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なぜ蔦屋書店は新業態店を札幌近郊の江別に出店し成功したのか?

昨年11月に開業した北海道江別市の蔦屋書店が、今なお客足好調だと日経新聞が報じ話題となっています。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さんは、江別 蔦屋書店の狙いと成功の秘密を探り、リアル店舗の経営者が学ぶべき戦略を伝えています。

蔦屋書店の北海道進出の狙いを読む

TSUTAYAの蔦屋書店が新しく北海道に昨年開業しました。日経新聞の記事によると、今も平日でも結構な人が来ているとのこと。蔦屋書店をなぜ北海道に、新しい業態の店舗を出したのでしょうか。今号では、その点をリアル店舗への集客、という視点で考えてみます。

なぜ札幌ではなく江別なのか?

蔦屋書店の新しい業態の店舗が話題です。まず、北海道に立てたこと、さらにそれも札幌ではなく、江別という、札幌からまた北のほうに行った街に作った、という点が興味を引きます。

記事によると、広大な土地があったこと、ライバルになる施設が周りにあまり何もないことなどもありますが、蔦屋書店は、札幌の地価や生活費が高騰して、ベッドタウンである江別市に住む人が増えているところに、まずは目をつけたそうです。

伸びている市場にチャンスを見出すことは、マーケティングの基本ですよね。

集客に必要なのはコンセプト

流通ニュースによると、この蔦屋書店のコンセプトは「田園風景でのスローライフ」。静かで、ゆったりした自然に囲まれた環境で過ごす、ということを意味しています。「食」、「知」、「暮らし」の3棟からなる、ライフスタイル提案型の大型複合書店として、開業したとのことです。

蔦屋書店の中身はいくつかの棟に分かれていて、「BOOK&CAFE」を中心に広々した空間に囲まれ、買い物をしつつ、本を探し、お茶を飲み、ご飯を食べ、また歩くことができます。

これまでも、東京や大阪、名古屋の蔦屋書店は、通常の本屋さんと比べて、スタバを併設していたり、本を読むスペースが充実していたりと、本を売るだけではなく、楽しめることが特徴でした。

今回の江別市の蔦屋書店は、その業態をさらに一歩進め、より一層様々な体験ができる業態になっていると言えます。なんだか、こうやって話をしていても、この蔦屋書店で買い物をして、ご飯を食べている自分の姿が想像できますよね。

理にかなっている蔦屋書店の戦略

単にモノを売ればいい、という時代では、品揃えや価格の安さがカギでした。しかし、ネット通販の台頭と、消費者の間への浸透で、品揃えや価格では、ライバルに対して、優位に立つことは難しくなってきました。

消費者は、何かを買う時に、どんな気持ちなのだろう、という点に焦点をあて、考え方を少しずらしてみると、その答えが見えてきます。人は、何かを買う時には、買うことができる場所に移動します。それがリアルな店舗だったり、ネット上のサイトだったりしますよね。

どうしても必要なもので、急ぐものは、コンビニやドラッグストアで買うかもしれませんし、思いついた時に、少し後でもいいから欲しいな、というものはネットで買うかもしれません。こういうものは、欲しいというよりも、必要だ、というニーズがあって、買おうという気持ちになりがちです。

ネット通販やコンビニ・ドラッグ以外の小売の業態では、欲しいという欲求を満たす商品のうち、すぐでなくてもいいけど欲しい、というようなものを、どのように買ってもらうか、と考えることが、差別化のポイントになります。

そこで、少しまえに話題になった、モノとしての商品にお金を使うのではなく、旅行やエンタメパークなど体験にお金を使う、「コト消費」という消費傾向がありました。

モノや情報が溢れている中、もう「どうしても欲しいものはない」ので、どうせなら楽しいことに使おう、という心理状態の消費者が増えた、という背景があります。

蔦屋書店から学ぶ~手法ではなくコンセプトを先に固める

ここ数年、ネット通販の台頭で、モノを買うのであればアマゾンや楽天で買う、すぐに欲しいのであればコンビニやドラッグストア、百円ショップ、ディスカウントストア、という感覚が消費者の頭の中にあります。なので、リアルな店を持つ場合は、「商品を売る」だけではなかなかECやドラッグストアなど、これらの業態のショップで済むため差別化ができません

そこで、「食べる」「楽しむ」などの、体験ミックス型消費ができる仕掛けをしていくことで、消費者が「行きたくなる理由」を作ることが必要になります。モノ消費からコト消費、そして体験消費に変わってきているトレンドを、しっかりと捉えた今回の蔦屋書店の新業態と言えます。

蔦屋書店の新業態から学べることは、事業のコンセプトをはっきりさせたことにあります。コンセプトとは、誰をよろこばせ、そのために何を提供できるのか、ということです。

江別の蔦屋書店は、札幌に通うベッドタウンに住む若いファミリー層や独身男女たちに、平日も週末もゆったりと過ごせる空間を提供していくことが、そのコンセプトになるのです。これを「田園風景でのスローライフ」と表現したのです。まさに言い得て妙というか、ポイントをつかんでいる表現だと思います。

単にモノを売るだけでは価格競争になるし、ネット通販には勝てません。そこで体験型消費を提案するのですが、その際に重要なことは「誰に楽しんでもらうのか」と、「何で楽しんでもらうのか」という、その場所のコンセプトを固めることです。

人は居心地のいい場所に集まります。そして、来店頻度が高いほど、また、滞店時間が長ければ長いほど、お金を使ってくれます。

地域の住民の変化を見据えチャンスを見つけた上で、コンセプトを固めた蔦屋書店の、このプロセスから学べることは、目先の手法論や値下げなどを決めるよりも先に、消費者ニーズを把握した、わかりやすいコンセプトを固めたことに尽きます。

image by: PR Times

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