以内に日本中に広がると宮内氏は断言。来年の4月には、スマートフォンなどの5G端末のリリースが予定されているとのこと。

韓国では、日本より一足早く今年4月中旬に5Gの端末が発売されたが、既に100万台以上を売り上げている。まさに爆発的ヒットとなっており、猛烈な勢いで伸びている。5Gの端末では、素晴らしく高画質な8Kの写真、動画が撮れ、再生できる。スポーツ番組などのコンテンツは、これまでになかった迫力、臨場感がある。

見なれた商品やサービスに広がっている大きなビジネスチャンス

IoTに関しては、これから1キロ平方メートルあたり100万台のセンサーが設置され、ありとあらゆる場所の機器がネットワークでつながってくる。そうなると、あらゆる種類のデジタルデータを活用できる時代がやってくる。

ネットワークの進化

2035年までには1兆台の機器がネットワークに間違いなくつながる。遅延もほとんど発生しないので、たとえば自動運転システムが具現化されるだろう。

では、膨大なデータをどうやって活用するのか。そこで必要なのがAIだ。今後20年でデータ量は2,450倍となり、ゼタバイト(10の21乗)というまさにビッグデータの領域に入ってくる。

一例を挙げれば、人間が画像認識をするよりも、AIのほうがもはや勝っていると宮内氏は指摘。人間の正解率95%に対して、AIは97.7%といったデータもあるほどだ。これからAIの進化はより加速していく。

5Gの普及に先んじた、先端的なデジタルデータの活用事例は主に海外にある。宮内氏は、近未来を先取りした海外の具体的事例を幾つか挙げた。

まず、店舗と顧客を結んだ、無人の自動運転による配達サービス。これは、米国のドミノピザが17年にフォードと、今年はソフトバンクが出資する米国ベンチャーのNuroと組んで、自動運転車を活用する実験を行っている。

ドミノピザがフォードと行った自動運転による配達

また、米国の大手スーパー、クロガーもNuroと組んで自動運転での配達に取り組んでいる。既存の車のテクノロジーに、センサーやカメラ、位置情報などが連動することで、人が乗車しなくても目的地まで商品を運搬することが可能になった。

米国4,000都市でサービスを行う、フードデリバリーのドアダッシュは、アプリで注文するとAIで距離による配達時間を即座に算出して顧客と共有、迅速な配達で大きな成功を収めている。アプリにはレコメンド機能や配達人の評価もできるようになっている。

中古不動産物件販売の米国のオープンドア・ラボ。売り手と買い手が不動産仲介業者なしにデジタルデータでつながりAIで価格を査定。最短2日で売買できるというものだ。

ウィーワークは、ニューヨーク発祥のネットで何の手続きもなく簡単にオフィスを借りられる仕組み。世界100都市以上に500を超える拠点を構え、日本には東京、横浜、大阪、京都、神戸、福岡、名古屋にオフィスがある。利用する人数に対応した柔軟なオフィスの提供が可能で、イベントによりメンバー同士の交流もできる。

中国の年間4億人が申し込む保険、Zhong An(衆安)。スマートホンを使ってオンラインで契約を完結しさまざまな種類の保険を申し込むことができる。支払いもスマートフォンで受け取れる。顧客管理、リスク分析、マーケティング、契約から支払いまでのプロセスなどに、ビッグデータ、AI、クラウドなどを活用。

これらのベンチャーは、基本は今までにあったサービスをデジタル化することで簡素化し収益性の高い事業に再構築されて、新しい顧客を開拓している。これはバイオテクノロジーのような見たことも聞いたこともない商品を、ゼロから新たに生み出す性格のものではない。アップデートのやり方次第で見なれた商品やサービスに大きなビジネスチャンスが広がっていることが知られよう。

モネ・テクノロジーズの世界観

ソフトバンクグループの新しい取り組みとして、モネ・テクノロジーズ(MONET Technologies)はソフトバンクとトヨタ自動車の共同出資により、18年9月に設立した、自動運転などによる次世代モビリティサービス(MaaSモバリティ・アズ・ア・サービスマイカーを除く交通手段をシームレスにつないで一体化したサービスと見る考え方)のプラットホームをつくる会社。

今年3月に日野自動車、本田技研工業、6月にはダイハツ工業、SUBARU、スズキ、マツダ、いすゞも出資し、日本の名立たる自動車メーカーが参集している。普段はライバルであるこれだけのメーカーが結集するのは異例のことだ。日本で走っている8,000万台の車のうち、約75%の6,000万台が同じプラットホームでつながる計算となる。

モネ・テクノロジーズのビジネスモデル

「あと3、4年もすればハンドルがない自動運転の車が登場してくる。ただ、今の日本には自動運転を受け入れる素地は残念ながらないと思われるので、今は1つ1つじっくりと課題の解決に向かって、事業を組み立てている」と、モネの宮川潤一社長兼CEOは語る。

モネ・テクノロジーズの事業イメージ

今は320を超える地方自治体と、その地域ごとの課題を洗い出し、オンデマンド交通、遠隔医療などの実証実験を進めているところだ。オンデマンド交通とは、顧客の予約が入った時のみ運行する公共交通で、バスとタクシーの中間のようなサービス。遠隔医療というのは、診察室が自動運転で患者の住む地域に移動して医師の診察は病院からオンラインの動画通信によって行うイメージだ。

オンデマンドバスの実験

企業との連携では、「モネコンソーシアム」という業種・業界の垣根を越えた交流団体を3月にスタート。当初、参加した企業は88社だったが、300社を超えるほどにまで増え、どのようなサービスが可能なのかを毎日議論している。サントリーホールディングス、コカコーラ ボトラーズジャパン、JR東日本、三菱地所などがメンバーに入っている。

モネのミッションとして、日本の基幹産業である自動車産業の新しい自動運転の基盤インフラとなることを目的としている。モネという共通のプラットホームの上で、各社の商用車がコンテンツとして動くイメージだ。

また、日本を悩ます少子高齢化、大都市への人口集中によって、地方の公共交通が衰退してしまっている、高齢者の危険な運転、中心市街地のシャッター通り化で買物もできない地域が増えている、といったような社会的な課題に本気で取り組むのを主眼とし、経済的損失の解消を狙っている。

MaaSというと、人と移動をつなぐもので、フードデリバリーのUber(ウーバー)を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、モネの世界観は目的型のMaaSで、ウーバーのような商品を便利に届けるための配車サービスとは異なる。人は一般に、お店なり病院なりの施設に自ら移動してサービスを受けに行くが、逆も真なりで、施設が人の居るほうに移動してくるサービスをモネは提案している。

ウーバーが宅配の進化形とすれば、モネは移動販売の進化形のようなものと考えられる。たとえば、固定して設置されている自動販売機は、人の流れに沿って場所を自動運転で移動したほうが、もっと販売効率が上がるのではないか。あるいは、今は自動販売機まで人が車で移動してきて飲料を補充して回っているのであるが、自動販売機のほうが自動運転で営業所まで移動して補充を行い、補充を終えたらまた指定された場所に戻っていくことができると、人手不足の解決になるだろう。これが、モネの考えるMaaSの一例である。

オフィス、コンビニ、行政が設置するトイレ等々、さまざまなものの移動形態が考えられるが、ビジネスを掘り下げるほどぶつかるのが規制の壁。不動産が動産に変わるという新しいビジネスモデルなので、たとえば現状はコンビニやカフェが、隣の市町村に行ってコーヒー1杯、ケーキ1個でも売るのも法律違反になるのを、いかに変えていくかが課題である。

また、1台の車の効率性を上げるにはマルチタスクを導入したいが、朝と夕はバス、昼は宅急便、夜は飲食のデリバリーとして使うとすると、それぞれ許可を出している省庁が違う。一筋縄には行かない。

道路、信号、法律、どれもが自動運転が可能な仕様になっているとは言い難い。自動運転車と運転が未熟なドライバーとの接触事故をいかに防ぐかは、AIを駆使してもなかなかプログラミングが難しいが、いろんな事例から学んで、歩行者を巻き込んだ大惨事になるのを防止するシステムを考案中だ。モネは官公庁、企業と協議しながら、自動運転サービスを始めるにあたって問題となることを発見し1つ1つ解決している段階にある。

デジタル化に尽きる成長戦略と構造改革

日本のGDPは、米国中国に次ぐ3位。しかし、米国・タフツ大学のバスカー・チャクラボルティ教授らが提唱するデジタルGDP(データ生産量、インターネット利用者数、1人当たりデータ消費量、データへの接し易さから算出)では11位という残念なデータもある。

日本のデジタル化の現状

デジタルGDPのトップ10の国は、米国、英国、中国、スイス、韓国、フランス、カナダ、スウェーデン、オーストラリア、チェコの順となっている。

ソフトバンクグループでは、デジタル化に後れを取った日本を覚醒させるエンジンとして、各産業界や政府・地方自治体と連携しながら、5GIoTAIを三位一体化させたインフラ整備をスピード感を持って進めていく方針。

宮内氏は「成長戦略も構造改革もデジタル化に尽きる」と言い切る。既存の産業にデジタルデータをくっ付けるだけで飛躍的な成長ができると、全産業のデジタル革命を目指す。

Photo by: Ned Snowman / Shutterstock.com

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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